悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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事件は続くよ③

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「アリアナさま……私と、スージーさんを友人と呼んでくれたけど、それすら盾にしたくて言った言葉だったんですかね?」
 利用されていたと考えたら胸が苦しくなり、下を向いた。


「それは違います!」
 はっと顔を上げると謁見の間の入り口に、息を切らしたアリアナさまが立っていた。隣には心配そうに様子を伺うスージーさんもいた。

「アリアナお腹に障るよ。走ってはいけない」
 心配して駆け寄るダニエル王子を「大丈夫です」と押し止めて、アリアナさまは私の手をそっと掴んだ。そして、柔らかく両手で包み込む。

「ヴィヴィアンさん、真実を言わず貴女を危険な目に合わせてしまい……本当にごめんなさい。
 今更こんなことを言うのは卑怯だと解っています。それでも……言わせて下さい。私はお二方を本当に友人だと思っています」
 苦しそうな表情のアリアナさまの瞳からハラハラと涙が溢れた。頬を伝い床に滑り落ちる。
  
「…アリアナさま」
 アリアナさまの手は震えていた。

「貴女をシオンを盾にしたことはアリアナは秘密にしていたんです。責めるなら僕にして下さい」
 ダニエル王子は、アリアナさまが性格上、私と旦那さまを盾にすることを承知しないから黙っていたんだろうな。子を妻を害意から守るための苦渋の決断。私もシリウスを守るなら同じことをすると思う。

「嬉しいです!私もアリアナさまとスージーさんを友人だと思っています。
 だから、泣かないで下さい。寧ろ友人のアリアナさまとお腹の赤ちゃんを守れたので友として誇らしいです!」
 にっこり笑うと、震えるアリアナさまの手に手を重ねた。 

「ーーっ。
 ありがとうヴィヴィアンさん。せめて頬の治療をさせて下さい」

「奥さま、結構頑丈で図太いから治療は大丈夫だと思うぜ」スージーさんが手をかざすアリアナさまを止めてくれた。

「スージーさん、その言い方酷いですよ。仮にも奥さまなんですが?」

「あ、忘れてたぜ」

「酷いです~!」 
 いつもの勉学のあと、アリアナさまの客間のような雰囲気に三人で顔を合わせて微笑んだ。


「ごほん。
 聖女アリアナよ。真の友を得られてなによりだ」

 国王さまの咳払いで我にかえる。あ、ここは謁見の間でした。スージーさんはさっと後ろに下がり控えた。私たちは国王さまに注目した。

「隠していたがダニエル王子の婚約者は聖女アリアナだ。彼女は既に妊娠している。悪阻は治まらないが安定期に入った。これで安心して聖都に里帰り出産させることが出来る。外因的危険因子の排除に積極的に協力してくれたヴィヴィアンとシオンに深く感謝する」 
 
 国王さま……勝手に協力させといて、しれっと積極的と言いましたね? タスクさんがタヌキ爺と表していたの頷けます。
 
「………」
 フガフガ喚いていたジャスティス王子が真っ青な顔で項垂れた。きっとこれから言われる言葉が解っているみたいに。 

「第二王子の婚約者が妊娠したからって……何だと言うのよ」ミリヤ妃の声も震えていた。 


「そこでーー子を成せたダニエル王子を早急に聖女アリアナと婚姻させ王太子として擁立する。
 それにともない、再三に渡る職務放棄。自領地、王都での借金の踏み倒し。歓楽街アレドリアから不当に税金搾取し散財した横領罪。領民の嘆願を故意に無視し魔物の吹き溜まりを放置した管理怠慢。
 それに、側近に対する粗暴・権力を傘にした婦女子に対する淫行。そして、ヴィヴィアンに対する暴行未遂。人格・素行的な欠陥があるジャスティス王子を廃王子とする。今後は領地を持たぬ一貴族として国王管理に置く。そして、誠心誠意ダニエル王子に仕えることを命じる」
 
 
「ーーーっ!?フガフガっ!!フガ、フガガンっ!!ーーっ!」
 頭を振り、必死に王に訴えるジャスティス王子。王太子候補から外されても、まさか王子を辞めさせられるとは思ってもいなかった。
 しかも、プライドだけは無駄に高い王子は、馬鹿にしていたダニエル王子に仕えることは死ぬほど嫌だろうな。嫌でも領地もないなら、仕えることでしか収入を得られない。

「待って下さいっ!まだお子が出来る可能性だってあります。ジャスティス王子を廃王子にしないで下さいっ!心を入れ替えさせて、今度は私がしっかり職務をさせます。横領しないように監視しますから。それだけは許して下さい~」
 泣きながらミリヤ妃が床にひれ伏した。小動物のように震える体は同情と庇護欲を誘う。

「そうか……王子妃の其方が監視してくれるのか?」
 
「はい!お任せ下さい。真心を込めて王子に仕えますわ……えっ」
 色好い返答をもらえると思ったのか声を弾ませて顔を上げたミリヤ妃は、国王の冷たい視線を浴びて顔をひきつらせた。

「優秀な獣人騎士団からの報告書によれば、税金搾取を率先して指示したのはミリヤ妃だそうだが?」

「そんなっ……私ではありません!全て王子の指示です。私はお止めしたんです!」

「フガっ、フガっ!!」
 激昂した王子がミリヤ妃に詰めよろうとして、護衛騎士に押さえ付けられた。

「ひぃ、怖いです!
 いつもああして暴力で命令に従うよう脅されていたんです……今回のヴィヴィアンさんのことだって。お止めしたのにっ!私も被害者なんです」
 儚く泣き、全ての罪をジャスティス王子に擦り付けようとするミリヤ妃。醜いですよー。

「被害者か?
 仮に税金搾取はジャスティス王子に脅されていたとしよう。しかしな……ジャスティス王子の身体検査結果の隠蔽、改竄。虚偽の報告書の提出は其方の指示だな?」
 ミリヤ妃、私に平然と王子は種無しと暴露していたのは偽の報告書を提出していたからなんですね? 
 私が種無しと騒いだら嘘つき呼ばわりされるところでしたよ。

「な、何のことですの?」
 ミリヤ妃の顔がひきつる。

「ミリヤ妃の懇意にしているフランソワ医者より正式な報告書を預かっていますよ……拝見しますか?」
 旦那さまはミリヤ妃の前に書類を置いた。くわっと掴んだミリヤ妃は、食い入るように書類に目を走らせた。

「うそっ!どうしてこの書類があるのよ!捨てるように言ったのに……あっ」
 語るに落ちるとはこの事ですね。

「不測の事態を想定して保管していたそうです。獣人騎士団総出で、フランソワ医者をしました。医者は罪を認め自ら全て話して下さいましたよ……ミリヤ妃の体に篭絡されたと。金銭を渡され、ジャスティス王子の検査結果を改竄したそうです」
 口の端を僅かに上げた旦那さま。丁寧な説得って、もしかして………。うん、きっと詳しく聞かない方が良いと思う。
 


 
 
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