悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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旦那さまのいない5日間③

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 うーん、朝日が眩しい。 
 旦那さまの留守のベッドは広くて寂しい。寄り添い眠ったシリウスの柔らかい頬っぺたにキスをしてから起きた。ぬくもりを求めて身動ぎするシリウスに暖かい毛布をかける。

 早く起きて、昨日の分の書類仕事のお手伝いしないと! 
 昨日の一件でジャスティン王子は、王妃の監視下に置かれ、外出禁止になったので今日は安心して仕事に取り組めるはずです。

 外から聞こえる人の声、木を叩く音、物を引き摺るような鈍い音。  
  
 あれ?朝早いはずなのに玄関が騒がしい。急いで着替え、恐る恐る玄関ホールを覗くと、たくさんの職人さんが働いていた。その職人の中に親方らしき厳つい男の人の話すシャーリングさんとリンスさんを見つけた。 
 
「すいません奥様騒がしかったですか?」 
 リンスさんはいち早く私に気づき駆け寄ってきた。シャーリングさんはなにやら熱心に話込んでいる。 
 
「これは……昨日の乱闘の修復ですか?仕事が早いですね」  

「そうです。朝一番に町に伺いまして手の空いている職人に声をかけましたら、たくさん来ていただけました」穏やかに微笑むリンスさんは、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「奥様っ。顔色が優れませんわ。 
 昨日、ジャスティン王子に無理矢理に連れ去られそうになられたショックが大きいのですね。お痛わしいことですわ」大袈裟に嘆くリンスさん。 

「はーっ。
 ジャスティン王子は真実の愛を貫いたミリア妃に永遠の愛を誓ったはずなのに、今さら捨てた奥さまを寄越せと暴れられ屋敷を壊された。本当に迷惑ですよ」シャーリングさんは周りに聞かせるような大きな声、芝居かかった口調で話す。 
 
 ん?もしかして、わざと聞かせているのかな? 

 職人さんたちは手は止めないけど、一度シャーリングさんを横目でチラリと見た。うん、聞いてるみたいだよ。 

「旦那さまは、ジャスティン王子の治める領地の魔物まで代わりに討伐しました。それなのに……旦那さまの愛する奥さまを連れていこうとするなんて、酷い仕打ちですわ」リンスさんが悲しそうにハンカチで目頭を抑えた。涙は出ていないけどね。 

 ふええー!なにやら小劇場が始まったみたい。私も参加すべきなの?チラッと二人を伺うと二人とも私を見ていた………え?私も、何が言えと? 

「えーと、尊敬する旦那さまとかわいい子供と引き裂かれ、ジャスティン王子の子を産むなんてまっぴらごめんですわー」棒演技だけど、なんとか頑張った。吹き出しそうなので下を向き顔を覆う 

「奥さま!泣かないで下さい。さあ、お部屋に戻りましょう」 
 笑いを耐えぶるぶる震える肩にリンスさんが手を置くと、さっと寝室に誘導してくれた。危なかった~。枕に顔を埋め、布団をかぶりひとしきり笑った。 


 この日は一日中、修理で職人さんが仕事をする。私が心労で体調を崩したことの信憑性を増すため外出禁止にされました。 
 今日の騎士団詰所行きは諦めて、シャーリングさんに教わり昨日の書類仕事の続きをこなします。 
 それとなくさっきの小劇場のことを聞いたら、ジャスティン王子の狼藉を民衆に流布し、彼らを味方につけたいからと言っていた。
  
 シリウスはワタルさんと鉢を植え直し、スージーさんも一緒に水やりのお手伝いをしている。 

 私は、書類仕事が一段落してから、シリウスと一緒に昼食を食べた。今日はじゃがいものチーズグラタン。芋はなんと庭園の端にワタルさんが作った畑から収穫した。ほくほくのじゃがいもはとても美味しかった。

 お昼過ぎにシリウスに絵本を読んでいると、玄関からまたもや芝居かかった声が響いた。 

「まあーっ!奥様たいへんでございます。直ぐ玄関にいらしてください」 
  
「ど、とうしたんですかー?」 
 シリウスと慌てて玄関ホールに駆けつけると、巨体を揺らし、兎耳をピョコピョコさせたミミさんがいた。

「なんということでしょうかー!王子妃ミリア様より、奥様を王子妃つきの侍女に任命するとのお達しですわ~」
 こ、今度の役者はミミさんですかー?
 手降り身振り動作が大袈裟過ぎて大根役者ですが大丈夫ですかね~。
 しかも、女主人宛の手紙を勝手に開けて読んでるし、突っ込み所満載なんですが?  

 玄関ホールの職人さんがミミさんの剣幕に驚き顔を上げた。おっ、しっかり聞いてますね。 

「おいっ!どうした」
 演技とは無縁のスージーさんが通りかかり、怪訝な表情で手紙を読んだ。 
 あ、スージーさんも人の手紙を勝手に読んだら駄目ですよって、聞いてませんね。 

「はああっ?なんだよこれ。 
 王子妃つきの侍女なんて建前でジャスティン王子に差し出して、お手付きにするつもりじゃねーかよっ!クソ、公妾断ったら姑息な手段使いやがって!!」
 スージーさんは手紙をぐしゃぐしゃに丸めて床に捨てた。おーい、それ私宛ですよ。 

「まだ、シリウス様もこんなに小さく母親を求めておられるのに、親子を引き離そうとするなんて酷いですわ~」 
 ハンカチを両手に持ち、ミミさんがワンワン泣いた。本当に涙出てるよ。口調はわざとらしいけど、思っていることは真実みたい。 

「……マアマと、バイバイなの?ぼく、いやなのに」 
 ミミさんの雰囲気に飲まれたのか、シリウスも泣いて私の首にすがった。 

「バイバイなんてしませんよ……シリウスはママの宝物ですから。大きくなるまで側にいますよ!王妃さま付き侍女はお断りします!だから、安心して下さいね」優しく背中を擦ると、シリウスは泣き止んだ。

「マアマ!だいちゅき」 
「ママもシリウス大好きですよ」
 チューと頬っぺたにキスされたので、私もお返しのチューをした。 
  
 職人さんたちが顔を見合わせて、ポカンとしていた。仲良し親子アピールだったけど。もしかして、やり過ぎたかな? 
 まあ、いいや。本当に仲良し親子だから。
 気にせずシリウスが興味を示した職人さんの仕事道具を見せてもらった。 
 気さくに話し掛けると初めては驚いたような顔をしていた職人さんが、休憩時間にお茶とお菓子を出すと「貴族なのに気取ってなくて話しやすいです」と、最後には笑顔を見せてくれた。 
  

 その後……シャーリングさんに文面を教わりながら、ミリア妃に失礼にならないようにお断りの手紙を書いた。貴族はまどろっこしい。本音で書いたら、何処で挙げ足を取られるかわからない。書いた手紙は今日の鳥当番にお願いして王城に届けてもらった。 

 夕刻、職人さんたちが帰り見違えたように綺麗になった玄関ホール。シャーリングさんが支払いは全て王宮に請求して下さいと言っていた。 
 あとでまた、ジャスティン王子は王妃に怒られるだろうなー。あはは、自業自得だよね。 


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