悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

文字の大きさ
上 下
46 / 74

貴女が望むなら

しおりを挟む
 
「一昨日来やがれってんだーっ!」 
 ミリヤ妃の去った馬車のあとに塩を撒くスージーさん。 

「なんで?塩を撒くんだワン?もしかしてミリヤ妃は、ナメクジの妖精なのかワン?」 
 不思議そうにカンタさんが豪快にお清めをするスージーさんを見つめていたよ。 


 ふう、本当に騒がしい困った人でした。絶対夫婦交換なんてしませんよ!旦那さまは私のですから。 

「それにしても……凌辱未遂事件の薬のことわかったんですね?」 

「ええ、薬の名前はカリアシュ。歓楽街アレドリアに自生する花の根から作られる薬でした。昔は反抗的な奴隷や娼婦を言いなりにするため、使用されていましたが、長く使用すると自発呼吸すらしなくなり、自死を迎えてしまう。 
 今は……倫理的にも問題が有るため、製造、使用は禁止されています」旦那さまは不機嫌そうに言った。 
 
「うーん……ミリヤ妃は、禁止されている薬をどうやって手に入れたのでしょうか?」 
 
「そうそう、公には隠してるけどあのミリヤ妃の母親は、アレドリアの元娼婦だよ」 
 タスクさんが、詳しく説明してくれた。 
  
 ミリヤ妃の母が上客だったバレント男爵に妊娠させられ産んだけど、クズな男爵は「私の子じゃないと!」と、親子を切り捨てた。 
 そんな過酷な生活の中、ミリヤ妃は幼少期から娼館の手伝いをさせられていたそうだ。 
 少女に成長し癒しの力が発現すると、アレドリアで聖女が現れたと話題になった。 
 クズ男爵は、手のひらを返して「聖女は我が娘だ!」と、ミリヤ妃を養女に迎え、母親を側室にしたと。 
 男爵家に迎えられた母子は今までの鬱憤を晴らすかのように、贅沢三昧に遊んで暮らし男爵を頭を抱えた。大して裕福じゃない男爵家の財政を傾けるほど。でも、男爵の苦労は報われることになる……娘は学園でこの国の第一王子を射止めたのだから。

「ミリヤ妃なら、母親の昔のツテで薬を手に入れられたかもね……でもさ、四年も前だし立証するのは難しいよ」軽い口調でタスクさんが言うと、ギロリと旦那さまが睨んだ。 

「団長、怖いよ~?ほらさ、母親も眠るように死んでるし。詳細を聞けないから」  
 タスクさんは大袈裟にぶるりと狐の大きなしっぽを震わせた。そう、ミリヤ妃の母親は彼女が結婚して半年後に亡くなっている。 

「ヴィヴィアン……貴女が望むなら、時間が掛かかっても証拠を揃えます。冤罪を証明して名誉挽回します」旦那さまが初めて、私の前で膝を床につけ、かがむ姿勢を取った。優雅な所作で跪く。そして、美しい顔を私に向けた。 

 ひぁぁーっ!!これはっ! 
 騎士が姫様に忠誠を誓うときにするポーズ!
  
 騎士団の制服も相まって、凄くカッコいい。額縁に保存しておきたいぐらいです!ああ、この世界に写真がないのが悔やまれます。 

 せめて、この目に焼き付けないと! 
 じー、じーっと食い入るように見つめる。またばき一つだってしませんよ。 
 
「凄い目力ワン!焦げそうワン!」  
「奥様、目が乾くぜっ」 
「あはは、ヴィヴィアンさんって本当に団長が好きなんだねー」 
 尊敬の眼のカンタさん。呆れ声のスージーさんとタスクさん。
 
 外野はうるさいですが、お構い無しに旦那さまを見つめ続けますよ。 
 
「はあ、ヴィヴィアンは私を見つめるのに忙しいようですが……貴女の気持ちを教えてください」 
 待ちきれなくなった旦那さまはすくっと立ち上がりと私の手を握った。 

 ああ、眼福タイムが終わってしまった。 
 残念な気持ちを飲み込んで生真面目な顔をした旦那さまの前でかしこまった。旦那さまは私のことを真剣に思ってくれているのだから。
 
「……冤罪証明しなくていいです。 
 調査や立証に時間をかけるくらいなら、もっと旦那さまと一緒の時間を増やしたいです。過去じゃなくて今を大事にしたい」 
 大切なので小声で伝えた。そんなことより!もっともっと旦那さまを見つめたい。 
 
「よいのですか?今のままでは、貴女の名誉は回復されない」 

「回復しなくても旦那さまや、屋敷の皆さん騎士団員さんのおかげさまでなーんの不自由もありませんから」 
 お姉さんには悪いけど、名誉より旦那さまとの今の生活が大事。旦那さまを危険に晒したくもない。貴族的には名誉回復は重要なのかもしれないけど。 

 英雄の旦那さまの子供のシリウスが謗られることも少ないだろうし。
 
「それに……冤罪なら、それこそ罪滅ぼしに王子妃に戻してやろうとか、夫婦交換とかジャスティン王子に言われそうじゃないですか?王様が賛成したら王命になっちゃいます」 
 考えただけで鳥肌ものである。 
  
「……確かにそうですね」  
 第一王子夫婦の行いを思い出した旦那さまは、大きな溜め息をついた。 
  
 そして、真っ直ぐに私の顔を見つめた。  

「仕方ありません……貴女の望むように私との時間を増やしましょう」旦那さまの口角がわかりやすく上がった。 
  
「やった~!嬉しいです」 
 嬉しくて旦那さまに首に抱きつく。逞しい腕は自然に私の腰に回されて、長いしっぽがさわさわと太ももをくすぐる。 
 
「おとうちゃまっ!ぼくもだっこ~」 
 別室に避難していたシリウスが狡いとばかりに旦那さまの足を引っ張る。 

「シリウスは母親に似て、甘えん坊ですね」
 旦那さまは空いた手でヒョイっとシリウスを抱き上げ、肩に乗せた。「うきゃー」と、かん高い声をあげるシリウス。旦那さまの反対の手は、また私の腰に回されて。家族三人だんごのようにくっついた。 
 
 はうっ、温かい~。幸せ~。 

 この幸せは絶対守るぞっ!
  
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...