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 深夜、暗い緑風荘の廊下を毛布をかぶった小さな影が手すりをつかまりヨタヨタしている、コレットだった。  
  
 緑風荘は増築を繰り返し横に長く迷路のように入り組んでいて、コレットの部屋からトイレまで距離があった。 
魔力のあるいつもなら近距離転位魔法が使えて移動が楽なのだが今は使えない。 

(ううっお腹痛い。こんなことならトイレの近くの部屋にすればよかった…あっ目が回る) 
めまいをおこしたコレットはその場に座り込んで手摺にもたれた。 

「おい、大丈夫か?コレット」 
後ろから屈強な肢体に支えられた、チェスナと酒場で別れ戻ってきたガイルだった。 

「あっガ、ガイル大丈夫よ」いつものクセで強がる。 

「顔が真っ青だ、大丈夫じゃないだろう。どうした?部屋から出てきて」ガイルは優しく背中を擦る。 

「あの、その…ト、トイレに行こうと思って」(一緒に布ナプキンを替えるとは、ガイルには言えない) 

 ああ、ナプキンを替えるのか、出来たら匂いを嗅ぎたいガイルは鼻をひくつかせる。 
濃厚な血液の匂いに混じる花の香り、思い返すだけで下半身が熱くなる。 
危ない危ない今は我慢だ。 
 
「ふらふらで危ないな。俺が連れて行く」 
「えっちょっと!ガイル」 
 ガイルはさっとコレットの軽い体を持ち上げ、お姫様抱っこをするとトイレに向かって歩きだした。 
 
「静かにな。夜遅いから寝てる連中多いぞ」 
 朝早くから依頼をこなすパーティーもあり、騒いで起こしたら戦闘に響くかもしれない。 
 
「わ、わかった。お願い」 
コレットは遠慮がちにお願いし、所帯無げにガイルの腕の中で毛布をぎゅっと握りしめる。 
   
縮こまるコレットも可愛いな、ガイルは思ったが声に出さなかった。 

 緑風荘のトイレは男女に分かれていて女子は個室が3つあった。 
 トイレの入り口で下ろされると思っていたが、「ふらつくから、個室の中で下ろす」とトイレの中まで侵入し、個室に入るとコレットを便座の前に下ろした。 
 
「ガ、ガイル。見つかったら痴漢扱いよ、早く出て!」 
「わかった。入り口で待つから終わったら呼べよ」コレットのかぶっていた毛布を預かり、ガイルが個室から出ようとしたとき――トイレの入り口から女性の声がした。 
 
「ひ、人が入ってくる!ガイル早くドア閉めて!」 
「ああ!」ガイルは急ぎドアを閉め鍵をかけ、コレットに背中を向けて立つ。 
「早くー。化粧直して行くよー!」 
 間一髪だった酒臭い女性二人が入ってきて個室前の手洗い場所で喋りながら化粧直しを始めた。  
  
 トイレの個室は狭くお互いの息づかいが聞こえた。ガイルが半歩下がるとコレットの膝にぶっつかってしまう、ガイルはその場で固まった。  
  
 コレットは切れ切れの小さな声でガイルの背中に話しかける。 
「ガイルごめん。もう、おしっこ出ちゃう、我慢の限界なの……耳塞いでて、絶対にこっち向かないでね」 
 
「わ、わかった」思わず声が上ずる。 
頭部の獣耳を押さえた、ガイルの後ろから布の擦れる音がして、カタンと便座に腰かける音、そして下着を下ろしたのか、むせかえるほどの血液の匂いと花の匂いが個室に広がる。 

 ガイルは炎狼、聴覚も臭覚も鋭い……ヤバい。匂いにクラクラする。ガイルの下半身が自己主張をはじめ動きだす。    

(恥ずかしい。ガイルの馬鹿、おしっこの音聞かないでー) 
 
コレットは尿道を閉めて音を出さないように下腹部に力をいれるが、膀胱にパンパンに貯まったおしっこは一度出ると止まらず――ジョボジョボジョボジョボ、ジョロロローと盛大な音をたてた。 
  
 黄色い尿と月経の血の赤が混じった液体が便器を流れる。 
 
(あ、ああ、絶対ガイルに聞こえてる恥ずかしくておかしくなりそう。偉大な魔女ステラ助けてー。) 
  
 耳を押さえたガイルの背中が震えて、世話しなく鼻だけ動いていた。 
辺りにおしっこの匂いと血液の匂いが混じり、なんとも生臭い。
  
炎の女神アロナナは俺に試練を与えている。耐えるんだガイル! 
 今すぐ後ろをむき、尿と血液滴るアソコにむしゃぶりつきたい。 
踏ん張るんだ、踏ん張るんだガイル!今襲いかかったら獣以下だ。 
ただの変態としてさげずまれる。 
 月経が終わったら、優しく、俺らしく口説きたいんだ。 
  
 ガイルはドアに額を付け、牙を噛みしめ衝動に耐えるが、隙間から声が漏れた。 
 
「ぐぐぐ、がぎぎ」   
「ガ、ガイル大丈夫?」 
「大丈夫じゃない…早く…早く頼む」 
前傾姿勢になり両腕で股間の膨らみを押さえつけた。 
 
「ごめんね。早くするね」 
 ガイルの異様な雰囲気に少し泣きそうなコレットは、急ぎ布ナプキンを替えると下着とズボンを履いた。 

「行くわよー」 
「あ!待ってよー!」酔っぱらい女性二人も化粧直しが終わり慌ただしく出て行った。 
 
「ガイル終わったよ。女の人も居ないよ帰ろう。あれ?どうしたの?前屈みで大丈夫?」 
 コレットが背中を擦ろうとすると「ふ、触れたら逆効果だ!」切迫つまったガイルに遮られる。 
 
「正常な男の生理現象だ!少し経てばおさまる!」ガイルは股間から手が離せず、片手で個室のドアを開けるとヨチヨチ歩きで洗面台の下まで逃げうずくまる。 
 
真っ赤な顔で歯を食い縛り、耳は情けなく垂れ、しっぽはピーンと張っている。コレットは呆然としてしまった。 
 
 「正常な男の生理現象って…え?まさか、ガイル私のおしっこで興奮して勃っちゃったの?」  
「おい!可愛い声で勃つとか言うな!余計興奮する!」 
「よ、余計興奮って…な、何言ってるの馬鹿ガイル!番以外興奮しないんでしょ?」 
「コレットには興奮するんだ!」  
「な、ななななな変なガイル!」 
 
(私には興奮するって…ガイルどんなつもりで言ってるの?番以外いらないって言ってたじゃない!……ガイルに聞いてみようかな?) 
 
「ガ、ガイルあの今の」 
「あーすまんコレット、おさまった。トイレは冷えるから、すぐに部屋に連れていく」
 なんとか股間を正常化させたガイルは照れくさそうに頭を掻く。 
ふうー危なかった娼館街に行く前に三回自慰してなかったら匂いだけで射精していた。 
 
「待って、私ガイルに聞きたいことが…きゃ!」 
「部屋で聞こう、外が冷えてきた」 
有無を言わさず、再びお姫様抱っこすると急ぎトイレから出て部屋に向かった。  
  
 春になったばかりで夜間は廊下は冷える。コレットはかけてもらった毛布をたくり寄せ震えた。寒さのせいか、少しずつお腹が重くなる。
 
「寒いか?コレット」    
「うん寒いね。寒いと痛みが増えるから困る。そういえば、ガイルは寒い季節も薄着ね?」 
コレットは今も半袖、冬でも半袖に薄い長ズボンのガイルを思い返す。 
 
「俺達、炎狼は常に体が燃えてるように熱いからな、冬には湯タンポがわりになるぞ」ガイルはやんちゃに牙を見せて笑った。 
 
「確かに湯タンポみたいね」 
お姫様抱っこされている体勢でガイルの胸板はコレットの右頬に軽く当たっていた。コレットはガイルの温かい胸板につられるように右頬をぎゅっとくっつけると、スリスリした。 
   
「温かいね」 
「おい!コレット」  
「あっごめん、嫌だった?体が温まるからついくっついちゃった」コレットは言い訳しながら慌てて離れた。 
 
「違う!嫌じゃないんだ!その…あんまり刺激されるとおさまった物がまた復活してしまう」 
「おさまった物?」   
コレットの臀部になにやら硬いものが当たった。 
 
「す、すまん」 
「ガ、ガガイルのえっち!」  
「な、コレットがいやらしく触るからだろう!」 
「い、いやらしく触ってないもん!」 
緑風荘の廊下にコレットの叫び声が響き渡る。  

「うるせぇぞー!!いちゃつくなら部屋でやれー!こっちは朝から仕事だ!!」     
どこかの部屋から野太い怒鳴り声が聞こえた。 
 
 反省し静かになった二人は無言でコレットの部屋に入った。
 
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