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ハッピーエンドに向かって②
しおりを挟む「ヴィー大丈夫ですか?フローラの店の服は美しい装いですが肩が出すぎています。冷えないようにしましょう」
あの日の旦那さまの表情を想像し、震える私の肩に旦那さまは心配そうにストールをかけてくれました。
大丈夫……解っていますよ、私とシリウスが大事だから鬼にも悪魔にもなってくれることを。
不安そうに揺れる瞳ににっこり微笑む。心配しないで下さいね。私も旦那さまが大切だから、私なりに旦那さまを守りたい気持ちは同じですから。
安心させるように獣耳に触れると先に付けた私の瞳の色のイヤリングが揺れた。まだ誰にも告げていなかった秘密を旦那さまに囁く。
「ありがとう旦那さま。体を冷やさないように気をつけてますね。
来年は……家族が増えてもっともっと賑やかになりますから」
お揃いの布地の腹部を擦って笑う私に旦那さまは一度固まったのち、感無量とばかりに固く私を抱き締めた。
「ヴィー!本当ですか?本当に私と貴女の子が産まれると言うのですか?」
「はい!
正真正銘、私と旦那さまの愛の結晶の赤ちゃんですよ。シリウスに似た男の子でも、旦那さま似のクール系ツンデレ女子も捨てがたいですね。今から性別が楽しみです!」
「……ヴィー似の女の子だったら困ります」
腕組をし真剣に旦那さまが考えています。
「ええー?どうしてですか?旦那さま私の顔、嫌いだったんですか?」
もしかして、悪役令嬢だから?返答によってはかなり大ダメージを食らいますよ。
「違います。ヴィーを愛しているので同じ顔の女の子を手放すことなど出来るわけがありません!」
それって、嫁にやらん的なやつですか?
困りました……女の子だったら旦那さまは超絶過保護のデロ甘パパになりそうです。
馬車が揺れるので旦那さまのお膝の上に座らされた。体を冷やすなと旦那さまに上着やら膝掛けをかけられ熱いくらいです。
元気だったらどっちの性別でもいいけど旦那さまが拗れそうなので出来たら男の子が産まれますようにと、こっそり神さまにお願いしておきました。
◇
建国祭の会場は、国旗と国花が飾られ色鮮やかで綺麗です。
ここまで来る町中もところ狭しと露店が並び大勢の人で賑わっています。
白猫堂の店の前には長蛇の行列が出来ていて。皆さんのお目当ては『あの獣人ご子息に大人気のマドレーヌ』なんだそうです。さすが女将のキリコさん商魂たくましいですね。キリコさんにはシリウス誘拐事件で保護してもらった恩があるのでどんどん店の宣伝に使ってくださいねー。
そうそう、騙されていたニセ獣人騎士団の中にナージャさんの息子さんを無事に見つけました。
獣人たちは騙されていた被害者ということを考慮し、誘拐未遂の手駒にされた一部の獣人を除き事情聴取後、直ぐに釈放されました。
一部の獣人も一週間の禁固刑の後に釈放され、ニセ獣人騎士団は二度と騙されないよう再教育の目的で旦那さまのお義父さんとお義母さんの統治する辺境のサラアテに全員送られた。
彼らの大半は隣国リンマークから亡命してきて、読み書き出来ず、満足に教育を受けていなかった。
サラアテには、奴隷上がりの獣人を保護、教育し、職業訓練する施設がある。ここで更正したのち希望する職種を斡旋していくそうです。
本人が望めは、本当の獣人騎士団の試験も受けられるそうですよ。まあ、騎士団の訓練は厳しいですが。
ナージャさんも息子さんと一緒に施設に入り、文字と機織りを学んでいるそうです。今度こそ明るい道がきっと開けますよ!
建国祭の会場の中心部には白い神殿を模した神秘的な祭壇が設置され、恭しい雰囲気の中、式典が始まりました。
荘厳な音楽が奏でられ、粛々と壇上に国王さまが現れました。朗々と建国の祝辞と国民に感謝を述べます。
次に緊張した面持ちのダニエル王子とアリアナさまが国王さまに呼ばれ壇上に上がりました。
二人とも今日の式典のため王家の正装を纏う。まだ幼さの残る顔立ちだけど、前を向き次期王太子は堂々と胸を張った。清楚なアリアナさまもダニエル王子に寄り添う。
国王さまが第一王子夫婦の廃嫡を伝え。時期国王として第二王子ダニエルを王太子とすることを宣言した。そして、アリアナさまの婚姻と妊娠を告げると、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれました。
皆さん、第一王子夫婦の横暴、怠慢にうんざりしていただけに喜びもひとしおのようですね。
お馬鹿な二人に代わり国民に寄り添った第二王子と聖女アリアナさまを大歓迎しています。
国王さまは、若い王太子夫婦を支えるため旦那さまを後継人に指名し、その代わりに国王自らシリウスの後継人になることを約束してくれました。
ジャスティン王子と共倒れにならなかった、僅かに残った反獣人派もこれで大人しくなるでしょう。
式典が終わった後は、祭壇に隣接して作られた野外ステージの観劇会を見学します。国王一家は第一騎士団に護衛され一番前の席に移動しました。
身重のアリアナさまを支えるのは、侍女兼護衛騎士のスージーさんです。
他の人々の誘導、警備に当たるのは元第三騎士団と団長のアイクさん。今は第二騎士団団長に昇級しました。
というか、シリウス誘拐事件でローベルハイム公爵との癒着が発覚した第二騎士団は度重なる職務放棄と騎士団費を遊興に回していたこと、第三騎士団を酷似していたことから事態を重く見た第一騎士団の訴えにより解体予定でした。
でも、もとより行き場のない貴族の次男以下で構成されていた第二騎士団。領地に帰って来られても困る親貴族たちが国王に泣き付いた。
結果、第二騎士団と第三騎士団の立場を入れ替えた。スミスさんたち高慢な貴族は平民の下請けという屈辱的な立場になったそうです。もちろん、監視として第一騎士団が間に入ってくれます。次に仕事を疎かにしたり平民だからと仕事を押し付けたら、有無を言わさず解体されるそうです。
観劇会の席まで階段があるからと旦那さまにお姫様抱っこされ、ご婦人たちの黄色い声を背中に浴びながら、指定席に付きました。
席でも体が冷えてはいけませんと上着を脱ぐと私の膝にかけてくれます。
困りました……旦那さまがどんどん過保護になっていますよ。
去年の演目は格上公爵令嬢のいじめに健気に耐え王子との真実の愛を貫き聖女となった。何処かで聞いた元平民の男爵令嬢の物語だったようですが、今年はなんですかね?楽しみです!
「え?このお話……もしかして」
始まった芝居を見て絶句してしまった。
「今、市井で大流行しているお話だそうです」
旦那さまは知っていたのか眉一つ動かさない。
そのお話は……無実の罪を着せられて婚約破棄された令嬢が無理やり婚姻を結ばされた獣人と心を通わせ、いつしか本当に愛し合う。二人で協力して、二人の仲を引き裂こうとする悪しき聖女と人々を苦しめる傲慢貴族を倒すというものでした。
「元ネタは私と旦那さまのお話ですか?でも、かなり脚色してありますね……貴族がドラゴンに変身しましたよ」
小さい声でポソポソ耳打ちした。
「大衆向けに娯楽要素が増えていますからね。見て下さい。獣人が巨大化しました」
巨大なドラゴンに対抗するため、なぜか巨大化した獣人が肉弾戦を始めましたよ。
ドラゴンを聖女を倒しハッピーエンドを迎えましたが、突っ込みところ満載でした。
ひきつりながら拍手を送る私に旦那さまが言いました。
「去年の演目より素晴らしいと思いますが……ヴィーは不満ですか?」
「もちろん不満ですよ!
旦那さまの役は旦那さましか出来ませんからね。私の大好きな旦那さまの代わりはいないんです!」 俳優さんには悪いけど、獣人の旦那さまのかっこよさの半分も表現出来てません。
私がぷりぷり怒っているとふわりと旦那さまが私を抱き締め、優しく笑いました。
「そうですね。ヴィーの役はヴィーにしか出来ません……愛していますよ」そういうとこめかみにキスを一つ落としました。
ただでさえ演目の題材で注目されていた私達は、抱っこやキスを大勢の人たちに目撃され、この日から仲の良い夫婦の代名詞にされましたとさ。
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