悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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招いていないお客様②

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 お昼寝から目覚めたシリウスくんとミミさん特性おやつのニンジン蒸しパンを食べ、小川の畔で水遊びをした。足首程度の深さで小さなシリウスくんでも溺れる心配なくて安心。 
 その後……裁縫が苦手とミミさんに素直に話したら、図書室で簡単な裁縫の本を探がすことになったよ。 
 
 侍女というかほぼ護衛の仕事しかしていないスージーさんは、遊ぶ私たちを横目に剣の鍛錬のしていた。指導するのは眼光鋭い鬼コーチと化したワタルさん。 
  
 図書室に移動すると告げると「クソ、もっと鍛えたかったぜ」と、不満を吐露しつつもしっかり付いて来てくれた。護衛ありがとう。でも、図書室の本棚を見るとあからさまに顔をしかめた。 

 本棚は手に届く下の範囲に絵本、天井に近い場所には大人用の本。子ども用の机に椅子。古い本の匂いは、小学生の図書室を思い起こさせた。 

 シリウスくんが引き摺ってきたお気に入りの絵本を椅子に座り、お膝にシリウスを座らせると読み始めた。それは、古い屋敷に住む怖がりお化けのシロくんが、勇気を振り絞り人間から屋敷を守るお話。 
 毎日のように弟たちにせがまれ、繰り返し同じ本を読んだことを思い、温かい気持ちになる。  
 その間、ミミさんに『基礎のそのまた基礎から始めよう!お裁縫』的な本を探してもらう。 

  

 穏やかな午後になるはずだったのに--招いていないお客様は唐突に押し掛けて来た。 

「大変でございます!奥様っ」
 静かな図書室に転がり込んで来たのは、リンスさんだった。長い兎耳が緊急事態を表すように、ピーンと立っている。 
 
 シリウスくんがびっくりして跳ねて、本が床に落ちた。 

「どうしたリンスっ!お前らしくない大声出して、久しぶりに敵襲かっ?」 
 好戦的なスージーさんはスカートをたくしあげガーターベルトに隠していたナイフを構えた。 

「敵襲でしたら、細切にすれば済むことでございます。敵より厄介な奥様のご生家ローベルハイム公爵家から使者です」 
 こ、細切れ? 
 スージーさんならいざ知らず、上品な物腰のリンスさんから不穏な言葉が聞こえたような……。 
 
「シャーリング様が時間を稼いでおりますが。なにぶん格上の公爵家ですので強い拒否も出来ません。
 家長のシオン様が不在時は、本来家長代理の奥様が対応なさるのが、あるべき形なのですが……奥様は記憶を無くされておりますし……それに……」 
 リンスさんは言いにくそうに私を一瞥した。  

「ああ、奥様は頑なに公爵家の人間に会いたくないと言い張ってな。シオン隊長と結婚してから一度も生家に帰っていなんだ」 
 言いにくそうなリンスさんに変わってスージーさんがサクッと説明してくれた。 
 
「え?それじゃ……シリウスくんはどこで産まれたんですか?」
 
「ミャー」
 悲しそうにシリウスくんは鳴いた。
 
「獣人だったら公爵家にどさくさ紛れに葬られ、死産にされる可能性があったからよ。王命で王城で出産したんだぜ」 
 
 反獣人派で獣人だからと孫を平気で殺そうする公爵家は、獣人と結婚して子を産んだお姉さんを平気で罵倒して、この裏切り者とか言いそうだ。 
 
 ああ、わかった!。お姉さんご実家が大嫌いだったんだっ。 
 三年近く一度も会わず一度も帰らないほどに。
 でも、帰りたいわけないよね?お姉さんが実家に帰ってきたら無理やり浮気させて、次の世継ぎの公爵を生ませるつもりなのに。 
  
 私は、旦那さまとしかエッチしたくないから固くお断りします~っ! 
  
 旦那さまの不在を狙うように押し掛けてきて、迷惑ですよ。本当に今さら何が目的で来たんですかね~? 
 
 
「……わかりました!旦那さまに留守をお願いされています。私が対応してみます。シリウスくん……ママはお客様の相手をするので、良い子で待っていて下さいね」 
 私は、不安そうなシリウスくんに声をかけるとミミさんに託した。   

「お待ち下さい!奥様が出られたら、あの連中これ幸いにとシリウス様を奪いにきかねません……リンス、シオン様にご連絡は?鳥は飛ばしたの?」 
 ミミさんの必死の剣幕に歩き出した足を止める。リンスさんは、肯定の意味を込めて深く頷いた。鳥は既に飛ばしたみたい。  

「今日の鳥当番は、梟獣人のクロウだぜ。タイミング悪りいなぁ。まだ暗くねぇからすんげえ遅いぞアイツ……」髪をぐしゃぐしゃにしてスージーさんが呻いた。 

「……旦那さまが屋敷の異変に気付けばいいんですね?」 

「あん?そうだが……」 

「ううっ、旦那さまに怒られそうです。スージーさん、後で一緒に謝って下さいね~っ」 
 私は目を閉じて指先に意識を集中させた。意識の底から沸き上がる暗い力。 
 初めて魔法を行使し手のひらに黒く丸い闇を具現化させる。結婚指輪がビリビリッと痛みを伴って震え、石が真っ黒に染まった。 

「……これで、旦那さまは大慌てで帰って来ますよ~」今頃、連動して旦那さまの結婚指輪も黒く染まっているはず。 

「うええ?約束破って魔法を使ったのか?仕方ねぇ一緒に怒られてやるよ」 
 ニヤリとスージーさんが笑った。  

「ミミさん!旦那さまが来るまで公爵家の相手をします。シリウスくんを安全な場所にお願いします」 
 ミミさんに出来立てほやほやの黒丸くんを渡した。相手の視界を黒く染める効果があるので非常時に使うようにと。 
 
「取り急ぎ他の護衛も手配します」 
 リンスさんも慌ただしく出ていく。
 
「ミミ!ワタルさんの小屋に避難しとけ。あの人はシオン隊長の居ねえ屋敷で二番目に強いから」  
 ミミさんは大きく頷くと大事そうにシリウスくんを抱きしめ駆けて行く。 
  
 あんなに強そうなワタルさんが二番目?一番目はスージーさんってことかな? 
 まあ、何番だっていいや。スージーさんが護衛なら心強いから。
  
「さあっ!私たちも公爵家をお・も・て・な・し!しましょうか?」 
 悪役令嬢らしく強気に微笑んで玄関に向かった。
 
 
 
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