悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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緩やかな変化②

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 午前はミミさん指導で縫い物をして、シリウスくんと遊びお散歩。座学をこなし、その後手伝ってもらい差し入れ用の料理を作ります。  

 そしてーー久しぶりに騎士団詰所に押し掛けます。自分も行きたいと鳴くシリウスくんを諭しミミさんにお願いして来ました。本当は一緒に連れて行きたいのですが旦那さまからの許可が貰えず……ごめんねシリウスくん。  
  
 円形状の鍛錬場の休憩用の椅子に差し入れ用のサンドイッチを広げ旦那さまを見学中です。 
  
 そして、ここでも嬉しい変化が……今まで団員さんたちに、遠巻きにされていて、話し掛けてくるのはタスクさんかカンタさんしか居なかったのですが、私の顔を見ると挨拶してくれるようになりました! 
  
 これも、口淫効果ですかね?
 
「美味しいわん!」 
 私の隣に座るのは騎士団内の私の護衛件、毒味係のカンタさん。 
  
 私の本来の侍女件護衛のスージーさんは「体が鈍って公爵家私兵なんぞに遅れをとった!奥様が騎士団にいる間ぐらい鍛錬させてくれ」と、旦那さまから許可を奪取。厳しい鍛錬に参加しています。 
  
 快活に重い剣を振り回すスージーさんは、水を得た魚のよう、本当は騎士団に戻りたいんだろうな~。 

 次は玉子サンドを食べようとバスケットに手を伸ばすが、何も掴めず。 
 バスケットの中を確認すると、既に半分以下に減っていて。
  
 え?消えた。うそ?たくさん作ったのに! 
  
 横を見るとカンタさんが両手持ちでサンドイッチをパクついていた。犯人は真横に存在した! 

「ええ~っ!カンタさん毒味しすぎです!うう、酷いですよ!旦那さまの分が無くなっちゃうっ!」 
 
「毒味は必要なんだワン」 
 カンタさんがまたバスケットに手を伸ばす。このままじゃ、全て食い尽くされてしまう。 
 ひょいっとバスケットが持ち上がり、カンタさんの手が空しく途中で止まった。バスケットを持っていたのは、冷たくカンタさんを睨む旦那さまだった。  

「カンタ……鍛練場50週してきて下さい」  
 
「ひ、ひどいワン!」 
 旦那さまの命令で鍛練場を走り出したカンタさんを後目に旦那さまは私に付いてくるよう言った。 
 鍛練後の上半身裸の旦那さまの美しい広背筋を舐めるように観賞しつつ、廊下を付いて行くとそこは団長室でした。 

 初めて入った団長室は、奥に大きな執務机、壁際に本棚。中央に応接セットの椅子とテーブルが置いてあるシンプルな部屋。机の上も本棚も小綺麗に整理されていて几帳面な旦那さまらしい。 

 旦那さまはテーブルにバスケットを置くと私を椅子に座るよう促し、続き部屋に引っ込んだ。暫く待っていると着替えを済ませ、手にコーヒーカップを2つ持って出てきた。芳ばしいコーヒーの薫りが鼻孔を擽る。 

「どうぞ」 
 私の前にコーヒーカップをコトリと置いた。  

「え??もしかして旦那さまが淹れてくれたのですか?」 
 感動してカップを持つ手が震えてしまう。 

「私以外に誰が居ますか?……いいから飲みなさい」
 
「…はい」 
 一口飲むと上品な苦味とまろやかな味。 

「美味しいです!旦那さま」 
 
「……それは良かったですね」 
 ふわりと旦那さまが笑った。雪解けのような柔らかい笑みに心臓がわしづかまれる。 
くうう、笑みの破壊力に意識を失いそう。額縁に入れて飾っておきたい!  

「貴女が得意という料理、頂きましょうか?」 
 
「オススメは白身魚のフライサンドですよ!あれ?もう1つしかない。ひどいカンタさん食べられてます」 
 せっかくお魚好きの旦那さまのために作ったのに、最後の一個をどうぞと進める。 
  
 旦那さまはサンドイッチを掴むと器用に半分こにし、大きい方を私に差し出した。然り気無い優しさに心がじんわりする。自然に笑顔になり、二人で向き合いサンドイッチを頬張った。穏やかな時間が流れる。 

「……料理が得意というだけあって……悪くはありませんでした」
 食後に旦那さまからお褒めの言葉をもらえたよ。 
 
「本当ですか?嬉しいです。また作ってきますね」
 空になったバスケットを抱え帰路の準備をする。 
 
「ふん……期待しないでお待ちしていますよ。なにぶん貴女は忘れやすい」 
 朝の件を持ちだされ、いつもの口調でからかわれた。
  


 --こうして、週末まで過ごし決戦の日。閨がやって来た。昼間からそわそわして落ち着かない私にスージーさんが声を掛けた。 

「奥様、今よ閨の準備してんだけどいつもと一緒でいいのか?」 

「え?いつもと一緒とは?」 

「拘束用のロープに鎖に、猿ぐつわに目隠しと潤滑油、ろうそ」 

「No ーーーー!!!」 
 思わず英語で叫んだ。 

「いきなり大きい声出すなよ!耳がピリピリするぜ」スージーさんは大きな狼耳を押さえた。

「ごめんなさいスージーさん動揺しました。えーと、普通の閨の準備をお願いします」 
 愛のあるラブラブエッチに不穏な道具はいらないのだ! 

「は?普通ってなんだよ。アタシ経験ねえから、わかんねえよ」
 スージーさんはポリポリ鼻を掻いた。 

「えー?経験ないってスージーさんって処女なんですか?」 

「悪りぃかよ?」 

「悪くないです!意外なだけで……ちんこくさいとか言ってたから」経験豊富なお姉様かと思っていたよ。 

「くせぇだろうちんこはよー」 
 恥ずかしいのか、ふんと鼻を鳴らす。 

「……ここは性知識の深そうなシャーリングさんに相談してみますね!経験談とか聞けそうですし」家令だし閨のルールとか詳しそうである。  

「ま、待てよ!シャーリングに閨に付いて聞くのかよ?」 
 スージーさんは真っ赤な顔で大きなしっぽを掴み、明らかにそわそわし始めた。 

 あれぇ?もしかしてスージーさんって!シャーリングさんが好きだったりするのかな?年かなり離れてるようだけど。
 
「興味ありませんか?シャーリングさんの性体験」

「………あるけどよう……聞けるわけねぇし」  
 ゆでダコのように顔を真っ赤に染めもじもじしている。さっぱりしてそうで恋に奥手な様子がかわいい。 

「スージー、護衛に付いて相談したいことがあります」ちょうどドアをノックしてシャーリングさんが部屋に入ってきた。 

「なな、な、なんだよ!シャーリング!」 
 あからさまに意識しすぎなスージーさんを不思議そうに見つめ、シャーリングさんは彼女を連れて出ていった。スージーさん、アピールがんばって!

 入れ違いに入室してきたリンクさんに相談して一般的な閨の準備をしてもらえることになりました。  
 
 
 
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