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待ち焦がれた日
しおりを挟む誕生日会の準備が整い、赤いリボンを首に巻きおしゃれしたシリウスくんと一緒に会場に移動します。
「シリウス様!お誕生日おめでとうございます~!」屋敷の侍女さんと使用人さんたちから次々と祝福を受けます。
「ミャウミャウミャウ~っ!!」
カラフルに可愛らしく飾り付けられた会場を見て大興奮のシリウスくん。真ん中のテーブルに鎮座する特大ケーキを見上げひっくり反った。特に象さんの形に刈り取られた植木を前にお手々をバタつかせ大喜び。ワタルさんも満足そうに腕を組んでいた。
シリウスをお誕生日席に座らせると、左隣の席に座ります。右隣には旦那さまの席がありますが、座らずシリウスくんの横に。
その小さな肩に手を置いて、低音ボイスで朗々と語りだしました。
「朝早くから息子シリウスの為にありがとうございます。こうして、無事に2歳の誕生日を迎えられたのは、屋敷にいる皆のお陰だと思っています……今年は、喜ばしいことに初めて家族三人でこの日を迎えられました」
旦那さまはちらりと私を見た。つられるように屋敷の人達が私に視線を寄越す。責められてるのか、褒められているのかわからない。
取り敢えず椅子から立ち上がるとみんなに向けて、苦手なカーテンシーをした。優雅とは程遠いけど感謝を込めて。
「息子のシリウスくんのために、ありがとうございます!来年も皆さんと一緒にこの日を迎えられるように、家族仲良く過ごしたいと思います!」
にっこり顔を上げて、極上の令嬢スマイルを向ける。
「奥様が……我々に、感謝を言うなんて……本当に、変わられたのですね!」
「旦那様!シリウス様!良かったです」
感動にうち震える使用人、目頭をハンカチで押さえる侍女さん。シャーリングさんが手を上げ、ざわつくみんなを落ち着かせた。
「ほほほっ、主役のシリウス様がお待ちですよ!」
シャーリングさんは、さりげなく手作り誕生日ケーキの蝋燭に火をつけた。
「ああ、そうでした。すいませんシリウス。さあ、誕生日ケーキの蝋燭を吹き消して下さい」
誕生日の歌の大合唱とともに、旦那様に抱っこされたシリウスくんは、蝋燭を吹き消そうとフーッフーッしてる。
私も隣に立って歌い、手拍子をした。最後の一本がうまく消せないシリウスくんは蝋燭に近づき過ぎて、ひげを焦がしてしまったのだ。
美味しい御馳走に手作りケーキを食べ、お腹ポンポコリンで満足そうなシリウスくん。お口に付いたソースを拭きます。
屋敷の人達も立食パーティー形式で御馳走を食べています。本来、貴族と使用人が同じテーブルに付くことはないそうですが、今日だけは特別だそうです。楽しいから毎日でも良いくらい。
そして、お楽しみの誕生日プレゼントを渡す流れに。
シャーリングさん屋敷の侍女使用人一同から、博物館に置いてあるような立派な図鑑を贈られ、本の上で丸くなるシリウスくん。寝る前に本を読んであげよう。
ミミさんは、個人的に渡したいからと、手編み帽子と手袋をプレゼントしていた。編み目も綺麗で、シリウスの顔の絵柄つきの可愛らしい一品。さすがミミさん!クオリティ高過ぎます。 帽子を被ると、「かわいいー!似合います!」と、みんなから褒められ舌を出して得意げな顔をしていた。
旦那様のプレゼントの剣は……やっぱりまだ早かったみたいで、見向きもされず、旦那さまの背中から哀愁が漂っていました。
王子からシリウス専用の豪華な馬車が届いた。しかも立派な馬付き。これで王宮に親子で頻繁に顔を出させと仰るつもりだろうと、旦那さまが呻いていた。
第一王子ではなく、第二王子ダニエル様から、外に出られないシリウスくんにと珍しい植物の苗が届き、ワタルさんが嬉々として埋めていた。
ローベルハイム公爵家からは奴隷の首輪が届き、怒った旦那さまが凍り付けにして踏み潰していた。なんて、嫌な人たち……こんなおめでたい日に水を差すなんて!シリウスくんが嫌いなら何も送ってこなれば良いのに。
ぐぬう、使えるなら歯が地味に痛くなる呪いをかけてやりたい。
そして、最後にーーー。
私のプレゼントです。シリウスくんの隣で作成していたので、今更感はありますがきちんとラッピングしましたよ。なんとか形になった完成品喜んでくれるでしょうか?
ごくりーーっとみんなが固唾を飲んで見守ります。
その心中には、母親から手作りのファーストシューズを贈られたら、履いて歩きたいと思い、シリウスくんが人型に変化してくれるのではないかという、強い期待が感じられます。
「シリウス様っ!良かったですね」
ミミさんは、すでに感極まって泣いていた。
シリウスくんは、器用にリボンを咥えると引っ張り、包装紙を剥いでいく。
中から出てきた、ファーストシューズは少し歪んだ形で左右の靴の大きさが少し異なった。色は灰色かかった白で刺繍で縫ったワンポイントのシリウスくん大好きなイチゴは瞑れた形になってしまった。まるで赤い目のネズミが横たわっているよう。
「……奥さま?これが完成品?嘘、だよな?」
的確にスージーさんが突っ込んできた。
「ファーストシューズを作ると聞いていましたが、ネズミのオモチャの勘違いでしたか?」
旦那さまの顔がひきつる。
シリウスくんもそう思ったのか、ファーストシューズをがぶりと噛むと猫キックをかました。
「いいえ、ファーストシューズです!……これが、奥さまの精一杯なんです」
ううっと嘆くミミさん……毎日指導してくれたのに、ミミさんごめんね。規格外の不器用で。
「シリウス様!見かけはアレですが、奥様のお心が込もっておいでですよ」
リンクさんがすかさずフォローしてくれた。うう、その優しさが時に痛い。
「シリウスくん、不器用なママでごめんなさい!上手に出来なくて。でも貴方の健やかな成長と健康を願って作ったの」
クンクンとファーストシューズの臭いを嗅ぐシリウスくんをそっと抱き締めた。
「産まれた時に、伝えられなかった言葉を今の私から贈らせてほしいです」
「ヴィヴィアン…」
心配そうに眉根を寄せる旦那さまに、にっこり微笑んでから、すうっと息を吸うと真っ直ぐシリウスくんを見つめた。
「私、シリウスくんに出会えて良かった。貴方は世界にひとつだけの宝物だからね。産まれて来てくれて、ありがとう!」
チュッとほっぺたに口づけをした。
「……ミャウミャウ~っ……ミャっ~っ!!みっ!!」
瞳を潤ませ鳴いていたシリウスくんの体が大きくぶるりと震えて、跳ねた。
え??なに??驚く私の腕の中で、小さな輪郭が形を失い別のものに変化していく。猫だったシリウスくんの手足がぐんと伸び、体の毛皮が消失した。
「ええ??シリウスくんなの??」
「シリウスっ!!」
「シリウス様っ!」
みんなが一斉に私の腕に駆け寄った。そこには、人の姿の愛らしい幼児があどけない顔でみんなを見つめていた。
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