最後は一人、穴の中

豆丸

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あなたのもの

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 2日後、カスミとヨナはロッテトリスクを後にした。カスミは、「みんなには、内緒ね」と、聖なる力を解放しガロウの病気を治療した。感謝するガロウに、奥さんと子供を大切にするようにと、釘を差すことも忘れない。 

 ガロウは、砂漠を森にしてやると豪語し、半獣に飽きたらいつでも会いに来い、と余計な事を耳打ちした。 

「ヨナに飽きることないわよ!」カスミは、事も無げに返す。 

 カスミに絶対的に信頼されている……護衛として。期待を裏切り、悲しませ嫌われたくないヨナは、カスミに手出し出来ない。 

 悪魔の穴が近づくにつれ、魔物が増える。町も村も減りその分野宿が増えた。当たり前のようにカスミは、ヨナのシュラフに潜りこむから、ヨナにとって辛く長い夜が続いた。マミアナ商会からの執拗な刺客を振り切り。魔物には、必要最低限の聖なる力を使い進んだ。 


 そして、聖女の命日の前日廃墟の町サイにたどり着いた。魔物がうようよする町まで刺客も追っては来ない。カスミは魔物対策で聖なる加護を自分とヨナに二重に施し、半分屋根の残った家屋に結界を張る。 

 今夜は、早く夕食を済ませ、英気を養い明日早朝に悪魔の穴に向かう予定だ。ヨナが荷物から食料を並べる。干した肉をスープに削いで入れ柔らかくし、お椀に入れカスミに手渡した。パンとチーズ、少しの果物を二人で分け合う。 

「うー。最後の晩餐にしては寂しいわねー」愚痴を言いながら、カスミは夕食を完食する。 

「姫さん、食い物があるだけましですよ!」 

「そうだけど……はあっ、煙草あと一本しかない。明日行く前に吸いたいから今夜は我慢か……あー。口寂しいわー」カスミは、床が剥がれ剥き出しになった土に生えた草を口に咥えた。

「こら!姫さん、草を咥えない!煙草なんて贅沢は帰ったらしてくださいよー」 

「えー!帰りたくない!この先もヨナとずっと一緒に居たいの!明日なんて…来なければいいのに……」 

「…姫さん、それって」 

「ごめん嘘。煙草なくて不安定なだけよ!あー!口寂しいわ!え?……ヨナ?」 

「―――これなら、寂しくないでしょう?」 

 ヨナは、荒々しくカスミの唇を塞いだ。 

カスミが驚き抵抗しないのをいいことに、角度を変えて、何度も何度も繰り返す。いつものヨナらしくなく、どこか切羽詰まった行為。 

「カスミ、半獣の相手は嫌ですか?嫌なら止めます」ヨナの目が熱を欲を孕み、真っ直ぐカスミに向けられた。

「………ヨナって、ちゃんと性欲あったのね」 

「ははっ、姫さん。俺をなんだと思ってたんですか?人型の抱き枕か、なにかだと?」 

「違うわ。ヨナ最初私のこと警戒してたし、他の護衛みたいに、すぐ襲ってこないから……」 

「一緒にシュラフで寝ても無害で安心だと!カスミが怖がるから、やせ我慢してただけですよー」

「我慢してたの?」  

「ええ、好きでもない男にヤられたら、カスミがかわいそうだ」  

「ふふ、私かわいそうなんだ?」酷く寂しくカスミは笑う。 

「さっきの言葉は嘘ですか?俺はカスミとこの先もずっと一緒に居たい!あなたを俺だけのモノにしたい……好きですよ」 

 ヨナの真摯な告白がカスミは嬉しかった。胸が幸せで苦しい、ヨナと一緒に生きる未来はどんなに楽しいだろう。 


(私は、ヨナに好きと告白は出来ない。明日悪魔の穴に身を捧げるのだから……せめて今夜だけ)


 カスミは、返事の変わりにヨナの胸に抱き付いた。「ねぇヨナ、寂しいの貴方のぬくもりを私にちょうだい。ヨナのモノにして……」 


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