27 / 74
怒涛(?)のお誕生日会
しおりを挟む待ちに待ったシリウスくんのお誕生日会。
朝早くから屋敷の人たちと準備に追われます。会場はシリウスくんのお気に入りの庭園の東屋です。
豪華な飾りつけをしてシリウスくんを驚かせたいと一番張り切っているのは、庭師のワタルさん。植木を器用に動物の形に整え、リボン、オーナメントで綺麗に飾り付けをしている。
男の使用人さんが会場にテーブル椅子を運び。スージーさん、ミミさんたち侍女部隊がテーブルクロスを敷いたり、花や飾りつけしカラトリーを準備する。リンスさんたち別部隊は厨房から料理を運び、次々と置いていく。あっという間にテーブルの上は御馳走でいっぱい。カンタさんが見たら泣いて喜びそう。
シャーリングさんは有名なスイーツ職人に頼んだ五段重ねの誕生日ケーキと、これまた旦那さまが知り合いの獣人鍛冶屋に注文したシリウスくん用の剣を取りに行っている。3歳のシリウスくんに剣は早いような気がするけど……立派な騎士になるよう願いを込めて贈りたいそうです。
私の役割はシリウスくんが会場に入らないように引き付ける係り。
豪華なお店の誕生日ケーキもありますが、前に約束した誕生日ケーキをシリウスくんと一緒に作りますよ~!旦那さまも今日ばかりは仕事はお休みで、私の監視係です。
シリウスくんは猫型なので、(ロボットじゃないよ)
細かい作業は難しい。
卵を割ろうとして潰したり、小麦粉をふるいにかけようとしてばら蒔き、頭から浴びて白猫に変身した。蜂蜜を舐めようとして壺を壊したりと大惨事です。
結局……私がシリウスくんの体と手を支えて一緒にボールに入れた材料を、ヘラで混ぜ合わせてスポンジ生地を作る。旦那さまにお願いして卵や小麦粉などを手渡してもらった。旦那さまは私がアレコレ頼んでもイヤミ一つ言わず手伝ってくれたよー。眉間の皺は浅いし心なしか口角が上がっているような……もしかして、機嫌が良いのかな?そうだった嬉しいな~っ!
初めてのケーキ作りにシリウスくんはお目目をキラキラさせて、ざっくり混ざった生地を見つめていて。
出来た生地を釜戸で焼く間にクリームと飾り付けの果物の準備です!
柔らかい果物なら力の弱いシリウスくんでも切れそうなので、小さな手でも使い易い危険のないバターナイフを用意した。
シリウスくんにバターナイフを持たせて上から押さえて、飾り付けのイチゴを半分に次々に切っていきます。あっという間にボールの中はイチゴでいっぱいに。
「シリウスくん、初めてなのに上手に切れて偉いね~」大袈裟に褒めて頭を撫でると、嬉しそうに目を細め「ミャウっ~」と鳴いた。可愛いなぁ~。
クリーム作りは力仕事なので、体力のある旦那さまにお願いした。魔法で出した氷でキンキンに冷した生クリームを力強く泡立てる旦那さま。その筋肉の浮き出た二の腕に私の視線は釘付けです!
はう、旦那さまカッコいいっ!!
出来上がったスポンジが冷えたら、シリウスくんと一緒にクリームを塗ります。全体をヘラで縫って上面は絞り袋に取り分けたクリームでデコレーションしていきますよ~。少し形がいびつだったり塗りムラがあってもそこは手作り、ご愛顧です!
