がらくた置き場~SS集

豆丸

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世界を救うため俺は魔王の息子におっぱいを押しつけることにした!SS

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 「式典などくだらない」
 つまらなそうに鼻を鳴らし、長い足を組み換えるデリル。俺は引きつく笑顔を張り付けたまま、再度説明した。 

「…だからさ人間は魔族とは違って脆くて壊れやすいんだ。握手で拳を握り潰すなんて論外だからな」

「はっ、弱いだけで罪だ」
 ツンツンと固そうに天を向く金髪。まだ成長途中の二本の角に生意気そうにつり上がった三白眼。ニヤリと笑う口から僅かに覗く牙。
 強靭な肉体と高い魔力を宿した人間とは違う生き物、恐ろしいほどの美貌を持つ魔族。

 まだ青年に差し掛かっていない少年に近い見た目の彼は現魔王の息子、デリルガイデモリューバー・クリエンシアだった。名前は長ったらしいのでデリル様と呼ばせてもらってる。 
 デリルは、魔王代理で2ヶ月後の和平調停式典に参加予定だ。
 式典の準備と人間社会を学ぶために2ヶ月前から国賓として城に滞在中。
 
 この度めでたく人間と魔族の和平が成立される。嘘のような話だろ?

 実は…聖剣を奪うためのデリルの罠なんだけどさ。 

 勇者が持つ聖剣は魔王を封印することが可能なただひとつの武器。
 冒険の中で勇者が女神様から授かったものだ。デリルは聖剣を奪い、本当に和平を願う現魔王を封印し自ら新しい魔王として世界を壊滅的に破壊するのだ。
 
 デリルは、酷く人間を憎んでいる。
 
 何故なら彼は魔王と人間の聖女の間に産まれて人間に迫害されてきた。
 裏切り者として捕らえらた母は息子を逃がし、自らは断頭台に消えた。
 その頃父である魔王は、腹心からの裏切りで生死をさ迷っており妻子を助けられなかった。
 後悔した魔王は息子を保護し、後継者として育てる。魔王は本当に聖女を愛していたから妻の切望した人間との和平を叶えようとしていた。本当は妻を殺した人間を許せないだろうに……いい男だな。 

 デリルは、その二人の思いを踏みにじる。

 世界を壊滅させたデリルも真に愛する人と結ばれ覚醒した勇者カロルに討ち滅ぼされることになる。

 え?何で俺がそれを知ってるかって?
 それは、この世界が弟が遊んでいたエロゲーム『ハーレム&ハーレム』の中だからさ。
 クソだっさい名前のこのゲームの世界に最近流行りの転生をしたらしい。 

 『ハーレム&ハーレム』はその名前の通り勇者は世界中を冒険しながら行く先々の女の子に手を出す。  
 パーティーキャラはもちろんモブに至るまでヤりたい放題だ。正直…羨ましい限り。
 俺も可愛い子とヤりまくりたい!……こほん。
 すまん、錯乱した。
 このゲームで注意すべきは、真に愛する人を選ぶと勇者とエッチしたのに選ばれなかったその他のキャラはデリルに惨殺されるというクソ仕様なことだ。

 ハーレム解散で揉めるの面倒くさいから殺しとこうってことか?シナリオライタークソすぎだろ?

 愚痴っているが俺が転生したキャラもパーティーメンバーでハーレム要員の一人だ。 
 水色のふわふわ長髪に同じ色の垂れ目で目元に黒子あり。巨乳に露出過多の衣装に身を包むお姉さん、万能型魔法使いのユーリー・ヒューバードという。彼女は初期メンバーの一人。
 勇者に手を出されなくともエロイベントの多いキャラだった。主にモンスターに凌辱される系だ。オーク、スライム、触手、産卵等々である。
 勇者に手を出されると何処でもエロはもちろんのこと愛する勇者のために売春までしてしまう。非常に痛いキャラだ。まあ、このゲーム痛いキャラ多いんだけどさ。
 そんな彼女の隠れ固有エロスキルは『魅惑のおっぱい』という。おっぱいに触れた者を魅力させるスキルだ。戦闘中にも乳を露出させ振り乱し敵に迫る。 
完全なる痴女。
 なんだよ。このスキル…やっぱりシナリオクソだな。 絶対にやらないからな。

 因みに、俺の前世は男だ。
 ユーリーに転生はしたけど男の勇者のハーレムの一因になるつもりも、魔物に襲われたくもない。
 
 ゲーム知識を生かし服は清楚で防御力の高い装備に変えた。口調も男言葉そのままだから、最早別キャラだ。そしてことごとくエロイベントをへし折り勇者から逃げて未だに処女を守ってる。うん、俺偉いぜ! 

