悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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お邪魔虫と買い物デート①

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「紺色も濃緑色も素敵ですし、このヒラヒラの襟の形も斬新ですね~」  

「今年の流行りは、珊瑚色です」
 すかさずフローラさんが推し色を教えてくれる。
 
「むう、少し派手ではないですかね?」 

「このように然り気無くアクセントにすると派手になりませんよ」 

 たくさんのきらびやかな布の海を前に難破船のごとく迷っています。 

 なぜならーー美しい顔立ち、手足もすらりと長く整った体型の旦那さまと、プクプク頬っぺまん丸お腹のキングオブ可愛いとしか言えないシリウス。 
 この二人に合わない色の衣装など存在しないのです!
 
「ヴィー。そろそろ終わりにしましょう」
「マアマ、お水」 
 呆れ顔の旦那さまと試着二枚目で既に遊び始めてしまったシリウス急かされています。 

「すいませんっ。シリウス水筒がありますよ」
 
 私がフローラさんに店の中でお茶を飲ませて良いか確認すると、別室のティーラウンジに案内された。ゆったりとしたソファーが置かれ、高級感あふれる雰囲気。さすが王族貴族御用達の高級店です。
 小休止にとフローラさんが、私と旦那さまに丁寧に紅茶を淹れてくれた。シリウスにはジュース。おやつにとマカロンを頂いた。旦那さまが念のために一通り匂いを嗅いでいたけど毒の心配はなかったようで、シリウスは嬉しそうにマカロンにかぶりついていた。 

「シリウス……付いてますよー。そんなに美味しいのならママの分もどーぞ」 
 私のマカロンのお皿をシリウスの前に差し出すと、キラキラと瞳を瞬かせた。 

「マアマっ!ありがとー。まってて」 
 お皿のマカロンを掴むと小さな手で2つに分けると、右と左の大きさをジーッと確認した。
 
「どーぞ、マアマとはんぶんこ」 
 なんと!大きい方のマカロンを私に分けてくれたのだ。なんて優しい良い子なんだろう? 
 母は嬉しいです。その半分をありがとうと受け取る。半分をまた半分こにして食べ終わって名残惜しそうにお皿を見つめるシリウスのお皿の上に半分返しをしてあげた。 

「これ?いいの?」 
「うふふ、最後の一口は一緒にあーんしましょうか?」
「うん!あーん!」 
「はい!あーん!」
 シリウスと一緒にあーんして小さなお口にマカロンを食べさせた。シリウスが手を伸ばして私の口にマカロンを差し入れた。 

 はう、甘くて美味しいです。濃厚な味が口一杯に広がります。可愛い息子に食べさせてもらったからでしょうか?美味しさが倍増している気がします~。
 
 シリウスの夏のひまわりのような笑顔を堪能していると、背中側からひんやりと冷気の風が痛いほど刺さっています。クーラーってこの世界にありましたっけ?

 寒い寒い……ぞくぞくします。  
 後ろだけ冬のようです。

 …………ん?こっち側って、確か。 

 ………! 

 シリウスに夢中で一瞬忘れていました旦那さま。

「………ヴィー?……今、私の存在を忘れていませんでしたか?」 
 冬将軍よろしくただならない冷気と不機嫌オーラを発しています。 
  
「うひぁ、私が愛しい旦那さまを忘れるわけがないじゃないですか~?」 
 鋭い質問に流れた冷や汗が凍ります。

「……忘れていないと本当にそうでしょうか?」 
「本当ですよ!ただ……その~私と旦那さまの愛の結晶シリウスを可愛がるのに夢中になってただけです!ごめんなさい」 
 誤魔化しつつ、しっかり謝る。

「愛しいと言うなら………私にはしなくて良いのですか?」  
 目を細め眉間の皺は深い、口はムッと結ばれたまま。知らない人がみたら物凄く怒っているように思うだろう。でも、頭上の獣耳はへたり、お尻のしっぽも垂れ下がってる。

 怒るというより……これは落ち込んでる?
 一瞬忘れられたから? 
 うわわ……可愛いな~旦那さまも。 

「したいです旦那さまに!あーんって!毎日でも!!」
 
「毎日ですか?…………仕方ありませんね。貴方がどうしてもと望むなら叶えてあげましょう」 
 旦那さまは渋い表情のまま、腕組をしながら承諾してくれた。しぶしぶ了解した体裁を装いたいんだろうけど、獣耳としっぽがピーンと立って毛が逆だってますよ~。良かった嬉しいんですね。 


