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言質はいただきました
しおりを挟むそんなわけで………。
シャーリングさん全面協力のもと、『家族思いの女性になろう作戦』が開始されることになりました。
第一段として、家族で過ごす時間増加計画発動であります!
ここでの家族は旦那さまとシリウスくんです!三人で家族中を深めつつ、さりげなく旦那さまにアプローチして目指せ相思相愛です!
興奮疲れて寝付かれなかった朝、うとうとする私はスージーさんに起こされていそいそと食堂に向かいます。
お姉さんは貴族、身の回りのお世話は侍女がずるそうで、不器用ながらもスージーさんが手伝ってくれた。下着姿を堂々と他人に見られるなんて気恥ずかしいのですが。なるべく自分でやりたい。スージーさんに話したら二つ返事で了解をもらえたよ。
夜会や外出など本格的な装いが必要な時は別の侍女が対応してくれるそうだ。
スージーさんにお礼を言ったら「奥さまに文句は言われたことはあるけど、お礼は初めてだよ」ってさ。
公爵家で蝶や花よって育てられたお姉さん的には、騎士上がりで護衛としては一流でも侍女としては未熟なスージーさんに不満だったみたい。
獣人を毛嫌いしてたと聞いたから、獣人にお世話されること事態が苦痛だったのかもしれないけど。
今、私たちは王都の貴族区画の済みにあるマクガイヤ辺境伯爵のタウンハウスを仮の住居として住んでいる。
旦那さまのお義父様とお義母様はグランシア国王がまだ王太子だった頃に出会った。病死した父王の死後その混乱を突いて王弟のクーデターが勃発。
利権を餌に数多くの貴族が王弟に賛同するなか、地方に逃げのび四面楚歌だった王太子を守り助けたのは、王太子派とお義父さんとお義母様の所属する出来たばかりの獣人騎士団だったそうで。
王弟に人質に取られていた王太子妃を侍女に扮したお義母様がお助けになり、近国イリアの王姉だった妃は母国に助けを求めた。
隣国の協力と騎士団の活躍で城に攻め入り見事王座を奪還した。
その際、お義父様は王太子を庇い聞き手を負傷した。命を救われた王太子は感謝を示して、お義父様に伯爵籍と肥沃な辺境の土地を与えたんだって。
お義父様は怪我を理由に辺境に引き上げ、その後旦那様が産まれ獣人貴族として辺境で鍛えられて育ち、少し遅れて貴族学園に入学した。
入学とともに王命で王子ジャスティスの護衛騎士に任命されたんだってさ。
学園を卒業後は、断罪されたお姉さんと結婚し、王命で獣人騎士団隊長に任命された。
任命されて一年後に魔窟からスタンピードが発生。王都に流れ込む前に獣人騎士団が殲滅して、英雄扱いされるようになったと。
以上、説明終わり!
広い食堂の白いテーブルには、既に仕事前の旦那さまと反対側のお誕生日席にシリウスくんが付いていた。子猫のシリウスくんは専用の座面の高い椅子の上のクッションにチョコンと座っていた。
うわー!ぬいぐるみみたいで可愛い。
あれ?旦那さま、今日は……眼鏡かけていない。知的魅力は消失して、目が大きく成ったような、銀色の睫毛も長く麗しい。少し若く幼い印象を与えた。
どっちに転んでも全面に押し出される美麗すぎる顔面偏差値の高さは変わらないのさ。
はわわ、今日もカッコいい。カラトリーを使う所作も綺麗。白い獣耳が私の足音に反応して神経質に動いた。
近づく私の顔を見ると露骨に眉間の皺を深める。嫌われているんだなーっと凹みつつ、極めて明るい声を出した。
「旦那さま!おはようございます!今日は眼鏡かけていないんですか?まあ、眼鏡のない旦那さまもカッコいいですけどね」
食堂にいた使用人、侍女たちがぽかんと大口を開け私を見ていた。私の発言が信じられないのだろう。停滞する彼らをシャーリングさんがこほん!っと咳払いをして、呼び覚ました。
「眼鏡は、書類仕事の時しか使用しませんよ……それよりなぜ?ヴィヴィアン嬢が朝食の席に?」
旦那さまは私のカッコいい発言をスルーしつつ、眼鏡の疑問には答えてくれた。
眼鏡男子は書類の時のみか~っ、ちょっと残念。毎日でも拝見したい!