 勇者は順調にハーレムの人員を増やした。時たま思い出したように俺にもちょっかいをかけてきた。幼なじみの僧侶アンリがハーレム要員なので、彼女を悲しませたくないからと言い訳し拒否してる。

 アンリは嫉妬させ過ぎると闇落ちして、自爆魔法に勇者を巻き込むバットエンド娘。勇者も警戒しているようだし。 

 俺というイレギュラーが居たが、物語はすでに終盤。この2ヶ月後の式典でデリルは本性を現す。聖剣は奪われ、魔王は封印されてハーレム要因キャラを含め沢山の人間と魔族が死んでしまうのだ。 

 そう……勇者に選ばれなければ幼なじみのアンリも、踊り子のシシリーもエルフのハーマリもシーフのアドナも……あれ?俺以外のパーティーメンバーほぼ死ぬのか? 
 村娘のカンナちゃんもシスターマリアも未亡人のサクライさんも……クソ勇者、節操無さすぎだ。

 俺はたまたま転生して知ってたから逃れられただけ……みんなに死んでほしくない。 

 誰も犠牲にしたくなくて、ネズミ張りの脳みそで死ぬほど考えた…結果閃いたのだ。
 
 諸悪の根源デリルを俺の固有エロスキル『魅惑のおっぱい』で、メロメロに魅力させる。そして、そのまま和平調停書に調印させればいいのだ。

 人間を魔族を想像した女神に誓う調印は誓いを破れは何らかのペナルティーを受ける。デリルも五体満足でいられず、世界を壊滅出来ない。
 

 今の首もと手首まで隠した地味な装備じゃダメだな……化粧もしないとだ。元男の俺にお洒落はわからない。デリルを陥落させるため俺は踊り子のシシリーに相談した。 


 バッチリの化粧に豊かなおっぱいを強調した色気のある衣裳を纏う、いざ出陣じゃ! 
 幸い勇者の好感度の一番低いパーティーメンバの俺がダリルの世話役を任命された。調停式を滞りなく行わせるための勉強係も兼ねている。
 だからさデリルとの接点は多い。クソ怠いと思っていたが、世話役の立場を有効利用させてもらうぜ。  
 俺は意気揚々とデリルの部屋に向かったのだ。


 デリルは部屋の鍵も掛けずベッドに横になり読書をしていた。魔族の護衛を煩わしいと祖国に追い返した彼はいつも一人だ。
 
 手にいれたい聖剣は調停式まで結界に護られ神殿に安置されてるから、多分暇なんだろう。組んだ片足が所帯なさそうにぶらぶらしていた。

「邪魔するぜー。デリル様って今暇か?」

「っ、なんだ…貴様か。俺様が忙しそうにみえるか?」
 本をベッドに投げ、デリルが上半身を起こした。
 さっと俺の爪先からあたまのてっぺんに視線を走らせると、不機嫌そうに顔をしかめた。 

「……その服は…なんだ?仮装大会か?」

「変か?デリル様と出掛けようと思って、着替えてきたんだぜ」
 どうだと胸を張れば、前に強調されたおっぱいがぷるりと揺れた。
 揺れたおっぱいにデリルが一瞬だけ目を止めた。さすが俺の『魅惑のおっぱい』勝算はあるぞ!

「っ……俺様と出かける?お前が?気が触れたのか?」
 
「変わった奴だと言われるが、気は触れてないぞ。デリル様は魔王から人間社会を偵察してこいって言われてるんだろう?……だから行こうぜ!上手い店連れてってやるからさ」

「断る…人間から学ぶことなど一つもない」
 
「まあまあ、そんなこと言わないでくれよ。デリル様と出掛けたくてわざわざお洒落してきたんだぜ」
 
 俺は腕を組み顔を反らすデリルの腕に自分の腕を強引に絡めた。チャンスとばかりにデリルの腕におっぱいをぽにょんと押し当てた。
 さあ、『魅惑のおっぱい』の出番だ。少しは魅了されてくれよな。

