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花の匂いの正体は

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 ガイルたちが拠点にしている町モニークの朝は寒く、春と言っても霜が降りる日が多い。 
 ガイルとスバルはギルドから、モニーク街道に出没する魔物の討伐を頼まれていた。モニーク街道は王都に通じる重要な街道の一つだ。  

 ガイルは白い息を吐きながら、爪に纏わせた炎でゴブリンザコを切り刻む。 
 リーダーのスバルも斧で最後の一匹の頭部を潰すと持っていたボロ布で血を拭った。 

「ガイル少し動きが鈍いぞ、どうした?」 
 リーダーのスバルは40代半、灰色の髪に獅子に似た厳つい顔立ち、若い頃王城騎士だった。 

「スバルすまん、気をつける」   
 ガイルは昨夜自慰のあとコレットの部屋に戻り、抱き枕として朝を迎え一晩中襲いたい衝動と戦ってきた。 

「あー寝不足か?若いからって余り遊び過ぎるなよ。夜に娼館街で見たぞ、ガイルが珍しいなー」ニヤニヤ笑う。 
「いや、呑みに行っただけだ!」 
「また、恥ずかしがるな。若いから溜まり易いだろう?俺のおすすめを紹介してやるぜ」 
 女好きなスバルは頻繁に娼館街に通っている。 

「それより、スバルはリリアカと共にアマゾネスの村に行かなくて良かったのか?」  
 スバルは若い頃にリリアカと子供をもうけ、子供は女子でアマゾネス村のリリアカの祖母に育てられた。彼女はアマゾネスで成人年齢の15歳になる。 

「ああ、リリアカに来るなと言われたな」 
 スバルは腰の道具袋から煙管キセルを出すと煙草の草を詰めた。 
「ガイル、火くれ?」 
 ガイルは人差し指にぽっと火を灯すとスバルの煙草に火を付けた。 
「ふー。うまいな」 
 スバルは深く煙草を吸いこむとゆっくり紫煙を吐き出した。ゆるゆると白い線が浮かんでは消える。 

「種族間の違いだな。アマゾネスの村は女しか入れん、娘にも一度も会ったことがない。リリアカには他に種違いの子供がいるしな……難儀な女に惚れたもんだ」 
「スバル」 
「おっと暗い顔すんなガイル!俺が娼館街通いしても文句は言わない。同じ仲間パーティーでたまに抱かせてくれる、ちょうど良い距離感だ」 
 狂おしく苦い感情を飲み込み乗り越えてきたスバルはニカッと笑ってまた煙草を味わう。  

「ガイルお前、リリアカにコレットの世話するように頼まれただろう?コレット大丈夫か?」
 リーダーの顔に戻ったスバルは聞いてきた。 

「あいつ、月経で辛そうだ。かなりふらふらしてる」 
「月経か……リリアカが心配するはずだ」 
「ああ、魔力のない今、命を狙われたら一溜ひとたまりもない」  
「それもあるが、魔女は月経中しか孕まない種族なんだ男に襲われたら大変だぞ」
「な?孕む!出血しているのに?」 
「諸説あるが…魔力の強い魔女は通常は子宮も魔力で守られ中出しされても精子を受け付けず、妊娠することはない。ただ月経中は子宮を守る魔力もなくなり精子を受け入れてしまうそうだ」 
「しかし、排卵しないと孕まないだろう?月経中は排卵しないんじゃ…」  
「そこが不思議だ!魔女は月経中に中出しされるとその刺激で排卵する、まるで魔力をなくして襲われるのを待ってるようにだ」 

「……待っているのか?」 

 ガイルは弱ったコレットに何度も襲いかかりたい衝動に駆られたことを思い出す。 
「ガイルどうした?」 
「もし、死ぬほど嫌いな奴に襲われたらどうするんだ?」ガイルは最悪の事態を想像した。 
「どうしようもない」  
「おい!」 
「はは、嘘だ。魔女は身を護るため月経中人里離れ隠れるか、リリアカやお前のような信頼出来る奴に守ってもらう」  

 信頼出来る奴か……今、俺が一番危険だ。コレットを想像の中で襲いつくしている。昨夜はコレットのお尻を使い自慰までしてしまった。 

「スバル、俺はコレットの信頼に値しない。俺の替わりにアイツを守ってくれないか?」  
「コレットと何かあったか知らんが…」 
 ガイルの苦渋の表情から何かを感じとったスバルは続けた「俺じゃコレットは嫌がるぞ。部屋に入れてもくれんだろうな、コレットは俺よりお前にそばにいて欲しいんじゃないか?」 

