悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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閨のあとで②

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 抱き潰され寝込んだ翌日。 
 まだ、多少体が痛いけど復活した私は、騎士団砦に向かう馬車に揺られながら特大のため息を吐いた。 
 
「はあっ、旦那さまの気持ちを聞くチャンスだったのに、本当に残念です」 
 そう、あの日旦那さまの返事は聞けなかった。  ミミさん、スージーさんの包囲網を振り切り部屋にシリウスくんが乱入してきたからである。 
 
 邪魔をされたとシリウスくんを責めるつもりはないです。ママとパパが自分を差し置いて、楽しそうに会話をしていたら、混ざりたいし一緒に居たいのが子供という生き物って知ってますから~。逆にいじらしくて可愛いです! 

「奥様そう落ち込むなよっ! 
 最近はシオン隊長と同じ寝室で寝てるしよ。その、朝のキスだってしてんだから嫌われてねぇよ」

「………嫌われてないだけで、好かれてもいないかも~」窓枠におでこをつけて突っ伏した。 

「おお……珍しく弱気だな? 
 でも、今更だぜぇ。簡単に取れねえぐらい、マーキングされてるし」  

「……マーキング?え??私の体、まだ精子臭いですか?ちゃんとお風呂に入ったのに~?」 
 くんくんと自分の匂いを嗅いでみる。ん?臭くない。フローラルな花の匂いしかしない。 

「風呂ぐらいで簡単に落ちるかよ……奥様、人間だからわかんねえか? 
 マーキングてのは、『こいつは俺の雌』だぞっていう所有アピールと『俺のだから手を出すな』ってて、他の男をけん制する為にするんだ。」 

「ええ?そうなんですか?」 
 旦那さまのマーキング行為に本当にそんな意味があるなら泣くほど嬉しい。目蓋がじんわり熱くなる。 

「ああ、自信持ちなよ。旦那さまは嫌いな人間にマーキングしないさ。それに奥様は鼻がもげそうなぐらい臭いからよ!」 

 ええーー?そんなに臭いの??感動の涙も引っ込んだ。

  
 しばらく石畳を揺られると騎士砦に着いた。でも、旦那さまのお昼ご飯と騎士団員の差し入れを届けたら直ちに帰らないと行けない。 
  
 時間があったら鍛練を見学して旦那さまと一緒にお昼ご飯を食べたいのだけど、シリウスくんの誕生日まであと数日……ファーストシューズを作る時間が足りない。日々の練習で指を刺すことは無くなり、試しに何足が試作品を作ったけどミミさんの合格を得られず。 
 焦った私がお誕生日会が終るまで裁縫に集中したいから、騎士団訪問をお休みしたいと提案した。今だって無理やり押し掛けているようなもの。問題ないの思ったんだけど。反対の声は以外な人物から上がった……シャーリングさんだった。 
  
 私が伯爵家から騎士団詰所に訪問する際は毎回町中の大通りを通過する。
 時折、シリウスくんや屋敷のみんなのお土産、騎士団員に差し入れとして大量に買うからお店の人の愛想は良い。 
 娯楽に飢えている平民の人たちは貴族の動向を良く観察している。  
 しかも、私は観劇で有名な悪役令嬢のヴィヴィアン、嬉しそうに買い物をし、足しげく旦那さまの元に通っているから注目の的だそうで。最近仲良しだなぁっと思われている。 
 閨の直後から騎士団訪問が途絶えたら絶賛払拭中の不仲説が再燃するとシャーリングさんは危惧してる。 

 私と旦那さまが良好な関係なら、公爵家率いる反獣人派に付け入る隙を与えない。更に平民、中立貴族の支持を得られれば抑止力にもなる。 
 ゆくゆくは長く大陸で奴隷として不当な扱いを受け搾取されてきた獣人の地位向上と待遇改善を目指したいと熱く語っていた。
 
 つまりそれは、人前で旦那さまとラブラブして仲良しだとアピールすれば良いのですね~!そのミッションお受けしますっ!
 
 折衷案として、誕生日会が終るまでは砦まで旦那さまにお昼ご飯を届ける。その後ニコニコ笑顔を馬車の窓から振り撒きつつ屋敷に帰るということで落ち着いた。

 困るのは、シリウスくんも私と一緒にお出かけしたがって、この前は馬車にこっそり乗り込んでミミさんに怒られていた。ごめんよシリウスくん、人型に成長出来るように成ったら旦那さまをお話して、一緒に騎士団に行けるよう説得するからね!

  
  
「カンタさん!居ますか~?旦那さまのお弁当持ってきました。食べないでちゃんと渡して下さいね」
 厳つい門にたどり着くと、門番のカンタさんにお弁当を届けてもらうよう声をかける。 

「……ずいぶん、遅かったですね?」 
 門の前には、イライラしたように獣耳を小ギザミに動かす旦那さまが仁王立ちしていた。 

「悪りぃな隊長。道が混んでたんだ」 
 すかさずスージーさんが口を挟む。 

「旦那さま??どうして門の前に?カンタさんはどうしたんですか?」 

「カンタなら後ろに居ます」 
 旦那さまが顎で示した場所に悲しそうにカンタさんが立ち尽くしていた。

「聞いてよヴィヴィアンちゃん、シオン隊長酷いんだワン!」 

「……ヴィヴィアンちゃん?私の妻にずいぶん馴れ馴れしいですね?」 
 旦那さまのこめかみにピキッと血管が浮き出た。
 
「僕が責任を持って、お弁当をシオン隊長に届けるって言ってるのに信用してくれないんだワンっ!」
 
「まあ、いつもバクバク食ってるし信用出来ねえよな?」スージーさんがすかさず指摘する。 

「カンタ……毒味とは名ばかりに、全部食べるつもりでしょう?」冷ややかに旦那さまはカンタさんを睨んだ。  

「そんなことしないワンっ!!半分しか食べないワン!!」 

「ダメです!一口も分けるつもりはありません」 
  
「うわわーっ!!酷いんだワンーっ!!」
 旦那さまがきっぱり拒否するとカンタさんはその場で崩れ落ちて泣いた。 
  
 カンタさん、お弁当一つでなんて大袈裟な…。

「あはは、カンタ諦めたら~? 
 シオン隊長は、ねちっこくマーキングした愛しい奥様の手作り弁当を他の雄にくれたくないんだからさ~」ニマニマ笑顔を張り付けてタスクさんもやって来た。 

「タスク……ねちっこくなんてしていません。早く仕事に戻って下さい」  
 焦ったようにしっしっとタスクさんを追い返そうとする。 

「いやいや~……ねちっこい、ねちっこい。 
 隊長のマーキングの匂い奥の鍛練場まで漂ってますよ~。いやぁ隊長が熱い閨を過ごせたみたいで俺も嬉しいですよ」
  
「タスク!ふ、ふざけないで下さい」
 旦那さまが赤い顔で怒鳴ってもタスクさんはけろりとしていた。

「いやぁ~っ!隊長怖いな。こ~んな愛妻弁当にお礼も言わない、怒鳴る男に嫌気が差したら何時でも俺の胸に飛び込んで来ていいからね」 
 タスクさんは旦那さまに聴こえるように、私の耳に囁くと手をヒラヒラさせて戻って行った。 

「くっ……余計なおせわです」 
 立ち去るタスクさんの背中を睨んだあと、くるりと私の方に向いた。 

「こほんっ……ヴィヴィアン孃、お弁当ありがとうございます」
 私に深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。旦那さまは恥ずかしいとき、ぶっきらぼうな言い方になる。今も恥ずかしいみたい。

「いえいえ、愛する旦那さまのためだったらいつでも作りますよ~!」  
 力こぶを作ると旦那さまにお弁当を渡す。旦那さまは大事な物のようにお弁当を抱えた。 
 楽しみにしてたのかな?そうなら嬉しいなー。旦那さまの好物をふんだんに詰め込んだからきっと喜んでくれるはず! 
  
 その間、泣き止まないカンタさんをスージーさんが諌めていた。スージーさんが町で買った焼き菓子を与えたら直ぐに泣き止んでいたっけ。うん、明日からカンタさんにはお菓子を与えよう。 


 そんなこんなで、誕生日まで数日っ!ミミさんに厳しく指導されファーストシューズ作りに励みます。 
  
 お昼にはお弁当を持って騎士団砦に行き。帰宅後シリウスくんが疲れるまで一緒に遊び。また続きを縫う。夕食は帰ってきた旦那さまとシリウスくんと一緒に食べ、お風呂に入り夫婦の寝室で休みます。 
 なんと閨用の寝室が夫婦の寝室に変わった。キングサイズのベッドに家族三人で川の字に眠れる幸せ。シリウスくんの無防備のへそ天とか、私に甘えて肉球でお腹にフミフミする姿に日々悶えます。       

 うう、息子が可愛すぎて辛いっ!! 

 深夜二人が寝付いたら、至福タイムに突入です。 
 まず旦那さまの腕を拝借し腕枕をします。そして、その逞しい体に体を擦り付けて密着です! 
  
 ああ、旦那さまの筋肉は素晴らしいです~。おもいっきり触りたいところですが、そこは我慢。起こす訳にはいきません。更に私の足を旦那さまの足に絡めれば完成形です。 
 時折旦那さまは悪夢をみるのか、苦悶に耐え辛そうに眉間の皺を深めます。呼吸も荒いし心配です~。 
 一度医師にかかるよう薦めたら、「貴女の責任です」と、凄まれて。 
 
 夢の中でお姉さんが旦那さまを苦しめているんだとしたら大変です! 
 旦那さまに尋ねたら「無自覚だから余計タチが悪いです」と、呆れられました。

 
 そんな数日間を過ごし。
 ーーとうとうシリウスくんの誕生日をむかえた。

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