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6 明るい明日へ
笹生と里見
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笹生さん。夏休みに外出禁止。何して過ごしてるんだろう。わたしが仕事してる間とか。
「明日朝9時に、学校のカウンセリングルームで面談するから、登校して」
要件をいきなり言ってみる。
「わかりました」
笹生さんは、勉強の手をとめて返事をして、すぐまた勉強に戻る。
「ね、図書室で何か借りてきてあげようか?」
「大丈夫です」
そっけない。いつも通りなんだけど、やっぱりそっけない。
「わたしが仕事行ってる間、何してるの?」
パチパチとまばたきをして、わたしの顔を見る。笹生さんて、目が大きくてかわいいなあ、なんて思う。
「だいたい宿題してます」
「でもそれじゃ楽しくなくない?」
「だから罰なんじゃないですか?」
あ、そっか。いや、そっか、じゃなくて。
「わたし、笹生さんのことが心配。ストレスたまって、病気になっちゃうんじゃないかって」
プッ。笹生さん、笑った。
「明日、カウンセリングするから大丈夫です」
まだ笑っている。大丈夫、かな?
「あの。笹生さん、わたし、あなたに謝らないといけないなって思ってて」
昨日から言いたかったことを今、言ってみる。
「笹生さんがどうして寮則破るようなことしたのか。すごく心配してるんだけど、取り乱して、泣いてばっかりで昨日何にも出来なかったから。本当にごめんなさい。こんな、頼りない寮監で。廣瀬先生も今、いないし」
ヤバい。言いながら自分の情けなさにまた、泣きそうになってくる。廣瀬先生がいたら、フォローしてもらえるのに。わたしだけじゃ何にもできない。
「わたし、先生に何かしてもらいたいとか、そういうのないんで」
そう言いながら、笹生さんは、シャーペンを手から話して、わたしにしっかりと向き合う姿勢になる。
急に立ち上がって頭を下げた。
「昨日本当は昨日、しないといけなかったんですけど」
ちょっと間が空く。
「心配かけて、本当にすみませんでした」
しばらく2人とも何も言えなくなる。
「あ、頭上げて」
そっと肩に触れてみる。細い。こんなに華奢だったんだ。
頭は上げたけれど、まだ照れくさいのか目を合わせてはくれない。
「ちょっと座ろっか」
部屋の真ん中の丸テーブルに向かい合って二人で座る。
「お茶、いれるね」
ポットから急須にお湯を注いで温める。その間に、茶葉を選んで、ちょっといい紅茶をいれることにする。
ポットを温めたお湯をカップに移して、茶葉をポットにいれる。お湯を注いでカバーかけて、入念に蒸らす。
笹生さんは、正座でかしこまって座っている。お説教される、とでも思ってるのかも?
紅茶を二人分いれて、テーブルに置き、笹生さんの斜めの位置に座る。
「昨日、楽しかった?」
「え?」
カップを持ったまま、笹生さんが不思議そうな顔をしてわたしを見る。
「どこで何をしていたかは、聞かない。笹生さんのことだから、危ないことをしていたとは思ってないから。でも、門限過ぎてから、どんな気持ちだったのかは気になる」
しばらく2人が紅茶をフーフー吹く音だけが部屋に満ちる。
「笹生さん、猫舌?」
「はい。さっき、ポットもカップも温めてたから、熱そうで」
「うん。熱いと思う」
また、フーフー。
目は合わさない。カップを見たまま、笹生さんがゆっくり話し出す。
「怖かったです」
わたしは、笹生さんの顔から目が離せなくなる。なにが?なにが怖かった?
「もう、門限に間に合わないなって思ったときから、ずっと怖かったです」
不意にそうしたくなって、笹生さんの背中を撫でる。そっと。ずっと。
「明日朝9時に、学校のカウンセリングルームで面談するから、登校して」
要件をいきなり言ってみる。
「わかりました」
笹生さんは、勉強の手をとめて返事をして、すぐまた勉強に戻る。
「ね、図書室で何か借りてきてあげようか?」
「大丈夫です」
そっけない。いつも通りなんだけど、やっぱりそっけない。
「わたしが仕事行ってる間、何してるの?」
パチパチとまばたきをして、わたしの顔を見る。笹生さんて、目が大きくてかわいいなあ、なんて思う。
「だいたい宿題してます」
「でもそれじゃ楽しくなくない?」
「だから罰なんじゃないですか?」
あ、そっか。いや、そっか、じゃなくて。
「わたし、笹生さんのことが心配。ストレスたまって、病気になっちゃうんじゃないかって」
プッ。笹生さん、笑った。
「明日、カウンセリングするから大丈夫です」
まだ笑っている。大丈夫、かな?
「あの。笹生さん、わたし、あなたに謝らないといけないなって思ってて」
昨日から言いたかったことを今、言ってみる。
「笹生さんがどうして寮則破るようなことしたのか。すごく心配してるんだけど、取り乱して、泣いてばっかりで昨日何にも出来なかったから。本当にごめんなさい。こんな、頼りない寮監で。廣瀬先生も今、いないし」
ヤバい。言いながら自分の情けなさにまた、泣きそうになってくる。廣瀬先生がいたら、フォローしてもらえるのに。わたしだけじゃ何にもできない。
「わたし、先生に何かしてもらいたいとか、そういうのないんで」
そう言いながら、笹生さんは、シャーペンを手から話して、わたしにしっかりと向き合う姿勢になる。
急に立ち上がって頭を下げた。
「昨日本当は昨日、しないといけなかったんですけど」
ちょっと間が空く。
「心配かけて、本当にすみませんでした」
しばらく2人とも何も言えなくなる。
「あ、頭上げて」
そっと肩に触れてみる。細い。こんなに華奢だったんだ。
頭は上げたけれど、まだ照れくさいのか目を合わせてはくれない。
「ちょっと座ろっか」
部屋の真ん中の丸テーブルに向かい合って二人で座る。
「お茶、いれるね」
ポットから急須にお湯を注いで温める。その間に、茶葉を選んで、ちょっといい紅茶をいれることにする。
ポットを温めたお湯をカップに移して、茶葉をポットにいれる。お湯を注いでカバーかけて、入念に蒸らす。
笹生さんは、正座でかしこまって座っている。お説教される、とでも思ってるのかも?
紅茶を二人分いれて、テーブルに置き、笹生さんの斜めの位置に座る。
「昨日、楽しかった?」
「え?」
カップを持ったまま、笹生さんが不思議そうな顔をしてわたしを見る。
「どこで何をしていたかは、聞かない。笹生さんのことだから、危ないことをしていたとは思ってないから。でも、門限過ぎてから、どんな気持ちだったのかは気になる」
しばらく2人が紅茶をフーフー吹く音だけが部屋に満ちる。
「笹生さん、猫舌?」
「はい。さっき、ポットもカップも温めてたから、熱そうで」
「うん。熱いと思う」
また、フーフー。
目は合わさない。カップを見たまま、笹生さんがゆっくり話し出す。
「怖かったです」
わたしは、笹生さんの顔から目が離せなくなる。なにが?なにが怖かった?
「もう、門限に間に合わないなって思ったときから、ずっと怖かったです」
不意にそうしたくなって、笹生さんの背中を撫でる。そっと。ずっと。
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