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◯◯◯しないと出られない塔②
しおりを挟むーー風はセシルとローズマリーを塔の中に案内すると、急速に凪いだ。
「くっ、ここは塔の内部か?」
セシルが剣を構え警戒しながら辺りを見回した。見た目より狭く塔の中は20畳ほどの広さだった。
外壁と同じく不思議な素材が使われて、丸い床の一面に不思議な模様が刻まれた淡く発光していた。内部は空洞で吹き抜けのようになっており、壁に添って作られた螺旋階段が上まで続いていた。
「お、収まりましたの?嫌ですわ……髪が乱れてしまいましたわ」
フードを外し髪を撫で付けるローズマリーをセシルが怒鳴った。
「魔女、警戒を怠るな!
魔物か罠か何が出てくるかわからないんだからな」
「小言は必要ありませんわよ……魔物なんて出現いたしませんから……嫌ですわ、肌にも砂が張り付いていますわ」
「……なぜ魔物が出ないとわかるのだ?……まさか、この魔塔のことを知っているのか?」
訝しげな顔のセシルがローズマリーの表情を伺う。
「っ!オーホホッ、セシル卿はお馬鹿さんですの?このわたくしが知るわけありませんわ!塔の内部に微々たる魔物の気配も感じられないからですわ。セシル卿も気配を探れば御理解いただけますわ」
「……確かに魔物の気配はしない。魔女、どこに罠があるかわからない以上、あちこち勝手に触るなよ」
セシルに念を押された後、二人は一階の調査を開始した。一階には扉も窓もトラップさえ見つからなかった。
「一階にはなにもないか……これ見よがしにある螺旋階段。これを登れば何かあるのか?」
「早く行きますわよ」
ローズマリーが我先にと螺旋階段を上り始めた。
「……今日の魔女は任務に積極的だな?扉の二の舞は御免だ。後ろに下がれ俺が先導する」
「……わかりましたわ」
素直にローズマリーは後ろに下がった。これ以上セシルに怪しまれるのは得策ではない。
こつこつと長い螺旋階段を無言で昇っていく。壁から漏れる淡い光がセシルとローズマリーの二人の影を時折重ねて一つにした。
体感にして20階ほど上がっただろうか、視界にピンク色の扉が見えてきた。
ど派手なショッキングピンクに、たくさんの大小のハートで飾られた扉。塔の内壁にそぐわず存在事態が異質で浮いて見えた。
セシルは扉に罠が施されていないか聖魔法で確認すると、恐る恐るハート形のドアノブに手をかけた。
「趣味の悪い扉だ…新手の心理的な罠か?」
セシルに眉間の皺を増やし、ドアがゆっくりと開いていく。粛々とドアが開くのを感無量でローズマリーは見守った。
ああ、少し、もうすぐですわ!
あと少しで、この3日間のローズマリーの努力が報われるのだ。
二人が入室した一面ピンク色の部屋。その部屋の一番良く見える場所に高々と抱えられた張り紙。
そこにはーー。
『ここは中出ししないと出られない塔です!仲良く元気に励んで下さい!』と、大きく書かれていた。
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