41 / 112
3 ひと皮むけて
廣瀬からのお仕置き
しおりを挟む
「水谷先生、今日の特訓なしでも良いですか」
放課後の職員室、水谷先生に声をかける。
「はい。このところ、指導案のストックもだいぶ出来てきましたし、お休みにしても大丈夫です」
「じゃ里見先生、今日、お仕置き決行ね」
かねてからの計画を今日は実行しよう。なんとなく、試験も研究授業も終わった今日が良い。
「廣瀬先生、わかっておられるとは思いますが、体罰は犯罪ですから」
水谷先生が生真面目にわたしに忠告してくる。
「あー。もしかして、わたしが里見先生のお尻をペンペンするとでも思ってらっしゃる?」
「違うんですか」
「違うんですか」
里見先生と声がかぶる。水谷先生はたぶんわたしの冗談に悪ノリしているだけだが、あっちはどうやら、本気で怯えていたようだ。
「人を叩くのは暴行罪、怪我をさせたら傷害罪。そのくらいの常識は弁えてます。わたし、犯罪者になる気はサラサラないんで」
「じゃ、お仕置きってなんですか」
「それ言っちゃうと面白くないじゃないですか。明日、里見先生の報告を待っていてください。じゃ、帰るよ」
「はい」
お先失礼しまーす。2人で肩を並べて出て行く。水谷先生が多少心配そうな顔をしているけれど、大丈夫。大事な妹を傷つけたりはしませんて。
寮の資料倉庫。ここに歴代寮生の反省文が全部保管してあることに気がついたのは、春休みのこと。読んでみると、なかなか示唆に富む内容のものもあり、年代別に箱に入れられているのを、ファイリングしたくなった。
白雪の反省文は、なんらかの不都合があった場合に、その原因を究明し、再発防止につなげるために書くもの。寮生の反省文のほとんどは、同室の者同士のケンカによるもので、ケンカの理由も実にたわいもないものばかり。だが、再発防止策のなかには、人間関係を構築していく上で役に立ちそうなものもあり、なかなか勉強になる。
そして、3年弱の寮生活を送った里見先生も、それなりの量、反省文を残していた。自分の過去の反省文を仕事としてファイリングするなんて、まあ、罰ゲーム以外の何物でもなかろう。そう思って、里見先生には、お仕置きだ、と言っておいたのだが。まさか体罰に怯えていたとは。らしいといえばらしいが、わたしのことどう思ってるのよ、とも思う。
「これを全部、ファイリングするんですかー」
箱を見ながら、どこか愛莉は嬉しそう。あなたは新しいものから、わたしは古いものからファイリングしていこう、と分担を言い渡して、早速作業にかかる。愛莉は多分すぐに自分の過去に当たるはずだ。
「これ、わたしのもあるんですよね。まさか、保管されてるとは思わなかったなあ」
「さっきからなんか嬉しそうだね」
「嬉しいっていうか、懐かしいですね。わたし、片付けが下手でよく同室の先輩に叱られて、反省文書いたんですよ」
「反省しても直らなかったんだね」
つい皮肉を言ってしまう。
「再発防止策がズレてたんでしょうね」
本当に懐かしそうな顔になってきたの見て、つい。2人で里見愛莉の反省文を読んでみることになる。これじゃ、お仕置きじゃなくて、ご褒美だな。
「先輩はいつも、わたしにひどいことを言った件を反省していたんですね。知らなかったなあ」
同室の2人の反省文は、同じ案件としてセットで保管されている。提出前に互いのを見せ合うことはなかったらしい。ひどいことを言った原因は、ついイラッとしてしまったこと。片付けが出来ない原因は、わからない。なるほど。
「今度から里見さんにイラッとしたら、深呼吸をします、だって。これ、水谷先生に教えてあげたら?」
「深呼吸したって鬼度は下がりませんよ。だってあれ、演技ですもん」
はっ?今なんつった?
