4 / 4
責任の所在
しおりを挟む粘液質な白い液体が顔を覆う。火傷しそうに熱いものをかけられ、口と鼻を覆われ呼吸が苦しい。キアナは一気に酔いが醒めた。
「くっ、なんだ?これは?新手の魔物の罠か!」
手のひらで顔を拭い、視線を上げれば……。
「キアナ……正気に戻ったのか?これで拭けよ」
どろどろの陰部丸出しで、妙にスッキリした顔のモーシャスがいた。モーシャスは呆然とする、キアナの顔をタオルで拭う。
「 ええええ??な、なななななななな、ぜぜぜモーシャス貴様!私のテントに居るのだ!
それに、なななんで、下半身丸出しなんだ!
くっ、顔にまとわりつく、こ、この白いねばつく液体。
ま、まさか!出したのか?私の顔に!
何を考えているんだモーシャス、破廉恥だぞ!」
「はあっ……覚えてないのか?破廉恥なのはキアナの方だぜ」
「な、なんだと!私の何処が破廉恥だと……いいから、早くこ股間のブツをしまえ」
チラチラ見える一部が気になってしょうがない。
「良いのか?
キアナの好きなふかふかキンタ枕しまっても」
「え?」
キアナの時間が止まった。
走馬灯のように頭を巡るのは、強引にモーシャスの股間に顔を埋め、スリスリした自らの過ち。
酔っぱらっても、記憶を無くす体質ではなく。この体質を今日ほど悔やむことはなかった。
『お祖父様!ふかふかキンタ枕して下さい!』と、童心に返り甘えた。
モーシャスの陰茎を抜こうと引っ張り、舐めて。
………。
…………。
うああああー!!
完全なる痴女でしかない。
うそ、私の人生終わった。
キアナは、全てを思い出し……そして、気を失った。
◇◇◇
翌日、救護用テントで目覚めたキアナは、軍医に頼みモーシャスを呼び出してもらった。
モーシャスは気を失ったキアナの顔を清め、運んでくれたのだった。
「すまなかった!モーシャス!!如何なる処罰も受けよう」
開口一番キアナは、モーシャスに謝り綺麗な土下座した。
「土下座は止めろ。
処罰ね………なんに対してだ?」
口角をあげて意地悪くモーシャスは笑った。
「とぼけるな、昨夜のことだ!」
土下座から顔を上げてモーシャスを睨む。
「何のことだ?
んーっ。
ああ、お前が俺の股間をふかふかキンタ枕にしたことか?」
白々しく嘯くと自分顎を撫でた。
「ーーーっ!!そうだ!その事だ!………あんなことして、悪かったな。その、気持ち悪い思いをさせてすまなかった」
キアナは顔を真っ赤にして謝った。
「悪くなかった……衝撃的な、初めての経験だったな」
たいへん気持ちよく、従順なキアナが可愛く欲情したとは言えなかった。
「は、初めての経験?」
まさか……モーシャス童貞だったのか?あんなに女性に言い寄られていたのに。
騎士団に若い女性が手紙とか差し入れを持ち、毎日のように押し掛けていた。
まあ、モーシャスは、すげなく追い返していたが。理想が物凄く高いとか、道ならぬ本命女性がいるのかと噂になっていた。
もし、本当に童貞だとしたら悪い事をした。本命女性に操を捧げたかったろうに。
キアナは、大いなる勘違いをしていた。モーシャスは、童貞ではない。
騎士団に押し掛ける女性に手を出さないのは、食指が動かないからだ。
あからさまに私弱いので、守って下さいっと誘惑されると引いてしまう。性欲は、後腐れのない娼館で適度に発散していた。
私がふかふかキンタ枕の誘惑に負けたがために、童貞は奪っていないにしても、純粋なモーシャスの思いを汚してしまった。
私は偉大なる将軍ダンの孫娘。
逃げも隠れもしない。
責任は、とらなければならない。
生唾を飲み込むと、キアナはモーシャスの両手を硬く握りしめた。
「モーシャス……すまなかった。責任はとる!私と結婚してくれ」
前代未聞の逆プロポーズをかましたのだった。
◇◇◇
夕餉のあと、暖かい暖炉の火がソファーを照らす。そこに座っているのは、逞しい父親と美しい少女の姿。
「お父様は、お母様の強くて背中を預けられるところが好きなの?」
「そうだ、安心する」
愛しい娘を膝に乗せながらモーシャスは答えた。
「えー?変なの。お父様、お母様の背中が好きなの?可愛いとか、綺麗とかじゃないの?」
おしゃまな長女アリサは、予想外の答えに不満そうに唇を尖らせた。
「アリサはバカだな。戦地じゃ、背中を預けられるって、一番重要なんだぜ」
最近、団長の父親と共に騎士団に出入りするようになった長男アーサーがしたり顔で口を挟む。
「ふーんだ」
アリサはツーンと顔を背けた。
「それよりさ、騎士団の人に聞いたんだけど。お母様が付き合ってもいなかったお父様のテントに押し掛け、いきなり求婚したって本当?」
「ぶっふっ!!」
キアナは飲もうとした紅茶を吹き出した。覚悟をしていたが、とうとうこの日が来てしまった。
子供に夫婦の慣れそめを聞かれると言う恐ろしい日が。子供に嘘は言いたくないが。
「本当なんだね!」
「まあ?本当ですの?お母様!」
キラキラした瞳で娘が見ている。そんな美しい物語など皆無だ。
ちらっと最近白髪の生え始めたモーシャスを見ると、ニヤリと口角をあげた。
さあ、どうする?お手並み拝見と言ったところか。
「……だったから」