あ、でも、旦那さまって眼鏡有り無しを選べる!一粒で二度美味しいんじゃあ。
ああ、やっぱり尊いです。旦那さま~!
「旦那さまとシリウスくんと朝ご飯を一緒に食べようと思いまして、駄目ですか?」
お姉さんの外見は高貴な美人さん、その美貌は大輪の薔薇のよう。外見をフル活用してにこりと微笑んでみる。
男性使用人が私の微笑みを見て頬を赤らめた。よし、効果あったよ!旦那さまにもかからないかな?
「………駄目もなにも、今までお誘いしようものなら『このわたくしに獣と食事を取れと言うのですかっ』!っと激怒されたのはヴィヴィアン嬢ですよ?」
絶対零度の空気を惑いイヤミたっぷりに言われてしまう。うわーっ、笑顔魔法効いてないよーっ!
「さ、左様ですか誠にすいません!、……記憶がないもので」変な言葉使いしちゃったよ。思わず土下座したくなっちゃう。それにしても、お姉さんとことん獣人嫌いだね。
頭を下げる私にざわつく使用人。シャーリングさんがなにやら旦那さまに耳打ちしてる。
おお!シャーリングさん味方よっ!助け船ですか?
でも、助け船は意外な所からやって来た。
「ミャー」
椅子から飛びおりたシリウスくんが背伸びして私のスカートの端を噛むと引っ張った。
「え?シリウスくん!?どうしたの?」
まるでこっちにおい出でて、言ってるみたいにスカートの端をぐいぐい引っ張る。
「し、シリウス様!
お、奥さま、すみません!怒らないであげて下さい!私の躾不足です!お叱りならこのミミが受けますので」
シリウスくんの乳母のミミさんが真っ青な顔で、ぶるぶる震えながら謝る。へたりと垂れる兎耳がちょっとかわいい。
「ミミさん!頭をあげて下さい。こんなことで叱りませんよ」
「へ?」
ミミさんが驚き顔を上げた、肉に埋めれた赤い瞳が大きく見開かれた。赤色だったんだね瞳。
「シリウスくんは私を案内したいんですよね?」
私はシリウスくんの小さな体を抱き上げるときゅうと抱き締めた。
「ナアーっ!」
肯定するようにシリウスくんが鳴いた。
「うわーっ!!まだ、産毛みたいだわ!柔らかふかふかもふもふっ~!お腹は模様なくて真っ白なんだ。はう、堪らない感触!もう、かわいい~っ」
ゴロゴロと喉を鳴らすシリウスくんのもふ毛に頬をくっつけ堪能していると、やっと旦那さまから声がかかった。
「……シャーリングから話を聞いています。今さら私たちと家族に成りたいと都合の良いことを言っているとか?」
その鋭利な冷たさに一瞬怯むも、シリウスくんにを抱いたままずいっと一歩前に進む。
「そうです!
今さら信じられないと思いますが家族三人で仲良く暮らしたいです!
当たり前みたいに三人で笑って泣いて、一緒に食事をしてお出かけして添い寝してお風呂に入れる家族になりたいです!」
勢いに任せて一気に言い切ったよ。
うんざりするほど家族中の良かった湯浅家みたいになれるなら嬉しい。
離れてわかる家族の大切さ、ありがたさ。物凄く愛されて丁寧に接してもらい尊重されていたこと。
ああ、私お馬鹿さんだったよ。うざいと思ってごめんなさい。
「信じられない、奥様が……家族と」
「そ、添い寝に、お風呂に……あの、奥様が」
ざわ…。ざわ…。ざわつく使用人の波を誰も止められない。
「…………」
無言の旦那さまの顔に苦渋の色が濃くなる。
「ナアナアーっ!!」
シリウスくんが旦那さまに必死に鳴いて訴える。旦那さまは特大のため息を一つ吐くと。
「わかりました……シリウスの為です。ここは家族ゴッコと言うことで貴女の気まぐれに付き合いましょう……まあ、いつまでも持つかは知りませんが」
ニヤリと口角をあげて挑戦的に旦那さまが言い放った。
「やったー!!言質は貰いましたよ旦那さまー!!」
私はシリウスくんを抱いたままテンション高く跳ねた。
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