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クロムくんの異世界婚活事情 SS☆
しおりを挟む騎士団からの帰り道自然と駆け足になる。今日もマキノさんの美味しい手料理が待っているんだ。
「おかえりなさいクロムくん!ご飯出来てるよ」
「ただいまマキノさん」
眉毛を少し下げる屈託のない笑顔。
彼女のことを思うと僕の胸は幸せでいっぱいになる。
魔族が撒き散らした穢れ、それにより女性の出生率は低下してしまった。
未婚の女性自体少ないこのスベレニアで同居人の妻を得るのは極めて難しい。
特に僕みたいに孤児院出身で、なんの後ろ楯のない平民なら尚更だ。 一生独り身かもしれないと僕は悲観していた。
そんなとき予言者が聖女降臨を予期した。高名な予言者でも降臨場所までは特定出来なかった。
国王は速やかに聖女を保護するため、聖女を最初に発見した者に報償を与えると宣言した。
たまたま森を捜索していた僕は運良く聖女と一緒に居たマキノさんを見つけた。初め僕はマキノさんを聖女かと思った。
なぜならマキノさんは藪から現れた僕を不審者だと思ったようで、聖女をその背中に庇ったからだ。
マキノさん自身も良く見れば足が震えてガクガクしてるのに、唇を噛んで凛とした顔で僕を真っ直ぐ見据えたんだ。
雷に打たれたかと思った。
神秘的な黒い髪も夜の帳のよう瞳から目が離せなかった。そう一目惚れってやつだね。
僕が事情を説明すると自分が聖女と聞いて浮かれて騒ぐ女の子を制して、警戒しながらお城に着いてきてくれた。
道中、僕はどうしたらこの綺麗な人を自分の物に出来るか懸命に考えた。
彼女には失礼だと思ったけど、国王にマキノさんを紹介するとき事前に聞いていた年齢を敢えて言った。スベレニアの女性の結婚年齢は15歳と低い。28歳と聞いた国王は落胆し、独身貴族にマキノさんを嫁がせるのを断念したようだ。
そして、あっさりと報償にマキノさんを所望した僕の望みを叶えてくれた。
僕にとっても年上だけどそんなのは関係ない。マキノさんは幼く見えてとても綺麗で魅力的だった。そばに居てくれるだけで嬉しいのだから。
マキノさんの住んでいた世界は夫婦になった相手を世話人とは言わないそうだ。
騙すみたいで申し訳ないけど、世話人として共に暮らすのに必要なんだと説明したら、抵抗なく婚姻届の書類にサインをしてくれた。
僕たちを見守る副団長が苦いお茶を飲んだような顔してたけど、無言だった。
副団長も嫁取りに苦労したそうだから僕の気持ちを理解してくれたようだ。
早馬で教会に婚姻届を提出し晴れてマキノさんの世話人になれた。本当のことは時間を置いて話せばいい。
騎士団の他の奴等の目にマキノさんを入れたくなくて僕は急かすように不動産屋に向かった。
部屋は同じで良かったんだけど、マキノさんはお互いの部屋が必要だと2DKを選んだ。まあ、子供が産まれたら子供部屋にすればいいし。
早くマキノさんとエッチしたい。悶々とする童貞の僕にマキノさんは爆弾を落とした。
「私、ヒロムくんと同じ歳の弟が居るんだ!異世界で一人だからヒロムくんのこと弟だと思っていい?ヒロムくんも私のことお姉さんと思っていいからね?」にっこりと悪びれなく弟宣言をされてしまった。
弟じゃなくて、夫なんだけど…。
お城では見せてくれなかった屈託のない笑顔。
安心したように笑うマキノさんの顔を曇らせたくない。
夫婦だと本当のことを言ったら弟ととしか思えないと離縁されてしまうかもしれない。
それだけは絶対に嫌だった。
まだ……伝える時じゃない。マキノさんに一人の男として好きになってもらう。狡猾に囲って僕なしじゃ生活出来ないようにしてしまおう。
就職を希望するマキノさんの書類を手伝った。こっそりと希望時給を高額にした。これでどこも採用しない。
決意を新たに僕は騎士団の仕事に励んだ。辛い訓練もこなし体を鍛える。全てはマキノさんに男として認めてもらうため。
帰宅後マキノさんと夕食を食べる。今日は僕の好きな野菜のキッシュにお肉たっぷりのビーフシチューだった。マキノさんの料理は美味しい。
お昼にお弁当を持たされるが、同僚から狙われて困る。みんな妻持ちが羨ましいのだ。ハイエナどもに分けるつもりなんかないぞ。
エプロン姿のマキノさんもまた可愛い。いつか素肌に着て欲しいと思う。
向かい合って食事をした。視線はエプロンに注がれ、裸のマキノさんを想像しムラムラした。
食事中の話題は就職のことだった。
マキノさんが町で副団長に会い、騎士団食堂の仕事を紹介して貰えることになったそうだ。
くそ副団長!余計なことしやがって!
表面にはおくびにも出さず、心の中で盛大に毒づいた。
僕の檻からマキノさんを出したくない。どす黒い感情が吹き出しそうな僕はマキノさんに苦言を言った。
「毎日、一人で留守番は寂しいから騎士団なら朝クロムくんと連れ立って通勤出来るから、少しでも長く一緒に居られるって打算もあるんだ」
マキノさんは照れくさそうに僕にそう言うと「……だめかな?」と、上目遣いに僕の袖を引っ張った。
うっ、なんて可愛いんだ!
僕と一緒に居たいなんて嬉しいことを言ってくれた。あざとく甘える仕草に僕の中のどす黒い感情は霧散して、顔がどんどん赤くなる。
「そ、そういうことなら…許可します」
「ありがとうクロムくん!」
余程嬉しかったのかマキノさんは僕の手をギュウギュウ握りしめた。
本当のことを言えず結婚式を挙げていない僕たちはキスはおろか、手すら握ったことがなかった。思わず固まってしまった。
初めて感じたマキノさんの手の感触は、小さくてさわり心地が良くてすべすべしていた。手すら可愛いなんて反則だよ。
その晩はマキノさんの手の感触を思い出して、何度も何度も自身をしごいた。
「はっ、あっ!マキノさん!好きだっ!!」
どひゅどひゅと夥しい量が手のひらから溢れた。
荒い息を整え心からその日を願う。
マキノさんに直接握ってもらい肌を合わせ、本当の夫婦になれるその日を。
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