「そばになんかいたら…コレットにとって俺が一番危険だ!」 
 スバルは驚いたように顔を上げ、ガイルの表情を見ると全てを理解した。 
 若さはいいな、スバルはニヤリと笑うとガイルに告げた。 
「ガイル、魔女は月経中にすることがまだある……子作りだ!」 
「な!」 
「月経中しか孕めない魔女は好いた男が近くにいると媚薬作用のある花の匂いを体から放出させ、襲ってくれと誘うそうだ」 
「じゃあ、あの花の匂いは!」 
 ガイルを何度も吐精に導いた、咲く前の花の匂いを思い出す。コレットが俺を好いてくれていた、ガイルは歓喜に震えた。    

 もう、我慢はしねえ。コレットの全部を俺のものにして、ぜってえ孕ませてやる。








 コレットがまぶしい日の光で目を覚ましたときには、すでに太陽は真上でお昼近かった。    

(はあ、ガイル抱き枕温かかった~。そのおかげかしら?たっぷり寝れたし、いつもの月経より体が動く痛みが軽いわー) 

 コレットは部屋の簡素なテーブルにすっかり冷めてしまった、お粥と痛み止めの薬湯が置いてあることに気づいた。横にメモ書きに汚い文字で《朝起きたら食べろ。スバルと仕事してくる、昼過ぎには顔を出す――ガイル》と書かれていた。 

 (ふふ、ガイル意外と字が下手なのねー。朝ご飯ありがたいな、温めて食べないと) 
 ガイルの気遣いが嬉しい、コレットはいそいそとお粥と薬湯を火にかけ温かくして食べた。  

 ご飯を食べたら体が汗でベタベタなのが気になった。昨日戦闘して汚れてから月経でふらふらでシャワーも浴びていない。 

(ガイルを襲うにしても、体を拭いて綺麗にしないと……でも、どうやって襲えばいいのかな?こんな事なら、リリアカに襲いかたを聞けばよかった~)

 コレットは真っさらの処女だった。 

 キスは馬鹿な三流貴族に酔っぱらった勢いで奪われたが、あんなのはノーカウントだ。馬鹿貴族は全身の毛を魔法で燃やしておいた。   

 黒魔女は奥ゆかしく性に対してオープンな種族ではない、コレットが魔女の村で習った性教育は、子が欲しいときは月経中に匂いで伴侶を誘うので、身を任せなさいと言うなんともつなたいものだった。月経中は、襲われやすいので身を守ることに重点を置いた教えを受けた。

 コレットは魔女の村から街に移り住んでから、図書館で一般的な性の知識を身につけた。  
 種族の差を考えず、魔女の自分も月経中は中出しされても妊娠しないと思い込んでいた。  
 むしろ孕みやく、好きな男を誘って匂いまで出していたなんて知るよしもない。  

(月経中血がつくから、入れるの嫌がる男の人もいるみたい、ガイルが嫌じゃないといいんだけど………お尻に当たった、ガイルのおちんちん大きくて硬かったな。あんなの入るのかな?きゃー。嫌だ私ったら~)
 孕ませるつもり満々のガイルが部屋にむかっているのに1人盛り上がるコレットだった。 



「お、重い」 
 ガイルを襲うため、体を拭こうとしたコレット。鍋に水を入れ湯を沸かし、たらいにお湯を貯めるはずだった。 
 鍋にたっぷり水をいれ過ぎ、月経で力の入らないコレットは持ち上がらない。  
 早々に持ち上げるのを諦め、鍋のお湯をコップでたらいにうつしていると、ドアが力強くノックされた。 
 
「コレット、俺だ!開けてくれ」 
「ガイル、もうそんな時間!」 
ガイルが部屋に来る前に体を拭いて綺麗になるはずだったコレットは焦る。 
 
(き、汚いまま襲いたくない!どうしょう~) 
 
「コレットどうした?大丈夫か?」 
ガイルは心配でドアノブをガチャガチャ回し、ガイルの馬鹿力で薄い部屋のドアが軋む。 
「今開けるから、ドア壊さないで!」急ぎ鍵を開け、ガイルを招き入れた。
 
「すまん、部屋で倒れてたらと心配した。腹痛くないなら、昼飯一緒に食おうぜ」 
ガイルは二人分の昼飯をバスケットに入れ持参してきた。
 
「ガイル、仕事帰りにありがとう。でも私、お昼前に起きてガイルが用意してくれた朝ごはん食べたばかりなの。買ってきてもらった分は、夕食に回すからガイルは1人で食べて」 
「おう、わかった。それよりコレットはチマチマなにしてたんだ?」
「チマチマって…た、たらいにお湯貯めて体を拭こうとしてたの」 
「コップでやってたら湯が冷めちまうだろ、俺が手伝てやる」 
 ガイルの紅い瞳が妖しく煌めいことにコレットは気づかなかった。



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