「え?なになに?」
「お母様!もっと!大きな声で!」
「旦那様は………私の理想(キンタ枕が)そのものだったからよ!」
キアナは、やけっぱちで叫んだ。
もちろん、キンタ枕が……は、心の中だけで叫んだから、親の威厳は守れたはずだ。
「きゃー!お母様情熱的だわ」
アリサは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
「お母様って、そんなに情熱的だっけ?まあ勘違いは多いけど」
さすが息子よ、勘が鋭いな。
実は、モーシャスを童貞と勘違いしたのよ……などと死んでも言えない。
童貞じゃないと気づいた初夜に抱き潰されて気を失った。こん棒を受け入れられる女性の逞しさよ。
処女喪失の日を思い出し、そんな日もあったなと、キアナは遠い目をした。
「キアナに情熱的に求められて、俺も可愛いと思ったから結婚したんだ」
少し照れ臭そうにモーシャスが言った。
「え?思ってたの?」
「思ってなかったら結婚しないさ。可愛い妻のために毎夜枕になって癒しているだろう?」
モーシャスは、愛しい妻を後ろから抱き締めた。
〈終わり〉
0
お気に入りに追加
26
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
寡黙な彼は欲望を我慢している
山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。
夜の触れ合いも淡白になった。
彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。
「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」
すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】【R18】素敵な騎士団長に「いいか?」と聞かれたので、「ダメ」と言ってみました
にじくす まさしよ
恋愛
R18です。
ベッドでそう言われた時の、こんなシチュエーション。
初回いきなりR18弱?から入ります。性的描写は、普段よりも大人向けです。
一時間ごとに0時10分からと、昼間は更新とばして夕方から再開。ラストは21時10分です。
1話の文字数を2000文字以内で作ってみたくて毎日1話にしようかと悩みつつ、宣言通り1日で終わらせてみます。
12月24日、突然現れたサンタクロースに差し出されたガチャから出たカプセルから出て来た、シリーズ二作目のヒロインが開発したとあるアイテムを使用する番外編です。
キャラクターは、前作までのどこかに登場している人物です。タイトルでおわかりの方もおられると思います。
登場人物紹介はある程度話が進めば最初のページにあげます
イケメン、とっても素敵な逞しいスパダリあれこれ大きい寡黙な強引騎士団長さまのいちゃらぶです。
サンタ×ガチャをご存じの方は、シンディ&乙女ヨウルプッキ(ヨークトール殿下)やエミリア&ヘタレ泣き虫ダニエウ殿下たちを懐かしく思っていただけると嬉しいです。
前作読まなくてもあまり差し障りはありません。
ざまあなし。
折角の正月ですので明るくロマンチックに幸せに。
NTRなし。近親なし。
完全な獣化なし。だってハムチュターンだもの、すじにくまさよし。
単なる獣人男女のいちゃいちゃです。ちょっとだけ、そう、ほんのちょっぴり拗れているだけです。
コメディ要素は隠し味程度にあり
体格差
タグをご覧下さい。今回はサブタイトルに※など一切おきません。予告なくいちゃいちゃします。
明けましておめでとうございます。
正月なのに、まさかのクリスマスイブです。
文字数→今回は誤字脱字以外一切さわりませんので下書きより増やしません(今年の抱負と課題)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
マフィアな彼から逃げた結果
下菊みこと
恋愛
マフィアな彼から逃げたら、ヤンデレ化して追いかけて来たってお話。
彼にとってはハッピーエンド。
えっちは後半がっつりと。
主人公が自業自得だけど可哀想。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!
いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。
含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。
♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。
★ハッピーエイプリルフール★
他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。
以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。
◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる