私に番なんて必要ありません!~番嫌いと番命の長い夜

豆丸

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長い夜②

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 私、アザレナ・ラインボルクは竜人の母ミレイと兎獣人の父との間に生まれた。母は魔力の強い高位神官、父は平民。番も見つからず200年独身だった母が働き者で誠実だった父を見初めた。婚姻に反対意見も多かったが、父が多淫な兎獣人だったため、子が出来にくい竜人でも子が望めるかもしれないと最終的には許された。 
 母と父は番ではなかったけど、お互いを思いやり幼い私から見ても仲睦まじい夫婦だった。 
  
父の番が現れるまでは……。 
  
 父は番に夢中になり母と私は蔑ろにされる。家庭を顧みない父。父は母の家のお金を番に貢ぎ派手に遊ぶようになり、生活が荒れた。 
  
 それでも、父の番が妊娠したと聞いた母は「番には勝てないわ、仕方ないわ」と、寂しく笑うだけ。 
  
 母は婚前に父と契約書を交わしていて。お互いに番が現れなら身を引き、生活に困らないだけの財産を与えるというもの。 
  
 父とその番は与えられた財産に満足せず、もっと寄越せとわめき散らした。挙げ句の果てに母に神官職を譲れと脅すようになる。神官職は女神より任命され代々、竜族が受け継いできた重要職。簡単に譲れるものではない。 
  
 母に拒絶され父は逆恨みし、母を殺そうと画策した。浅はかな父は、あろうことか暗殺者を雇う金を母に請求し投獄された。 
 竜の母の長い寿命を分け与えてもらっていた父は、母が婚姻終了届けを教会に提出した翌日、命の供給が無くなり炭化し消えていった。 
 父の番相手は赤子を産むと子供を置き去りに逃げてしまう。 
  
 今、その子供を育てているのは、母ミレイ。母は300年待った番が現れて幸せそうだ。自分を裏切り殺そうとした男と旦那を奪った女の子供。エリオットっと名付けられた私の腹違いの弟を慈しむ。彼が成人し、つがう日を心待ちにしている。
 
 父も母も、私にとっては気持ち悪い……番なんて大嫌い。父に番が現われなければ良かった。家族がバラバラにならずにすんだのに。 
  
 私は番なんて認めないし、必要ない。父のようにも母のようにもなりたくない!  
 竜の幼体は異性の精を摂取することにより成体となる。番を否定し恋愛もしたくない私は100年経っても幼体のまま……。
  
 事件以来、私は番抑制薬を飲むようになる。抑制薬は、自分の番の匂いをなくし相手の匂いも解らなくなる!番だと誘拐されるのを怖れた人族が身を守る為に作った薬。私に必要なモノだった。
  
 
 
◇◇◇  
  
  
 騎士団の魔法部隊副隊長の私は、隊長に緊急召集を受けて、中庭を急く。 
 
 その途中、芝生に座る見たくもない銀髪と犬耳を見つけてしまう。 
  
 ルーク・アシュレイ、私の天敵!来るもの拒まず、去るもの追わずのヤリチンの分際で番の素晴らしさを語り散らす極悪人! 
 
 奴の両親は、幼なじみで番で仲睦ましく子沢山だそうだ。幸せな両親を見て育った奴は、番に夢みる番馬鹿。(ヤリチンのくせに) 
 まだ見ぬ番の為に童貞を貫けば、まだ尊敬の余地はあったのに。性欲と番は別問題らしい。 
 
 都合のいい戯れ言をほざく。そう、認める……私は、こいつが気に入らない。
 
「……やっぱり俺の番は、ボン、キュ、ボンの妖艶な美女だな!」 
「ルーク副隊長!贅沢ですよ。昨夜のメロディちゃんも美人だったでしょうが!」 
「……美人なだけじゃな。親父が番とヤると他の女じゃたたないって言ってたぜっ!」 
「へー、そうなんですか?」 
 部下とくだらない話をしている。ルークも騎士団第二部隊副隊長、奴も隊長に召集されているはず…。
「ルーク副隊長、隊長に緊急召集されてませんか?油を売ってる暇があるのですか?」 
 芝の上動くルークのしっぽを踏んづけて、ぐりぐりしてやる。 
 
「い、痛って!!お前なにしっぽ踏んでるんだよ!!」 
 
「あら?すいませんね?番、番とうるさかったので、つい……」 

「……ははっ?アザレナ嫉妬か?……あいにくお前は俺のタイプじゃないんでね……ペッタンコはな~っ」ルークはニヤニヤ笑うと私の胸で視線を止めた。 
 
「自惚れないでください、嫉妬なんかするはずないでしょう?」 
 私はルークのしっぽを渾身の力で、もう一度踏みつけた。 
「―――――――っ!!!!!!!!」
 
  
  
  
 この世界レタは四人の女神によって創られ、護られている。 
 四季を現す女神のうちの1人、夏の女神マーヤ。彼女は気まぐれで苛烈な嘘の嫌いな性格だった。夏至祭マーヤの誕生日のその日、毎年神託のあった行事をその都度開催する。 
 
 今年は女神ご希望の水かけ祭になるはずだった……祭まで二週間、気まぐれなマーヤから新たな神託が降りた。 
 
「やっぱり夏はスイカよ!スイカ祭に変更ね~!」 
 女神の心変わりに教会は混乱を極めた。女神がやれと言うのだやるしかない……困った教会は祭の準備を女神騎士団(私たち)に丸投げした。 
  
 準備は多忙を極める。第一部隊は町人、商人を巻き込み、水かけ祭の飾りを全て撤去し、スイカの新しい飾りを急ピッチで作成、設置に取り掛かる。 
  
 魔法部隊は、スイカの種を植え魔法で生育させる。スイカ投げ大会用の拳大のスイカと早スイカ食大会用の薄いスイカ、オブジェ用のお化けスイカ……様々な大きさのスイカが大量に必要なため、連日徹夜が続いた。 
 
 成長したスイカは次々に魔法塔から町に運ばれた。魔法を使える者自体少数なため、交代もいない。 
 忙しさにトイレすらままならず、食事はポーションをがぶ飲みした。魔力と体力がつき、倒れる同僚を無視して自館に帰れるはずもない……番抑制薬を切らしても、それどころではなかった。 
  
 
「お疲れさん!設営は一区切りついたぜ!出来たスイカ運ぶぞ……これか?」 
 今日の運搬係りの第一騎士団はルークたちのようだ。相変わらず騒がしい男。
 
「すげえ数だな?……おおっ!こっちのスイカ、オークのおっぱいみたいにバカデカイなっ!」ルークは、私たちの汗と涙の結晶のスイカをポンポン叩く。 
 
「ルーク!ぐたらないことを言ってないで!スイカ壊さないで下さい!」 
「ばーか!壊すかよ」 
 ルークは、スイカをボールのように上に投げてキャッチした。部下たちが諌めても無視をして、ニヤニヤと私を見た。 
 
「ちびっこに取れるか?」 
「……ケンカ売ってます?買いますよ!」 
 私はつかつかとルークに近づくと、下からルークの顔を睨み付けた。幼成体の私の身長は彼の臍上の高さしかない。 
  
 腰を屈めルークのニヤニヤと小馬鹿にした顔が近づく。腹がたったので、バチッと両手でルークの頬を挟んでやった! 
  
 ルークは、鼻を引くつかせる。はっと、何かに気付いたかのように、アイスブルーの瞳が大きく見開かれた。 

「う、う、う、嘘……嘘だろう?」 
 わなわな震え、その場に座りこんでしまう。手に持っていた大きなスイカが床に転がる。 
「ルーク!大切なスイカに傷がつきます」 
 私は、慌ててスイカを回収し胸に抱えた。 

「お、おおおお前!!俺の番だったのか!」  
「は?ルーク、馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが、本当に馬鹿だったんですね?私があなたの番なわけありませんよ!」  
 
「馬鹿は余計だ!!お前から番の甘い匂いがビンビンするんだ」 
「ルーク!血迷ったのですか?」 
「血迷ってない!はあっ…すげえ甘い匂い……」  
 ルークは、スイカごと私を抱きしめると、首筋の匂いを嗅ぎ出した。フンフン鼻息がかかる。 
「こ、こら!鼻息かけないで。ルーク、離しなさい!私は番抑制薬を飲んでいます。臭いは一切しないのです!………あっ!今、薬を切らしていました……」 
 まさか、薬を切らしたこのタイミングで番に見つかるとは大失態。しかも相手は番馬鹿のルークなんて、最悪しかない。 
  
 番は、優秀な子供が沢山産まれる。教会も番の結婚を推奨し、もし結婚しない場合は番解除の手続きが必要だった。早急に手続きをしなければ……。

「ちっ!薬を飲んでたから、今までわからなかったのか……探してた番がこんな近くに居たなんて!!」 
 ルークの抱きしめていた手が私の体をまさぐり始めた。さわさわと太ももをお尻を背中を這い回る。ぶわわっと悪寒が走る。
 
「…あっ」 
 
「く~っ。俺の番は、絶対ボン、キュ、ボンの妖艶な美女が良かったのに!なんでつるぺたのお子さまなんだよ!!この体に勃起するのか俺?………いや、親父は番とヤると他の女じゃ勃たないって言ってたな!物凄~い名器に違いない!おい!アザレナ、やらせろ!!」 
  
 私は、渾身の力でルークに頭付きを喰らわすと、胸に抱えていたスイカを振りかざした。狙うはルークの頭である。 
 
「おい、やめろ。そのすいかをそっと降ろせ!」
 魔法塔にルークの絶叫が響いた。 

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