 デリルはおっぱいの感触に固まったのち、石化を解くと静かに口を開いた。 

「……勇者はいいのか?」
 
「は?勇者?あんな女たらしごめんぜ…俺はお前と行きたいんだ……ダメか?」 
 おっぱいをポニョポニョ押し付けつつ、上目遣いで伺う。シシリーに付け焼き刃で伝授された色気技だ。照れ臭いが仕方ない。みんなの命が掛かってるのだから。

「なあ?頼むよ」
「はっ、何を企んでるか知らんが……そこまで言うなら行ってやろう」
 満更でもない顔で立ち上がったデリル。やったぜ第一段階は成功だ。 

「デリル様!感謝するぜ。早く行こう」
 純粋に嬉しくて満面の笑みになる。
 気が変わらないうちに急げと、不敬だとか殺されるかもの余計な考えを頭のすみっこに押しやり、逞しい手をぐいぐい引いた。

 デリルは不審な顔で俺を見たけど、手を振り払うことはしなかった。密着距離に居座ることに成功だ。チャンスがあったらおっぱいを押しつけてやるぞ。
 
 俺も町に出るのは久しぶりだ、折角だから楽しもう!自然と気合いが入る。  


 町は魔王との和平に沸き立ちいつにも増して活気だっていた。王城に続く大通りは露店で賑わう。
 国賓には庶民的過ぎるかもしれないけど、馴染みの屋台で焼き鳥の盛り合わせを頼んだ。屋台前の簡易テーブルにつくと、焼き鳥の半分を取り分け皿に乗せデリルの前に置いた。 

「全種類制覇しような。量が多いから俺と半分だけど我慢してくれ」 
 ニパッと笑うと肉汁滴る焼き鶏にかぶりついた。

 うめぇー!
 皮はパリパリに焼けて中は柔らかくジューシーだ。香辛料が良い塩梅で効いてる。 

「…なんで俺様が、庶民の飯なんかを」
 ぶつくさ囁くデリルをちらりと見た。全く減ってないな。

「おっ、いらないのか?
 上品な魔族の王子様のお口には合わなかったか?こんなに上手いのに勿体ないなー。俺が食うよ」

「食わんとは言ってない」 
 伸ばした俺の箸を振り払うと、デリルは焼き鳥に口をつけた。
 一口食べれば美味しいと解ったようで、無言で食べ続け、大量の焼き鳥の山はあっという間に無くなってしまう。 

「なっ、上手いだろう?」 

「…悪くはない」 
 素直に褒められず、ふんと鼻を鳴らす。
 
 気を良くした俺は自分の残りをデリルの前に置いた。女の体の俺には量が多過ぎたようだ。 

「悪くないなら、もっと食えよ」 

「…貴様の残りをか?」 
 あからさまに嫌そうな顔をする。

「そんなに嫌か?箸つけてねえし、俺は変な病気は持ってねえぞ」
 不特定多数と致した勇者はどうかわからないけどな。心の中でクソ勇者に毒づきにがら、ふっといたずら心が浮かんだ。この前、アンリが勇者にしてたな。 

「俺が食わしてやるから、箸借りるぞ」 
 さっと横からデリルの箸を奪う。

「おい!」

「どうぞデリル様、あーんして?」
 俺の皿の焼き鳥を箸で掴むと、デリルの口許に差し出した。美しい笑顔の女の子らしさを添えて。

「な、な、」
 信じられないと大きく見開かれたデリルの瞳、三角の耳の先がさっとサクラ色に染まる。

 おお、照れてる…照れてるな。反応うぶだな。
 ゲーム内では明記されてなかったが、もしかしてデリルは童貞か?
 人間嫌いだし、女魔族には畏怖の対象だったはず、童貞を脱する機会に恵まれなかったのかも。見た目良いのに勿体ないな。
 
 偉そうな態度なのに童貞なのか……面白くなった俺は更にデリルにあざとく言った。

 「口移しのほうがいいかしら?」
 
 「ーーっ!ふざけるな!」
 ガタとテーブルに脚をぶつけデリルは立ち上がった。首筋まで真っ赤で怒鳴られても怖くないぜ。 

 他のテーブルの客が何事かと驚き振り返った。

「はっ、冗談だよ…そんなに怒るなよ」 
 デリルを宥めるついでに腕におっぱいを押し当てる。

「……俺をちんけな魅了で誘惑して……貴様死にたいのか?」  

「あれ?やっぱり解ってたのか?」
 俺ごときの魅了のスキルじゃあ、ラスボスのデリルには効果は薄いようだ。
 
 ーーこれは、ヤバイな。俺、消されるかも。

 どんな言い訳しようと結果的にデリルを魅了で操ろうとした事実は消えない。 

「騙すようなことして悪かった。でも逆だぜ、死にたくないからだ」

「今、殺されそうなのにか?愚かだな」
 デリルの顔が恐ろしく歪む。殺気を撒き散らし俺をねめつけた。恐怖にすくみそうになるが、ぐっと腹に力を込める。
 
「自分でも愚かだと思う……誰にも死んでほしくないんだ。デリル様のやろうとしてることじゃ誰も幸せになれないぜ」
 顔を上げ真っ向からデリルを見据えた。

「…何を知っている」
 
「デリル様のしようとしてること全部だ」  

「全部だと?ふんっ、戯れ言を言うな。貴様に俺の何が解るんだ」

 苛立ち吐き出すデリルに、ゲームの最終決戦で真実の愛に目覚めた勇者と選ばれたヒロインに倒され、消滅する瞬間に慟哭のように発した断末魔の台詞を思い出した。

『……憎い、にくい…人間が、世界が……俺を、否定するすべてが。俺の…存在を認めない……ただ俺は…愛されたかったのか?』  

 デリルの心情を思うと胸が割かれそうに切なくて苦しい。だから俺は、デリルの拳に自分の手を重ねた。

「……解らないから教えてくれ。
 俺は…デリル様に苦しみを抱えたまま死んでほしくないんだ」 
 心からの本心だった。

「ーーー貴様は…まさか…本当に……」
 デリルが虚を憑かれような顔をした。
 そして、俺の顔を見て、こめかみを叩き、口許を抑えた。どんどん顔が赤くなってるな。

「……いや、罠か…」
 あれ?今度は青くなった。

 どうしたんだ?デリルは? 

 百面相を繰り返すデリルに手を重ねたまま、観察した。どうやら殺されずにはすんだらしい。 


「まあまあ、男に興味なかったユーリーちゃんがお化粧してお洒落して男の人口説いてるの初めてみたわ……本命なのね!頑張ってよ」
 顔見知りの焼き鳥屋の女将がテーブルに冷えたエールを置き、爆弾発言をして去っていく。

 え?口説いてるのか?俺??
 俺の手はまだデリルの手に重なってる。  
 ……確かに発言や状況的にはそう見えるな。 

 再びデリルを見れば、顔を通り越して胸元まで真っ赤である。 

「………」
「………」 

 お互い無言だ……なんだこの空気は、おっぱいを押し付けるより恥ずかしい。居たたまれない。

「あ、エールがぬるくなる早く飲もうぜ!」 
 さっと重ねた手を引いてエールを掴み、ごまかすようにぐびぐび飲んだ。

「…ふんっ、貴様に言われなくとも飲む」
 デリルもエールをあおる。 

「おっ、デリル様飲める口だな!どっちが多く飲めるか勝負な」
 飲み干したジョッキをドンとテーブルに置く。

「俺様に勝とうなんて愚かだな」
 売り言葉に買い言葉、デリルも空のジョッキをドンとテーブルに置いたのだ。 


  その後、しこたま飲んだ。

     途中からの記憶はない。  





「くっ。い、痛てぇ」
 日光が眩しい、ずきずきする頭を抱えて最悪の目覚めだ。

「はぁ、喉からからだし、体怠いし、ここどこだ?」 

 体を起こそうとしてふと気づいた。いや、気付きたくなかった。 

 裸……だった。しかも体中ベトベトしてる。胸元には赤い跡。下半身がひきつり重怠い。

  ………まさか、ヤっちまった。

 毛布をめぐり確認した……事後だった。ヤっちまってた。 

 この流れだと…相手は……。
 ギギギと首を横に向ければ予想通り寝息をたてるデリルが居たのだ。

 うわわーっ!!デリルの童貞奪ってしまった。殺される!逃げるか?いや、捕まるだろ!
 おれはどうしたらいいんだー!
 
 
 頭を抱える俺は知らない。


 この2ヶ月後、無事に和平調停式典は行われ、人間と魔族に和平が成立することになる。だれも死なない未来がくる。 

 そして、俺はデリルの嫁候補として魔王城にお持ち帰りされることになるのだ。


 happyend? 
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