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マキノさんの巻き込まれ異世界転移 SS
しおりを挟む巷に溢れた異世界転移で、女子高生の聖女に巻き込まれスベレニアに異世界転移してきてしまった。私こと牧野純香28歳、独身、社畜は聖女のように王城に保護されることなく……その場の話し合いで聖女と私の第一発見者の少年に厄介払い宜しくとばかりに、押し付けられましたとさ。
王様に下手に出て交渉し辛うじて迷惑料として一年間の生活費をもぎ取りました。私偉いぞ!
私の世話人となった不運な少年は名前は、ヒロム・セーラン。
まだあどけなさの残る孤児院出身。半年前一人立ちし、騎士団に入隊したばかりの16歳。色素の薄い茶色の髪に浅黄色の瞳。羨ましいくらい高い鼻。頬にはうっすらそばかすがある。
まだ男臭くない、首も細い。私の年の離れた一番下の弟と同じ年。私という不良物件を押しつけられ、騎士団の独身寮を追い出されることになったのに嫌な顔一つしない。
「僕も寮を出たいと思っていたので気にしないで下さい」
ーーなんて、良い子!まじで良い子だよ。弟に爪の垢煎じて飲ませたいほどだわ。
上司にあたる副団長に二人で挨拶だけして、寮を辞した。私を押しつけられ事情を知ってる副団長さんは物凄く複雑そうな顔をしてた。
うん、うん。ヒロムくんに同情しちゃうよね?
いきなり13歳も年上女のお世話をしろって酷な話だもの。
副団長さんに結婚したり同棲で寮を出る騎士団員御用達の不動産屋さんを紹介された。
二人で2DKの即入居可能な集合住宅を選んだ。騎士団屯所にも遠くない。
二部屋あれば、クロムくんが彼女を連れ込んでも気まずくない。
敷金礼金は国王の迷惑料から全額私が払うつもりだった。
それを頑なにクロムくんが拒否した。自分も住むのだから僕が全額払いますと譲らない。上手く宥めて折半に持ち込んだ。
太っ腹なクロムくんは二人で家具は全額出すと言ってくれた。
なんて優しいの!
仕事が見つかるまで節約したいと思っていたからありがたく甘えてしまった。
年下のクロムくんに教わりながら町で買い物をした。二人で家具を選び運んでもらう。
クロムくんは私に嫌みの一つも言わない。弟に比べて無口だったけど、沈黙も苦にならないのはクロムくんが持ってる穏やかな雰囲気のお陰だね。
家具のお礼を兼ねて、家事は私がすることにした。共働きの父母の代わりに姉弟の食事は私が作ってきたから得意なんだ。
異世界だから多少は調味料が違うけど、試行錯誤して美味しく作ることが出来るようになった。
自画自賛かもしれない。
でも、クロムくんが喜んでくれるから良しとしよう。クロムくんも力仕事の騎士団の若者、お肉が大好きみたい。この前作ったカツレツは6枚ペロリと平らげてた。
私の一日はクロムくんに朝ご飯とお弁当を作ることから始まる。寝ぼけてるクロムくんを揺り起こし朝ご飯を一緒に食べる。
騎士団に出かけるクロムくんを見送り、後片付けをして掃除、洗濯をする。この世界の一般人は魔法を使えない。その代わりに生活を支えているのは便利な魔石。
これのお陰で水は井戸から汲まなくていいし、火はコンロのように使える。
その後町で食材を買って軽く自分のお昼を作る。夕方まで本を読んだりする。日が暮れたら洗濯物を取り込み畳む。そして夕飯の支度をする。
クロムくんが夜勤じゃない日は、帰ってきたら直ぐお風呂に入るので掃除と準備も忘れない。
帰宅したクロムくんと夕飯の食べ、お風呂に入ったあと各々の部屋に戻らす、ダイニングのソファーでお茶を飲みながらお話をするのが日課。
ある団員が子猫を拾ったとか、町で食材をおまけしてもらったとか取り留めのないお話をする。まるで本当の姉弟みたいにグダグダと。居心地は大変良い。
あっという間に3ヶ月過ぎた。
クロムくんはこのまま仕事をしないで家のことしてくれたら良いって言ってくれたけど、生活費をいつまでもクロムくんに払ってもらうわけにはいかない。本当の不良物件になっちゃう。
何回かクロムくんと一緒に職業案内所に通ったんだけど、異世界人だからか書類で落とされてしまった。折角クロムくんに文字を教わったのに申し訳ない。
たまたま一人で町を買い物していたときに副団長さんに会って、仕事が決まらないと愚痴ったらちょうど騎士団食堂のお婆さんが腰を痛めて退職して空きがあるとのことで、紹介してくれることになった。
職業案内所に寄るつもりだったから持参してた書類を渡した。
「…これで受かるつもりだったのか?」と、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。クロムくんに書き方を教わったと話したら妙に納得した顔で「書類は俺が預かっておく」と副団長は去っていった。
どういうことだろう?不備があったのかな?
帰宅したクロムくんに食堂で働くことを話したら心配なのか渋い顔。
「マキノさん……騎士団には飢えた獣がウヨウヨいるけど大丈夫?」
「飢えた獣って、お腹を空かせた騎士団員のこと?大丈夫よ!美味しいご飯でみんなをお腹一杯にさせるから。それにクロムくんに絶対に迷惑はかけないから」
私がにっこり微笑むと、クロムくんは大きく溜め息を付いた。
「毎日、一人で留守番は寂しいから騎士団なら朝クロムくんと連れ立って通勤出来るから、少しでも長く一緒に居られるって打算もあるんだ」
年の近い姉弟とはランドセルを背負い一緒に学校に通った。
懐かしく温かい思い出。もう姉弟には会えないなら、せめてクロムくんと一緒に通いたい。
「……だめかな?」
上目遣いでクロムくんの袖を引っ張る。みるみるクロムくんの顔が赤くなっていく。
あらあら……照れてかわいいなぁ。若いなあ。
「そ、そういうことなら…許可します」
「ありがとうクロムくん!」
嬉しくて思わずクロムくんの手をギュウと握りしめた。クロムくんは驚き固まってしまった。
クロムくんから許可を得て喜ぶ私は、この時まだ知らない。この世界においての世話人=夫婦と同義語だということを……。
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