3 / 74
悪役令嬢だって謝罪します
しおりを挟む「大丈夫ですか!?」
ミミさんの泣き声に慌てた様子のシオンさんとシャーリングさんが部屋に駆け込んで来た。少し遅れてお医者さんが黒いカバンを下げて登場した。
なななんと、シオンさんっ!
いや、結婚してるなら旦那さまと呼ばせていただこうっ!
銀縁眼鏡かけてるよ~っ!!眼鏡属性きたわーっ!!賢さアップして益々凛々しい魅力爆上がり。
眼鏡クイっとして、私を萌え死にさせるつもりなのかーっ!
「ああ、眼鏡も素敵だわ」
声に出ていたみたいで、旦那さまは目をハートにしてる私を不審者のように見た。その、冷たい瞳もカッコいい。
「……素敵?」
「……お、奥さまっ?」
シャーリングさんと、ミミさんが戸惑いの声をあげる。
「貴女がシリウスに触れるなんて、雪でも降りますかね?」
旦那さまは、イヤミたっぷりに言うと私にスリスリしている子猫を奪い抱き上げた。
私から引き離され、子猫は「ナーッ!!」っと不満そうに鳴く。
「あの……旦那さま……私がこの猫ちゃんを産んだって本当ですか?」
「……本当ですよ貴女と私の子供です。獣人は出産の比較的楽な獣姿で生まれることが多いのです。まあ、貴女は獣を産んだショックで錯乱し、生まれたばかりの我が子を放り投げようとしましたが……」
「え?」
まじかーっ!お、お姉さん……いくらショックでも自分の子供投げたら母親的にアウトよ。
夢の中で旦那さんとうまくいってないと嘆いていたけど、お姉さんにも問題があったのでは?
うーむ…お姉さん側の深い理由はわからないから一概には言えないけど。
今、お姉さんの体の私がなんと言ってよいのか正直解らない。けど、目の前の小さな命に怖い思いをさせてしまったのは事実。今後お姉さんとして良好な関係を築きたいし。なにより健気に鳴く子猫ちゃんが可哀想で。中身は違うけど、ここは潔く謝るのが人としてだろう。
私は毛布を剥ぐとベッドの上で正座した。姿勢を正し子猫ちゃんに三つ指付いて頭を下げた。
「怖い思いをさせてごめんなさい」
「ナアーっ」
「これは……!!まさか」
「まあっ、奥さまが……謝るなんてっ」
シャーリングさんが絶句し、ミミさんはおろおろするばかり。
「これは何の……真似ですか?貴女が頭を下げるなんて」
「……親でも悪いことをしたら、子供にきちんと謝ります」
そんなに驚くことかな?
親だって人間だよ。失敗もするし間違えることだってある。お姉さんさんのしたことは簡単に赦されることではないけど。
「ナアーっ!ナアー!!」
子猫ことシリウスくんは旦那さまの腕の中から抜け出すと、私の太ももにすり寄ってくれた。
おでこを必死に擦り付けるさまが、なんともかわいいらしい。自分を害そうとした酷いお姉さんを赦そうとしてくれるのかな?ありがとう、本当に優しい子だね。
シリウスくんは、旦那さまを見上げると、「ミャウ」と一鳴きした。
「……シリウス、わかりましたよ…仕方ないですね」
まるで猫と会話しているような……旦那さまは肩を竦めると、鋭く私を見据え言い放った。
「……今日の貴女はおかしい……まるで別人のようです」
「さすがっ!!旦那さまです!そうなんですよ!私お姉さんじゃなくて、中身別人なんです~!」
旦那さまの両手を掴むと自分のこと、夢の中で出会ったお姉さんと入れ替わったことを切実に訴えた。
その、結果ーーー。
お医者の診察を受けることに。
現実逃避による記憶の錯乱、つまり記憶喪失と診断されましたわ。
はあ………そりゃあ、信じられないよね?自分の身に起きた事じゃなかったら、私だって信じられないもの。
「お互い意に染まぬ婚姻でした。ヴィヴィアン嬢にとって子を成し2年経過しても、獣人の妻は憎悪の対象でしたが……」
「違いますよ!本当に入れ替わってっ!」
「わかりましたよ……記憶を失くすほど私のことがお嫌いだと」
「嫌いじゃありません!!モロにタイプです!」
「………は?」
「旦那さまのこと好きです!」
言いきったよ私っ!
旦那さまからの返事はない、私は羞恥に徐々に顔が赤くなる。旦那さまの顔が見られず俯いた。
わかってもらおうと必死過ぎて忘れてたけど、この場には、お医者さんをはじめシャーリングさん、ミミさん、シリウスくんも居たのだ。シリウスくんは私の膝の上でお昼寝してたけど。
大勢の前で旦那さまに告白をしていたわけで、その場にいた人たちは固唾を飲んで私と旦那さまの成り行きを見守る。
「…………今度は、懐柔作戦ですか?」
「え?」
地を這うような底冷えする声に上を向く。綺麗だけど憎悪をのせたアイスブルーの瞳と視線が絡み合う。愛しい奥さんに向ける視線とは思えない。もしかして、お姉さんって旦那さまに嫌われてる?
「学園の時のように今度は、私を意のままに操ろうと?」
「ち、違いますよ!わ、私は本当に」
学園の時ってなに?お姉さんなにしたの?
「私を操り離縁に持ち込みたいのでしょうけど、お忘れなく………ヴィヴィアン嬢は贖罪として私と結婚していることを」
お姉さんっ!贖罪って本当に何したのよ~!
47
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる