錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

第三百九話

この世界の人間は悪意を溜めるとすぐに変質させられるから実験のしがいがあるのがとても良い。
あのバケモノ共も容易に操れるのも凄く良い。
別に求める世界の住人が人間で無くたっていいのだから。

「さぁ、アレに植え付けた因子はどうなっていったかな？」

アレとはアグニの事である。
アレに植え付けた因子の効果が高ければこの世は全て手に入る。
そう思うだけで笑みが零れる。
精霊達も言う事を聞かせてしまえば全てを掌握出来うるだろう。

「さぁ、ここからが新たな時代の幕開けだ！！！」

おや…？　アレに反応があるな。
抗おうとしている？　あの龍や神には不完全なモノしか植え付けられなかったがアレは違う。
抗える余地があるというのか？　完璧なモノが出来たはずだったというのに。

「お前が主犯格か」

突如現れたのは狼男とでも称そうか。
漆黒の毛並みを持つ其れは明らかに敵意を持ちこちらに接して来ている。

「さてな」

「惜しいな。　その技術…。　人の役には立てるつもりは無かったのか」

愚かな。　全くも愚かな。

「自分以外の事を気に掛ける必要があるだろうか？　こんな素晴らしい知識を、力を得て尚！　成さぬと言うのか！」

「この地へと舞い降りて壊れたか。　悪いがここは管轄外だ。　なので我は貴様を裁けぬ。　ではな」

こんなチャンスは無い。
こいつにも因子を植え付けて…！

「なっ！　なにが…」

手元にあった黒い因子。
他の者は核だの魔石だのと呼ぶモノだ。
それが全て輝きを失い…死んでいる状態だった。

「貴様を裁く事はせぬ。　が、その石の中の魂達は送った」

「な、なんてことをおおおおおおおおおお！！！」

「これはいかんな。　これ以上ここに留まってはいけなさそうである。　あとは任せたぞ、我らが子よ」

そう言ってその黒い狼男は消えて行った。
許せない…否、許さない。
次に会ったら必ず、必ず…。

「そう言えば我らが子とは誰の事だ」

一つ思い浮かぶ者は居る。
あの偽物の錬金術師か。
奴をいたぶり、なぶり散らし、あいつの首を先ほどの奴への手土産としてやろう。

今に見ていろ…。

「む？　ネズミが入り込んだか。　手練れの様だ。　ふぅむ…」

ドロドロと異形が彼を包み、武具へと姿を変える。

「多少の手練れならばコレを使っても壊れてくれるなよ？」

唯一つ、彼の思考にテイルは無かった。
ただの腕利きの侵入者と。

ドス…ドス…ドス…。
歩く度に異様な音が鳴る彼。

その先に”誰”が居るのかも分からずに異様な音と共に只々歩みを進める。