シリウスくんは夢中でイチゴを飾りつけています。ぺちゃっと飛んだクリームが顔ついて、あれ?頬が白くなってる。
「うふふ、シリウスくん!ほっぺ拭きますね~?」
ハンカチでシリウスくんの頬をゴシゴシ拭いていると、ぐいっと腕を取られ腰を旦那さまに引き寄せられた。ジーッと顔を覗かれて。
「ん?旦那さまどうしたんですか?」
「貴女にも……ついていますよ」
旦那さまの美麗な顔が近いと思ったら………ざらりとした舌にペロッと右頬を舐められた。
「ええ~?旦那さま!つ、ついてましたか?」
不意打ちで驚き、顔が真っ赤になってしまう。舐められた頬を手で押さえた。うわわ~!ほっぺた、ペロリきましたよ~っ!!閨以外で旦那さまからちゅうされたの初めてです! 嬉しくて軽く気を失いそう。
「ふっ、ここにも……ついてます」
旦那さまは頬を押さえる私の手首を掴むと、顔から引き離した。スッと旦那さまの綺麗な顔が近づいて……。
え??これってもしかして口にちゅーされちゃう流れですか? まるで夢みたい!旦那さまからの口づけなんて。鼻と鼻がくっつきそうな距離に期待で胸が痛くなる。嬉しい、嬉しいですが。シ、シリウスくんが見てますよーっ!
思わず目をぎゅうっと瞑る。唇に旦那さまの冷たい唇が落とされる……ことはなく。
「ひぇっ!!」
ざらりと舌で鼻の頭を舐められた。予想外で目を見開き旦那さまを見つめた。旦那さまは綺麗な形の口の端を上げニヤリと笑う。
「……もしかして唇にしてほしかったのですか?」
「ふえぇっ~!酷いです旦那さまっ!いたいけな奥さんをからかったのですか~?
鼻チューも嬉しかったですけど……でもでもやっぱり唇にしてほしいです」
おねだりするように、旦那さまの袖を引っ張っり、熱っぽく見上げた。
「ーーーっ!!本当に貴女は……私が好きなんですね?」呆れるような声音なのに、私を見下ろすアイスブルーの瞳は心なしか柔らかい。
「はぁ、仕方ありません……貴女が……どうしてもしたいと言うなら、叶えて差し上げましょうか?」
「えっ!!本当に本当ですか~?旦那さまからですよ!深いのですよ!良いんですか!」
「ええ……騎士に二言はありません。目を瞑って下さい
武士なら聞いたことのある台詞だけど、嬉しいので突っ込まないでおく。言われた通り、目を瞑りいそいそとその時を待つ。
「ミャウミャウ~!!」
シリウスくんの鳴き声と共に、右肩にずっしりと重さを感じた。え?シリウスくん私に飛び乗ったの?目を開けるとシリウスくんのひげが視界いっぱいに広がる。ち、近いっ!!
「シリウスっ!!何をしているんですか?」
シリウスくんは旦那さまの制止を聞かず、私の頬を小さな舌でペロペロペロペロ舐めた。少しささくれだった舌がこそばゆい。
「あはは、シリウスくんくすぐったいですよ?クリーム、まだついてますか?」
肩に乗ったシリウスくんを胸に抱き直して聞いた。
「……ついているわけは…」
「ミャウ~?」
シリウスくんは不思議そうに小首を傾げたあと、旦那さまに向けて「シャーっ!!」と鳴いた。
「シリウスくん威嚇ですか?旦那さまに珍しい態度ですね?ママを取られるとでも思ったのでしょうか?」ヨシヨシと背中を撫でるとすぐにゴロゴロと機嫌がなおる。
「……それもありますが……嘘をつくなと……怒っています」
「嘘って……なんのことですか?」
まさか?唇にキスするのが嘘ですか?期待させといて凹みますよ。
「………さあ?ご自分で考えて下さい」
旦那さまは私から顔を背けると、出来立てのケーキを会場に運んで行った。
58
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

隣国に嫁いだちょいぽちゃ王女は帰りたい
鍋
恋愛
パンデルム帝国の皇帝の末娘のシンシアはユリカ王国の王太子に政略結婚で嫁ぐことになった。食べることが大好きなシンシアはちょいぽちゃ王女。
しかし王太子であるアルベートにはライラールという恋人がいた。
アルベートは彼女に夢中。
父である皇帝陛下には2年間で嫌になったら帰ってもいいと言われていたので、2年間耐えることにした。
内容はありがちで設定もゆるゆるです。
ラブラブは後半。
よく悪役として出てくる隣国の王女を主役にしてみました。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる