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責任の所在
しおりを挟む粘液質な白い液体が顔を覆う。火傷しそうに熱いものをかけられ、口と鼻を覆われ呼吸が苦しい。キアナは一気に酔いが醒めた。
「くっ、なんだ?これは?新手の魔物の罠か!」
手のひらで顔を拭い、視線を上げれば……。
「キアナ……正気に戻ったのか?これで拭けよ」
どろどろの陰部丸出しで、妙にスッキリした顔のモーシャスがいた。モーシャスは呆然とする、キアナの顔をタオルで拭う。
「 ええええ??な、なななななななな、ぜぜぜモーシャス貴様!私のテントに居るのだ!
それに、なななんで、下半身丸出しなんだ!
くっ、顔にまとわりつく、こ、この白いねばつく液体。
ま、まさか!出したのか?私の顔に!
何を考えているんだモーシャス、破廉恥だぞ!」
「はあっ……覚えてないのか?破廉恥なのはキアナの方だぜ」
「な、なんだと!私の何処が破廉恥だと……いいから、早くこ股間のブツをしまえ」
チラチラ見える一部が気になってしょうがない。
「良いのか?
キアナの好きなふかふかキンタ枕しまっても」
「え?」
キアナの時間が止まった。
走馬灯のように頭を巡るのは、強引にモーシャスの股間に顔を埋め、スリスリした自らの過ち。
酔っぱらっても、記憶を無くす体質ではなく。この体質を今日ほど悔やむことはなかった。
『お祖父様!ふかふかキンタ枕して下さい!』と、童心に返り甘えた。
モーシャスの陰茎を抜こうと引っ張り、舐めて。
………。
…………。
うああああー!!
完全なる痴女でしかない。
うそ、私の人生終わった。
キアナは、全てを思い出し……そして、気を失った。
◇◇◇
翌日、救護用テントで目覚めたキアナは、軍医に頼みモーシャスを呼び出してもらった。
モーシャスは気を失ったキアナの顔を清め、運んでくれたのだった。
「すまなかった!モーシャス!!如何なる処罰も受けよう」
開口一番キアナは、モーシャスに謝り綺麗な土下座した。
「土下座は止めろ。
処罰ね………なんに対してだ?」
口角をあげて意地悪くモーシャスは笑った。
「とぼけるな、昨夜のことだ!」
土下座から顔を上げてモーシャスを睨む。
「何のことだ?
んーっ。
ああ、お前が俺の股間をふかふかキンタ枕にしたことか?」
白々しく嘯くと自分顎を撫でた。
「ーーーっ!!そうだ!その事だ!………あんなことして、悪かったな。その、気持ち悪い思いをさせてすまなかった」
キアナは顔を真っ赤にして謝った。
「悪くなかった……衝撃的な、初めての経験だったな」
たいへん気持ちよく、従順なキアナが可愛く欲情したとは言えなかった。
「は、初めての経験?」
まさか……モーシャス童貞だったのか?あんなに女性に言い寄られていたのに。
騎士団に若い女性が手紙とか差し入れを持ち、毎日のように押し掛けていた。
まあ、モーシャスは、すげなく追い返していたが。理想が物凄く高いとか、道ならぬ本命女性がいるのかと噂になっていた。
もし、本当に童貞だとしたら悪い事をした。本命女性に操を捧げたかったろうに。
キアナは、大いなる勘違いをしていた。モーシャスは、童貞ではない。
騎士団に押し掛ける女性に手を出さないのは、食指が動かないからだ。
あからさまに私弱いので、守って下さいっと誘惑されると引いてしまう。性欲は、後腐れのない娼館で適度に発散していた。
私がふかふかキンタ枕の誘惑に負けたがために、童貞は奪っていないにしても、純粋なモーシャスの思いを汚してしまった。
私は偉大なる将軍ダンの孫娘。
逃げも隠れもしない。
責任は、とらなければならない。
生唾を飲み込むと、キアナはモーシャスの両手を硬く握りしめた。
「モーシャス……すまなかった。責任はとる!私と結婚してくれ」
前代未聞の逆プロポーズをかましたのだった。
◇◇◇
夕餉のあと、暖かい暖炉の火がソファーを照らす。そこに座っているのは、逞しい父親と美しい少女の姿。
「お父様は、お母様の強くて背中を預けられるところが好きなの?」
「そうだ、安心する」
愛しい娘を膝に乗せながらモーシャスは答えた。
「えー?変なの。お父様、お母様の背中が好きなの?可愛いとか、綺麗とかじゃないの?」
おしゃまな長女アリサは、予想外の答えに不満そうに唇を尖らせた。
「アリサはバカだな。戦地じゃ、背中を預けられるって、一番重要なんだぜ」
最近、団長の父親と共に騎士団に出入りするようになった長男アーサーがしたり顔で口を挟む。
「ふーんだ」
アリサはツーンと顔を背けた。
「それよりさ、騎士団の人に聞いたんだけど。お母様が付き合ってもいなかったお父様のテントに押し掛け、いきなり求婚したって本当?」
「ぶっふっ!!」
キアナは飲もうとした紅茶を吹き出した。覚悟をしていたが、とうとうこの日が来てしまった。
子供に夫婦の慣れそめを聞かれると言う恐ろしい日が。子供に嘘は言いたくないが。
「本当なんだね!」
「まあ?本当ですの?お母様!」
キラキラした瞳で娘が見ている。そんな美しい物語など皆無だ。
ちらっと最近白髪の生え始めたモーシャスを見ると、ニヤリと口角をあげた。
さあ、どうする?お手並み拝見と言ったところか。
「……だったから」
「え?なになに?」
「お母様!もっと!大きな声で!」
「旦那様は………私の理想(キンタ枕が)そのものだったからよ!」
キアナは、やけっぱちで叫んだ。
もちろん、キンタ枕が……は、心の中だけで叫んだから、親の威厳は守れたはずだ。
「きゃー!お母様情熱的だわ」
アリサは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
「お母様って、そんなに情熱的だっけ?まあ勘違いは多いけど」
さすが息子よ、勘が鋭いな。
実は、モーシャスを童貞と勘違いしたのよ……などと死んでも言えない。
童貞じゃないと気づいた初夜に抱き潰されて気を失った。こん棒を受け入れられる女性の逞しさよ。
処女喪失の日を思い出し、そんな日もあったなと、キアナは遠い目をした。
「キアナに情熱的に求められて、俺も可愛いと思ったから結婚したんだ」
少し照れ臭そうにモーシャスが言った。
「え?思ってたの?」
「思ってなかったら結婚しないさ。可愛い妻のために毎夜枕になって癒しているだろう?」
モーシャスは、愛しい妻を後ろから抱き締めた。
〈終わり〉
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