「はい!旦那さま!あーんっ!」
「おとうしゃま!ずるいぼくも~」
「シリウスはもう食べましたよね?」 
「いやいや~っ!たべるー。マアマにあーんしてもらうの~」

 結局、旦那さまはシリウスとマカロンを半分にした。私は、両手にフォークを持ち二人同時に「あーん」をすることになりましたとさ。
  

 
 ◇

 
 フローラさんにお店を騒がしてすいませんと謝った。美味しいおやつを食べ満足したシリウスは、持参した画用紙にクレヨンで絵を描いて大人しく遊んでいる。

「謝ることではございませんわ。噂には聞いていましたが本当に家族睦まじいご様子で微笑ましいですわ。三人に似合うよう真摯に衣装を作らせて頂きますわ」フローラさんは品よく微笑んでくれた。 

「フローラさん式典用の衣装は3着で、あとは普段使い出来るシンプルなお揃い服もお願いしたいです!」 

「出来ますわ……それでしたら、ご予算はいかようになさいますか?」  
 フローラさんは旦那さまにすっと向き直った。そうだよね?式典用衣装だけで家族分を考えると9着になるんだから。予算オーバかも。 


「旦那さまっ!ただ私がいつも家族三人でお揃いに出来たら嬉しいなって思っただけなので、無理なら次回でも…」  

「普段使いをお揃いで10着仕立てて下さい」 
 
「ふぇえ?」 
 変な声出たよ……待って旦那さまっ!3×10=30着だよ。いや、式典用のもあった全部で39着ですよー。

「えーと、ちょっと贅沢しすぎじゃあないですか?」旦那さまの袖をくいっと引っ張った。近づいた獣耳に小声で話かけた。 

「……シャーリングさんに旦那さまを誘惑し無駄遣いさせ、マクガイヤ家の財政を圧迫する悪女だと思われたくないです~」  

「ぶっ!くっ、くくっ」 
 旦那さまが口元を抑えて吹き出した。初めてそんなに笑う顔見ましたけど。今、笑うところですか?
 
「くっ…すいません笑ってしまいました。マクガイヤ家はこの程度の出費で傾くような家ではありませんよ……それに、結婚制約書の規定通り毎月貴女に資産を与えているのに、貴女の中身が変わってから全く使われていません」 

「えーと、それはマクガイヤ家での生活に満足しているから使わないだけです」  
 有りがたいことに日常生活に全く困っていない。 
 お姉さんの高価なドレスも装飾品もクローゼットに大量に保管されていて、今までそれを着回してきた。 
 今回は家族お揃いにしたくての初散財なので、39着も快く買って頂けるということですかね? 
 
 うわわ~旦那さま太っ腹です!
  
「旦那さまありがとうございます! 
 それでしたら、お互いの瞳の色のアクセサリーは私から贈らせて下さい」 
 お姉さんには悪いけど、高価なドレスや装飾品を何点か質屋さんに持って行けば予算は確保出来ると思う。 

「貴女から提案して頂けると思いませんでした……タスクに何か聞きましたか?」 
 少しだけ旦那さまの表情が硬い。え?なんで? 

「仲良し夫婦はお互いの瞳の色のアクセサリーをするって聞きましたよ。えっと違うんですか?」

「違いませんよ。その……深い意味までは聞いていませんね?」
 深い意味?ラブラブの他の意味ですか?知らないので、旦那さまの質問に頷く。 

「『引き裂かれ亡き君思い瞳色に魂の邂逅を誓う』ですよ」歌うように朗々と旦那さまは言った。 

「詩ですか?」

「まあ、『獣人恋歌』ですね!昔奴隷で虐げられて来た獣人の方々に自由はなく、好きな人との婚姻すら出来なかった。亡き恋人に来世では一緒になろうと固く誓う詩ですのよ」
 物知りなフローラさんが横から説明してくれた。
 
 なるほど~理解しました。それじゃあ深い意味と言うのは………もしかして。驚いて顔を上げると憂いを含んだアイスブルーの瞳とバッチリ目が合った。

「……その顔だと深い意味を理解したようですね?来世でも私と添い遂げると約束するつもりですか?」

「はい!喜んでします!フローラさん宝石も見せて下さいますか?」

「っ!」 
 
「ただいまお持ちします」 
 フローラさんが慌ただしく店の奥に引っ込んだ。
 
「……ヴィー。本当に良いのですか?獣人にとって重い約束になります」 
 旦那さまは私の肩にそっと手を置いた。

「旦那さまも覚悟はしてくださいね」 
 
「……覚悟ですか?」 
 旦那さまはぎょっとして私を見つめた。

「もちろん、来世でも私に毎日スキスキスキスキ言われて押し倒される覚悟ですよ」  

「ーーーふっ。その覚悟ならありますよ」
 旦那さまは不敵に笑って私を抱き寄せた。

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