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2 新年度スタート
他人の荷物を持つな
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「里見先生、水谷先生、ちょっとよろしいですか?」
教頭先生から声がかかる。2人で教頭先生の前に立つ。
「さきほどの研修の件ですが、わたしの指導は間違っていました。申し訳ありません」
何のこと?水谷先生の顔を見るけど、先生もキョトンとしている。
「ですので、お二人に指導のやり直しをします」
なんだ?なんだ??
「まず、里見先生」
「はい」
「私への回答の締め切りが過ぎてしまった、というのは、やはりあなた自身のミスとして、しっかり反省してください」
「申し訳ありません」
「今回はあなた自身の研修申込みでしたが、これが生徒の受験申込みであったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。我々教員の仕事は、生徒の人生に関わる締め切りをときに抱えています。そのことを肝にめいじて、二度とこのようなミスをしないように」
「はい。申し訳ありませんでした」
「それから水谷先生」
「はい」
「この件はやはり、里見先生のミスなのですから、まずは里見先生の責任において、処理されなければなりません」
「はい」
「社会人は自分の行動に責任を持たなければなりません。それは、義務でもあり、権利でもあるのです」
ん??話が難しい。
「水谷先生は、里見先生をかばったのかもしれませんが、同時に里見先生が責任をとる権利を奪ったともいえるのです」
「里見先生、あなたは、自分でわたしにミスの報告をしなければならない、と感じていたのではなかったかしら?」
「はあ」
戸惑いが隠せず、中途半端な返事をしてしまう。たしかに、わたしが謝ったほうが良いんじゃ?とは思ってたけど。
「人を育てたり、援助したりする人が、心得なければならないことの一つに、人の荷物を持つな、ということがあります。人が成長するのに必要な負荷、負わなければならない責任を勝手に奪い取ることが、時として人の成長を妨げたり、心に負担を残したりする。そういう戒めです。
この場合、水谷先生は、里見先生を連れて、ともにわたしのところに報告に来るべきでした」
「はい。申し訳ありませんでした」
水谷先生は、背筋をきれいに伸ばしたまま、教頭先生に向かって頭をさげてから、すぐにわたしの方を向き
「里見先生、申し訳ありませんでした」
わたしにまで、謝っていただかなくても。
「したがってお二人ともに、本件をしっかり反省していただきたいと思います。反省文を書いて提出してください。これでお説教は以上」
もう一度2人で頭をさげて、席に戻る。
「里見先生、原稿用紙の場所、ご存知ですか?」
「あ、わからないです」
「こっちですよ」
水谷先生と一緒に原稿用紙を取りに行く。叱られたんだけど、なんだかちょっとすっきりした。
教頭先生から声がかかる。2人で教頭先生の前に立つ。
「さきほどの研修の件ですが、わたしの指導は間違っていました。申し訳ありません」
何のこと?水谷先生の顔を見るけど、先生もキョトンとしている。
「ですので、お二人に指導のやり直しをします」
なんだ?なんだ??
「まず、里見先生」
「はい」
「私への回答の締め切りが過ぎてしまった、というのは、やはりあなた自身のミスとして、しっかり反省してください」
「申し訳ありません」
「今回はあなた自身の研修申込みでしたが、これが生徒の受験申込みであったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。我々教員の仕事は、生徒の人生に関わる締め切りをときに抱えています。そのことを肝にめいじて、二度とこのようなミスをしないように」
「はい。申し訳ありませんでした」
「それから水谷先生」
「はい」
「この件はやはり、里見先生のミスなのですから、まずは里見先生の責任において、処理されなければなりません」
「はい」
「社会人は自分の行動に責任を持たなければなりません。それは、義務でもあり、権利でもあるのです」
ん??話が難しい。
「水谷先生は、里見先生をかばったのかもしれませんが、同時に里見先生が責任をとる権利を奪ったともいえるのです」
「里見先生、あなたは、自分でわたしにミスの報告をしなければならない、と感じていたのではなかったかしら?」
「はあ」
戸惑いが隠せず、中途半端な返事をしてしまう。たしかに、わたしが謝ったほうが良いんじゃ?とは思ってたけど。
「人を育てたり、援助したりする人が、心得なければならないことの一つに、人の荷物を持つな、ということがあります。人が成長するのに必要な負荷、負わなければならない責任を勝手に奪い取ることが、時として人の成長を妨げたり、心に負担を残したりする。そういう戒めです。
この場合、水谷先生は、里見先生を連れて、ともにわたしのところに報告に来るべきでした」
「はい。申し訳ありませんでした」
水谷先生は、背筋をきれいに伸ばしたまま、教頭先生に向かって頭をさげてから、すぐにわたしの方を向き
「里見先生、申し訳ありませんでした」
わたしにまで、謝っていただかなくても。
「したがってお二人ともに、本件をしっかり反省していただきたいと思います。反省文を書いて提出してください。これでお説教は以上」
もう一度2人で頭をさげて、席に戻る。
「里見先生、原稿用紙の場所、ご存知ですか?」
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「こっちですよ」
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