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プロローグ (1)
しおりを挟むお仕事、クビになりました。
いつも通りに寝台の布団を綺麗に直しながら、ふと窓の外を見ます。
いい天気ですね。洗濯物が良く乾きそうです。お散歩をするのも良さそうですね。
布団を整えた後、私は部屋を出ます。
すると、部屋の外に私の上司であるファクトリー高官様が待ち構えていました。
相変わらずのメガネの似合いっぷりです。
「エミカ。少しよろしいですか?」
言葉と同時に顎クイ。呼び出しのようです。
私、何かしましたっけ?
謎に思いながらも、上司命令には逆らえる訳もなく、彼の後についていきます。
いつもよりも、高官様の護衛騎士が多いのは、気のせいなのでしょうか。
呼ばれた場所は、事務部屋。相変わらず殺風景です。
高官様が机に座って私はその正面に立ちます。私達を囲むように護衛騎士が並んでいて、何かやらかした人の気分になります。
「これは何ですか?」
そう言われて高官様の後ろに立っていた護衛騎士が私に見えるように袋を差し出します。
それをそのまま受け取ると、私は袋の中を見ます。小瓶に液体状の何かが入っている様です。
薬。
薬ですね。
薬にしか見えません。
なので私の答えは決まっています。
「何かの薬でしょうね」
高官様は目をすっと細めました。
「貴女の薬ではないのですか?」
私の薬?
これは私がいつも飲んでいる薬とは違いますけど。
ちなみに飲んでいる薬とは、魔力の流出を防ぐためのものです。魔力については後ほど。
今はそれどころではないので。
「検査の結果、この薬は毒薬だということが分かりました」
毒薬ですか。それは危険ですね。
「そしてこの薬は貴女の部屋から見つかったものです」
なるほど。貴方達はレディの部屋に勝手に入るような人だったのですね。
いや、重要なのはそこではなく。
「この毒薬、よく暗殺などに使われるものでして。一口飲めば致死量になってしまいます」
なんだか読めてきましたよ。
これはもしかすると――
「貴女はカイルドルト殿下の暗殺を企んでいたのですか。今まで殿下に尽くしていたような貴女が……。とても残念です」
やはり。暗殺の疑いをかけられています。
というか彼の中では確実となっているようです。
あ、カイルドルト殿下というのは、私の主様です。水色の髪に深い海のような青い瞳をした美青年で、ここ、ブルイパル王国の第二王子様。現在12歳です。
私達彼の側近は皆カイト様とお呼びしています。
通称『月の貴公子』と呼ばれる程無表情で、怖がられがちなのですが、私の前では結構笑って頂けるので、嬉しい限りです。
私、カイト様の笑顔、大好きです。
「カルバート殿下ともご相談させて頂き、貴女の処分が決まりました」
わかっていると思いますけど一応言っておきます。
私、暗殺しようと思ってませんから。というか、暗殺するような人がいたら、逆に返り討ちにして差し上げます。
補足しておきますと、カルバート殿下というのは、カイト様の兄上様で、ブルイパル王国の第一王子様です。
この高官様の主様ですね。
「エミカ・ヒラトメ。侍女の仕事はクビ。この国を出ていきなさい。追放命令です。荷物をまとめなさい。カイルドルト殿下に会うことは許しません」
――追放命令、ですか。
不思議と、暗殺未遂の冤罪をかけられても、怒りは感じません。
今まで良くして下さった方々へ会えなくなることへの悲しみ、なぜこうなったのかという疑問、そして――
カイト様に何も言わずに離れる事への罪悪感。
「普通、暗殺未遂は死刑問題なのですが、私もそうするほど冷酷ではありません。カルバート殿下も、国王陛下も、追放に賛同されました」
それはそれは。貴方の優しさのおかげで私は死刑にならずに済んだと。
「出ていきなさい」
そう冷たく命令され、それ以降何も言われません。
護衛騎士に追いやられるように、私は自分の部屋に駆け込みました。
最後にちらりと見えた高官様の顔。
笑っているようでした。
そして、私は判断しました。
――嵌められたんだな、と。
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