悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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お・も・て・な・し(?) 

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 玄関にたどり着くと、ひたすら頭を下げて謝るシャーリングさんが見えた。遠巻きに侍女や召使いが様子を伺っている。 

 シャーリングさんの前に偉そうに腕を組む一人の青年。 
 その青年から少し離れて後方に公爵家の私兵と思われる屈強な男たちが10人ほど控えていた。かちりした襟首の黒い騎士服に身を包み腰から刀を下げている。 

「ちっ、随分と好戦的な奴等だな」 
 スージーさんに言われたくはないと思うけど。小馬鹿にしたような視線をシャーリングさんに向ける兵士たちに良い気はしない。 

「こんにちはっ!公爵家の使者さんたちですか? 
 マクガイヤ家ようこそにいらっしゃいました。ところで、うちの家令が何か失礼なこといたしましたか~?」  
 にこやかな笑顔を張り付け、知っている限り丁寧な口調で青年とシャーリングさんの間に割って入る。

「お、奥様っ!どうしてこちらに」 
 突然の私の登場に目を白黒させるシャーリングさん。 

「#大事な_・__#お客様がこられたと聞いたので、旦那さまの変わりに来たのですわ!こんな玄関先で申し訳ありません。直ぐに応接室にご案内します。 
 シャーリングさんお茶の準備をよろしくお願いしますね」 
 口許に手を当てて、さりげなくシャーリングさんに黒く変化した結婚指輪を見せた。私の意図を察したシャーリングさんは笑顔で応接室にお客様を案内する。 
 
「はっ、案内するのが遅いよ。遠路はるばるこんな薄汚い獣屋敷に来てやったというのに」 
 ふんと鼻を鳴らし悪態を付く青年をギロっとスージーさんが睨んだ。 
 気持ちはわかるけど、早まらないで~っ。目でスージーさんを宥めつつ、お客様をソファーに座らせる。 
 シャーリングさんが慣れた手付きで紅茶を淹れ青年の前に置くと青年は手で追い払うようにして言った。  

「馬鹿ですか?獣が淹れた獣臭い紅茶なんて出されても飲まないよ!さっさと下げてくれるかな?」 

 壁際に待機する兵士たちも同調するように鼻で笑う。は?感じ悪いんですけどーーっ。熱々の紅茶を顔にかけてやりたい!

「まあ、とても美味しいですのに残念ですわ」怒りを紅茶とともに流し込んだ。 

「ヴィヴィアン様は、獣との生活を強いられ味覚まで、壊れてしまったんですよ」  
 味覚までってなに?この人ケンカ売りにきたのかな?
 
「馬鹿にしやがって!てめえら、何しにきやがったんだよ」沸点の低いスージーさんが怒鳴った。 

「スージー落ち着きなさい。私の部下が失礼しました申し訳ありません」  
 深々とシャーリングさんがまた頭を下げた。 

「獣に何度頭を下げられても不愉快なだけです。同じ空気を吸いたくもない……ヴィヴィアン様獣は閉め出して人間だけでお話をしましょう。とても有意義で大切なお話です」 
 青年は私の両手をいきなりぎゅっと握り締めた。

 ひいいーっ!嫌悪感が鳥肌と共に全身に広がるぅ。今すぐ閉め出したいのはこの青年ですが~。くううっと歯を食い縛り耐えた。変な声が出そう。 

「えっと、彼らは私の信頼する大切な使用人たちです。それより有意義で大切なお話を聞きたいですわ」 
 
「ヴィヴィアン様!貴女はお美しい」  
 さりげなく振り払おうとした右手を持たれ、その甲に口づけされた。 

「おいっ!!」
「スージーっ!!先に手を出したら負けですよ」 
 ナイフを持ち襲いかかりそうなスージーさんをシャーリングさんが必死に止めた。
 手を出したらどんな難癖つけられるかわかったものじゃない。正当防衛だと後ろの兵士に暴れられたら厄介だもの。 

「……私、名前も知らない貴方に口づけを許可した覚えは有りませんよ?」 
 目の前でハンカチを出し、これ見よがしに拭いた。わーん、私が穢れたよっ!手の甲にキスして良いのは旦那さまだけなんだからーっ!(してもらったことないけど) 
 
「それでは覚えて下さい!今からヴィヴィアン様の夫となる隣国ヘラルドのムカラナ公爵子息マルセル・ムカラナです」 

 は??? 
 隣国の公爵子息が、なんでここにいるの? 
 え?夫って言った?? 
 この人大丈夫?脳ミソ腐ってる? 

「ご、ご冗談を……私の夫はシオン様、ただおひとりです」 
 シオン様しか考えられないです~! 

「御安心下さい! 
 あの獣は誓約書を破り聖女様を襲ったそうじゃないですか、遂に野蛮な獣の正体を表した。これで獣有責で堂々と離縁出来る。記憶を忘れるほどおつらい獣の屋敷に居なくてもいいのです。 
 今すぐ公爵家に帰って私と結婚して子作りしましょう。今度は醜い獣ではなく人間の子が出来ますよ。そして、二人で公爵家を繁栄させましょう」マルセルさんは私の体に下卑た視線を走らせた。ひいいーっ!繁栄が繁殖に聞こえたよー。  

 うわわっー!!キモイキモイーっ!!この人嫌いー。思考回路おかしいよ。安心出来る要素がひとつもない。吐きそう、いや確実に吐く。 
  
 気分が悪く口許を押さえ下を向いた私に何を勘違いしたのか、マルセルさんは続けて言った。 

「感動して言葉も出ないようですね!さあ、獣小屋から脱出しましょう!俺の姫」 
 私の手を引っ張り無理やり椅子から立たせ抱きしめようとする。 
  
「嫌だーっ!!触らないでー!!キモイ~っ!!」 
 キスしようと近づく顔を必死に押し返す! 

「奥様助けるぜっ!!」 
「先に狼藉を働いたのは公爵家です」
 スージーさんがナイフを、シャーリングさんはクナイを構える。 
 
「マルセルさまの邪魔はさせない」 
 兵士たちも剣を抜いた。狭い応接室に大降りの剣は使いにくい。案の定テーブルや壁を掠め手元が狂う。 

「スージー殺さず、戦力を削ぎなさい」 
  
 スージーさんが鮮やかに、攻撃を避け兵士の利き手にナイフを刺せば、負けじとばかりにシャーリングさんもクナイを兵士の足先目掛けて投げていく。足先ごと床に固定された兵士は悲鳴をあげ、床に尻餅をついた。 
 おおざっぱで標的を外すスージーさんより正確に動く兵士の数を減らしていく。 

 あれ?シャーリングさんって……もしかしてスージーさんより強い?! 
 まさか、ワタルさんより強いこの屋敷の一番ってシャーリングさん?穏やかで無害そうなのにっ! 

「素直になって私に全て委ねて下さい」 
「ひいいーっ!」  
 忘れていた目の前の私の敵。 
 渾身の力で押し返すそうにも男のマルセルさんの力に敵わない。魔法を使おうにも両手で使って押している最中。押し負けてマルセルさんの鼻息が頬にかかる。 

 く、臭い。 

「た、助けてっー!!」  
「ミャウーーーっ!!!」 
 飛んできた白い小さい塊がマルセルさんの顔に綺麗に張り付き、バリバリと顔を引っ掻いた。 
「え?シリウスくんっ!!」 
 怒って全身の毛を逆立てるシリウスくんだった。
「ぐわわっー!!痛いっ!!このっ!!獣がっ!!」  
「止めてっ!!」 
 マルセルさんは暴れるシリウスくんの首根っこを掴むと床に叩きつけた。ぎゃんと悲鳴をあげシリウスくんの小さい体が床に転がる。 
 
「シリウスくんっ!!」 
 駆け寄り声をかけると小さい声でミャウと鳴いた。こんな小さな体で私を助けてくれたんだ。早く怪我の治療をしないと。
  
「シリウス様に酷えことしやがってーっ!!」 
 マルセルさんはスージーさんが投げたナイフを容易く避けると、懐から短剣を構えとシリウスくんを悪鬼のごとく睨んだ。

「由緒正しい公爵家の跡取りが、こんな獣なんておかしい!俺の方が相応しいんだ」 
 
「シリウス様っ!!危ない」 
 シャーリングさんが投げたクナイがマルセルさんの短剣を弾き飛ばした。一瞬だけ怯んだマルセルさんは、ニヤリと笑うと足を大きく振り上げた。 
 
「踏み潰してやるっ!!」 

「絶対にダメーっ!!」 
 私は、シリウスくんを覆うようにして庇う。どかっと背中に鈍い痛みが走った。マルセルさんに蹴られたんだ。何度も下ろされる鈍い痛み。 
 初めて知った暴力の理不尽。圧倒的怖さ、心を抉る痛みにガクガク震え、涙が止まらない。 
 
 でも……絶対にここは退かない。


「私の屋敷で何をしているのですか?」 

 底冷えする怒気を孕んだ声が、文字通り応接室を凍てつかせた。マルセルさんと兵士たちが一瞬にして氷の石像と変わる。 
 
 ああ、良かった来てくれたんだ。 
  
 その冷たい声に安心し、振り向けば部屋の入り口に旦那さまの姿が見えた。 
 
「……旦那さま」 
 弱々しく愛しい名を呼ぶ。 
 旦那さまは私に気づくと青い顔で駆け寄って支えてくれた。
 
「遅くなりました。大丈夫ですか?」 
 旦那さまの泣きそうな顔初めてみたよ。憂い顔も格好いい~。シリウスくんが心配だよね。 
   
「……シリウスくんが私を助けて酷い怪我して……守れなくてごめんなさい。は、早くお医者さまに診察を……」傷ついたシリウスくんを手渡すと、目の前がどんどん暗くなる。 
 
「ーーっ!ヴィヴィアン」  
 うわあ、初めて嬢が抜けたよ。ちょっと嬉しいな。安心した私は気を失ってしまった。 

 
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