悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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事件は続くよ⑤ 贖罪

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 薄く笑うミリヤ妃の前に歩み寄った旦那さまは、一枚の書類を鼻先に突きつけた。 


「なに……それは?見せてっ!」 
 ミリヤ妃は旦那さまから書類をひったくると食い入るように見つめた。 

「貴女が改竄したもうひとつの検査結果です」

「私の!な、なんで、これが有るのよ!こんなものっ!!」
 ミリヤ妃は発狂したように叫び、書類をぐちゃぐちゃにするとびりびり破った。

「残念ですが、今破り捨てたのは写しです。本物は此処にあります。国王、王妃どうぞお読みください」
 
「ダメよ!見ないで!!」
 叫び飛び出そうとしたミリヤ妃を兵士が取り押さえる。 

「………なっ」 
「こんな……酷いこと」 
 旦那さまに手渡された書類を見て国王さまは天を仰ぎ、正妃さまは顔面蒼白になりぶるぶる震え出した。 

 ええ?一体書類に何が書いてあったのですか?

「ミリヤ妃……検査結果に記載された堕胎手術歴は真実ですか?」深い悲しみの顔で正妃さまが詰問した。
 
 え?堕胎手術って?赤ちゃんを下ろしたってことですか?
 唖然とする私の視界に、ジャスティス王子の驚愕する顔が入った。王子も知らなかったんですね。

「真実ではありません!」 

「嘘は赦しませんよ。王権で調査すれば直ちに解ることです!」ピシャリと正妃さまが撥ね付けた。びくりとミリヤ妃の体が固まる。何故か王さままで固くなってる。

「違っ、違うのです。まだ娼館の母の元にいた頃無理やり襲われて……それで、仕方がなかったんです!」泣き崩れるミリヤ妃を冷たく見下ろす正妃さま。 
 
「仕方なく……4回も堕胎したと言うのですか!
 記録では最後に堕胎手術を受けたのは去年と記載されています。 
 これも無理やりだと?王子妃の貴女を誰が無理やり襲うというのですか?」
 堕胎はきっと内戦の折にお腹の子を亡くした正妃さまには一番赦しがたい罪。
 耐えきれず泣く正妃さまの肩を国王さまが抱き寄せた。 

「ミリヤ……フランソワ医師を問い詰めればわかることだ。それにじゃ、避妊魔法のかかった指輪はどうしたのだ?まさか……指輪が壊れるほど、聖女にあるまじき淫楽を繰り返したのか?」
 鷹のように鋭く睨む国王さま。

「だって、ジャスティス王子だって私以外の女とやりまくってるのに、私だけ我慢するなんてかおしいです!聖女にだって性欲はあります」
 ミリヤ妃の見苦しい言い訳にジャスティス王子もふが!ふが!抗議した。


「残念ですが……ミリヤ妃はもう聖女では居られません。命を尊ぶ女神は堕胎を赦していません。聖女を剥奪され堕胎罪に問われます。」
 旦那さまがきっぱりと断言した。
 
「堕胎罪?下ろすこと事態が罪に問われると言うことですか?」
 初めて聞く単語に説明を求めた私に教えてくれたのは、やっぱりアリアナさまだった。

「アルバート教会では女神の前に等しくみな平等です。それはお腹の胎児も例外ではありません。ですから、強制行為以外の堕胎は殺人とみなされ堕胎罪にあたり処罰されます」 

「まさか…それは死刑ですか?」
 恐る恐る聞くと旦那さまが私の肩に手を置く。
 
「安心してください。アルバート教会に死罪はありませんよ」旦那さまは、怖いくらいの笑顔を私に向けた。

「確かに死罪はありません。
 ただ……命には命を持って贖罪します。ミリヤ妃が四人堕胎したならば、四人分の罪を自らの命で支払わなければなりません。しかも聖女の彼女にしか出来ない贖罪方法があるんです」
 アリアナさまは痛ましそうに告げた。

「えーと?私には意味がわかりません」
 死罪はない、でも命で償う。相反する贖罪とは一体?何をミリヤ妃にさせるつもりなんだろう?
 
「嫌よ!私は生け贄になんてならないわ!しかも四回もなんて、正気の沙汰じゃないわよ!」
 ミリヤ妃は髪を振り乱し泣き叫ぶ。

「生け贄ですか?やっぱり死んでしまいますよ」 

「死ぬことはありません……ただ『魔物の吹き溜まり』に落とされるだけです」
 淡々と告げる旦那さまがむしろ怖い。物凄くミリヤ妃に怒っているのだけはわかりますよ。

「アリアナさま、『魔物の吹き溜まり』って聖女の力で塞がないと魔物が溢れちゃう穴でしたよね?そんな場所に落とされたら……ただじゃ済みませんよね?」聞くのも怖いけど、顔色の悪いアリアナさまに尋ねた。 


「正確には、地中に蔓延る『魔物の吹き溜まり』の元である魔脈に鎖を付けて落とされます。
 魔脈は落ちた生き物を強い瘴気で溶かし消化吸収します。聖女が落とされて場合、聖なる力も地肉と共に吸収されるので、魔脈の力の抑制になるんです。結果的に『魔物の吹き溜まり』が減少します」 

 溶かして、消化吸収するんですか?考えただけでおぞましいです。
 真っ青になる私に更にアリアナさまは苦しそうに続けた。 


「『生け贄』の贖罪には高位の聖女も同行します。何故だがわかりますか?」

 解りたくないその意味を……でも、なんとなく解ってしまった。 

「……そ、想像したく…ないです」

「残念ですが、ヴィヴィアンさんの想像通りなんです。この贖罪は生け贄の聖女が消化吸収され、命を失う直前に魔脈から引き上げて、同行した聖女の癒しの力で体を再生します……だから生け贄が死ぬこともありません」
 
 生きたまま、消化吸収される激痛、恐怖。そして、死ぬような目に合わされても死ねず、再生されてまた魔脈に落とされる。恐ろしく残酷な地獄のような刑罰です。しかも、ミリヤ妃は、それを四回も……。
 

「つらいですか?ミリヤ妃。
 でもね堕胎された貴女の赤ちゃんはつらさを知ることなく死んでいったのですよ。
 生まれることの出来なかった、命の代わりに罪を償いなさい」 
 頭を振り、嫌々を繰り返すミリヤ妃に泣き張らした赤い目の正妃さまが諭すように言った。
 

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