悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

文字の大きさ
上 下
62 / 74

事件は続くよ④

しおりを挟む
 
 呆然と床に座り込んだミリア妃に、国王さまは眉根を寄せ薄い顎髭を撫で、殊更残念そうに告げた。


「フランソワ医者のダイタル家は祖父の代より王宮医師として忠実に仕えていただけに、惜しい人材を失うな。
 仕方がない…王族を欺く罪を犯したのだ。既に投獄すみだ。良くて貴族席、医師免許剥奪のち国外追放だ」
 
 ひえぇー、良くてもこの罪状ですか?最悪の事態なんて考えたくもないです。 

 ……それじゃあ、首謀者のミリア妃はどうなるんですか?
 時代劇によくある市中引き回しののち、打首獄門とか……まさか、そんなことないですよね?


「ひっ」
 国王さまの冷たい視線がミリア妃に注がれた。見上げたミリア妃の顔にハッキリと恐怖が浮かぶ。

「ミリアよ。
 脆弱と謗られようと其方はこの国唯一の聖女。国で大々的に任命式をし支援と擁護をしてきたつもりだ。余も王妃もジャスティスが立太子された暁には、ミリヤを正妃にと考えていた。
 年若い二人には国を背負のは重責だ。多少の息抜きは必要だろうと、度重なる散財、享楽に目をつぶってきたが……逆効果だったようだな。
 王族の責務を理解出来ぬから、検査結果の改竄などと愚行を致したのだろう?」 


「違います!王族の責務は理解しています。
 私は……ただ、国王になるため必死に努力してきたジャスティス様が種無しなだけで、王太子から外されることが不憫で可哀想でならなくて。
 それに、貴族や国民に知れ渡ったら国内が混乱すると愁いたから罪を犯してしまいました……もう二度致しませんので、どうかお許し下さい」
 舞台女優さながら泣き、最もらしいことを訴えるミリヤ妃。どうやら王さまの情に訴える作戦にでたようです。
 
「そうか……ミリヤなりにジャスティスを国のことを慮ってくれたのか?」 
 国王さまは目を細めた。 

「はい!私は王子妃として聖女としてこの国のことを一番に考えています!」
 
 聖徳の授業や慰問会をサボり、王子妃の仕事を私に押し付けようとしていたクセによく言いますね~?
 
「ほう、国を一番に考える王族が度重なる職務放棄をし、歓楽街で豪遊した挙げ句、借金を繰り返したとな?」
 
「……責務の辛さを忘れようとしただけです。それに借金の大半は私ではなくジャスティス王子ですわ」

「お、ま、ぐふふがぁ!ふが!が!!」
 真っ赤な顔のジャスティス王子がミリヤ妃を指差した。きっとお前の方が借金が多いとか言ってそうです。
 

「帳簿には同じような借金の記載があるが?
 それで夫婦揃い資金が足らず勝手に税を徴収したと言うのか?くだらん言い訳だ、片腹痛いな。
 ミリヤよ……誠にこの国のことを一番に慮るならジャスティス王子が種無しと判明した時点で速やかにワシに報告し、王太子候補を辞すようにジャスティスを説得すべきだった」
 王さまはピシャリとミリヤ妃を遮った。悔しそうに下を向くミリヤ妃。
 
「よって……ミリヤ妃を我が国の聖女から解任し廃妃とする。代わりにアリアナを我が国の聖女に任命する。そして、第一王子夫婦の全財産を没収し、借金の返済に当て、ジャスティスが貴族に降格したのちには、直ちに離婚してもらう。
 第一王子夫婦を貴族牢に連れていけ、謹慎中でも騒ぎを起こした、野放しにしたら何をするかわからんからな」
 
「そんなっ!待って下さい。せ、聖女は等しくアルバート教会に属します。聖女を裁けるのは猊下のみです。私を貴族牢なんて、不当な扱いは聖王猊下の耳に入ります」
 この期に及んでミリヤ妃は国王さまに噛みついた。
 でも、聖女を裁けるのは猊下のみって本当ですか?私の疑問に答えてくれたのはアリアナさまだった。 

「そうですわグランシア国王。
 ……昔、王族による不当な婚約破棄が横行しました。『真実の愛』の名を振りかざす愚かな人々に聖女は冤罪をかけられ国外追放、死刑、禁固刑などの罪に問われました。
 稀有な癒し手の損失は大陸を滅ぼし兼ねませんわ。魔物の吹き溜まりを塞げるのは聖女だけです。
 一計を案じた前代猊下、わたくしのお祖父様が聖女は等しくアルバート教会に属すと宣言しました。 
 これにより国単位で罪を犯した聖女を勝手に裁くことが出来なくなったのです。国に教会の調査委員会を派遣され、慎重に調査されたのち判決は猊下に委ねられます」

「そうだったんですか?」
 教義のようなアリアナさまの説明を聞いた。
 聖女が貴重な存在なら、ミリヤ妃も打首獄門にはならなそうです。
 彼女に騙されて王子に襲われそうになった。ミリヤ妃のこと大嫌いだけど、死なれたらちょっと夢見が悪いです。少し安心しました。

「そうです、猊下から罪に問われていません。聖女のわたしを罪人扱いしないで下さい」
 アリアナさまの説明に援軍を得たと思ったのかミリヤ妃は薄い胸を張った。

「猊下にお願いして、違う国の聖女に任命してもらううんだから!」
 
 ええ~っ!ミリヤ妃逞しいというか図太いですね。
 今は脆弱な聖女でも、今後聖徳を積めば化ける可能性はなきにしもあらずですし、欲しがる国は有りそうです。
 魔物の吹き溜まりの脅威が大陸にある以上、この様子だと、猊下も大した罪には問わなそうですし。


「愚かなことじゃ、其方が罪人で有ることは変わらんぞ」
「まあっ…ミリヤ妃。別の国に寄生するつもりなのですか?」
 国王さまも正妃さまも苦虫を噛み潰したような顔をした。 

 薄く笑うミリヤ妃。彼女の逃げ勝ちのようなスッキリしない空気が謁見の間に漂う。
 その空気を破ったのは、何処までも澄んだ低音の声。

「ミリヤ妃。貴女はいつまで聖女で居られますかね?」冷たく笑う旦那さまだった。 
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

処理中です...