「水谷先生は、本当はイラッとしてるとか、怒ってるとかじゃないんですよ。わたしがポンコツだから、あえて鬼を演じてわたしを引き締めてるだけで、感情的にガミガミやってるんじゃないんです」
へー。全然気がつかなかった。
「まー、演技でもこっちは本気で怖いですけど」
「ときどき泣いてるもんね。さ、作業しよう」
「はい」
2人で黙々と歴代の反省文にパンチ穴をあけて、ファイリング。今年の分は、どのくらいになるのだろう。
放課後の職員室、水谷先生に声をかける。
「はい。このところ、指導案のストックもだいぶ出来てきましたし、お休みにしても大丈夫です」
「じゃ里見先生、今日、お仕置き決行ね」
かねてからの計画を今日は実行しよう。なんとなく、試験も研究授業も終わった今日が良い。
「廣瀬先生、わかっておられるとは思いますが、体罰は犯罪ですから」
水谷先生が生真面目にわたしに忠告してくる。
「あー。もしかして、わたしが里見先生のお尻をペンペンするとでも思ってらっしゃる?」
「違うんですか」
「違うんですか」
里見先生と声がかぶる。水谷先生はたぶんわたしの冗談に悪ノリしているだけだが、あっちはどうやら、本気で怯えていたようだ。
「人を叩くのは暴行罪、怪我をさせたら傷害罪。そのくらいの常識は弁えてます。わたし、犯罪者になる気はサラサラないんで」
「じゃ、お仕置きってなんですか」
「それ言っちゃうと面白くないじゃないですか。明日、里見先生の報告を待っていてください。じゃ、帰るよ」
「はい」
お先失礼しまーす。2人で肩を並べて出て行く。水谷先生が多少心配そうな顔をしているけれど、大丈夫。大事な妹を傷つけたりはしませんて。
寮の資料倉庫。ここに歴代寮生の反省文が全部保管してあることに気がついたのは、春休みのこと。読んでみると、なかなか示唆に富む内容のものもあり、年代別に箱に入れられているのを、ファイリングしたくなった。
白雪の反省文は、なんらかの不都合があった場合に、その原因を究明し、再発防止につなげるために書くもの。寮生の反省文のほとんどは、同室の者同士のケンカによるもので、ケンカの理由も実にたわいもないものばかり。だが、再発防止策のなかには、人間関係を構築していく上で役に立ちそうなものもあり、なかなか勉強になる。
そして、3年弱の寮生活を送った里見先生も、それなりの量、反省文を残していた。自分の過去の反省文を仕事としてファイリングするなんて、まあ、罰ゲーム以外の何物でもなかろう。そう思って、里見先生には、お仕置きだ、と言っておいたのだが。まさか体罰に怯えていたとは。らしいといえばらしいが、わたしのことどう思ってるのよ、とも思う。
「これを全部、ファイリングするんですかー」
箱を見ながら、どこか愛莉は嬉しそう。あなたは新しいものから、わたしは古いものからファイリングしていこう、と分担を言い渡して、早速作業にかかる。愛莉は多分すぐに自分の過去に当たるはずだ。
「これ、わたしのもあるんですよね。まさか、保管されてるとは思わなかったなあ」
「さっきからなんか嬉しそうだね」
「嬉しいっていうか、懐かしいですね。わたし、片付けが下手でよく同室の先輩に叱られて、反省文書いたんですよ」
「反省しても直らなかったんだね」
つい皮肉を言ってしまう。
「再発防止策がズレてたんでしょうね」
本当に懐かしそうな顔になってきたの見て、つい。2人で里見愛莉の反省文を読んでみることになる。これじゃ、お仕置きじゃなくて、ご褒美だな。
「先輩はいつも、わたしにひどいことを言った件を反省していたんですね。知らなかったなあ」
同室の2人の反省文は、同じ案件としてセットで保管されている。提出前に互いのを見せ合うことはなかったらしい。ひどいことを言った原因は、ついイラッとしてしまったこと。片付けが出来ない原因は、わからない。なるほど。
「今度から里見さんにイラッとしたら、深呼吸をします、だって。これ、水谷先生に教えてあげたら?」
「深呼吸したって鬼度は下がりませんよ。だってあれ、演技ですもん」
はっ?今なんつった?
「水谷先生は、本当はイラッとしてるとか、怒ってるとかじゃないんですよ。わたしがポンコツだから、あえて鬼を演じてわたしを引き締めてるだけで、感情的にガミガミやってるんじゃないんです」
へー。全然気がつかなかった。
「まー、演技でもこっちは本気で怖いですけど」
「ときどき泣いてるもんね。さ、作業しよう」
「はい」
2人で黙々と歴代の反省文にパンチ穴をあけて、ファイリング。今年の分は、どのくらいになるのだろう。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる