最後は一人、穴の中

豆丸

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 カスミはレストランの入り口階段下で膝を抱え、うずくまっていた。
「……ごめんなさいヨナ。私、嘘をついてたの」 
「ははっ、知ってましたよ初めからね」  
「そう、知ってたの?嘘でも、一緒に来てくれたのね」カスミは、泣き笑いの顔をした。
「姫さんを護衛するって、約束しましたからね。俺は半獣だけど一度した約束は違えませんよー」 
 カスミは顔を歪め、手の甲で目頭を押さえ下を向き、くっと唇を噛みしめた。そして、何か決心したかのように顔をあげた。カスミは、もう泣いていなかった。
「ヨナ………ねえ聞いて、私のこと!」 
 カスミは、自分の過去を犯した罪を語りはじめた。  
 
「悪魔の穴を開けたのは私なの………。
 私は、ただママが可哀想で帰してあげたかったの、そのための犠牲なんてこれっぽっちも考えなかった!」 

「カスミは、子供だったんだ…」 

「そう、子供で無知で純粋で、時空の歪みがなぜ、魔王城に存在したのか考えなかったの」  

「うーん、確かになぜだろう?」  

「……魔王の躯があったからよ。死んでなお人々を怨み、呪い、泥沼化した負の強大な闇の力は、時空を歪ませ、魔物を生み出したの……私はそこに穴を開け魔物を解放してしまった。この10年で穴は広がり続けてる。もうすぐ臨界点を越えてしまうわ」  

「ははっ、臨界点って?嘘みたいな話だ。そいつを越えると、どうなるんだ?」

「ナルシア大陸全てが穴になるの」 

「……穴に?」 

「そう、虚無。万物の根元としての無よ。みんな無くなるの」

「みんな……無くなる」 

 途方もない話に、ヨナは上手く言葉が続かない。のどが酷く乾いた。
 
「無くならないよう、私は穴を埋めに行くの」  

「穴を埋める、どうやって――そうか!だから聖なる力を貯めていたのか?」

 ヨナの言葉を肯定し、カスミは、にこり笑う。 

「ママを帰してから、兄王様と協力して穴を塞ぐ方法を探して、マミアナ商会に魔道具を作らせたの。  それから、聖なる力を今までずーと貯めてきたの、長かったわ~! 
 初めての旅行で嬉しくて、たくさんヨナを振り回しまってごめんなさい。もう寄り道はしないわ。この先魔物も増えるし、マミアナ商会も絡んできて危険に巻き込んじゃうけど………ヨナに改めて護衛をお願いしたいの……だめかな?」カスミの瞳が不安そうに揺れた。
 
「……はあっ。散々人を振り回してきて、今さらですね姫さん。俺はこれから先もず~と姫さんの護衛です。決して一人にしませんよ~」ヨナは呆れたようにカスミの頭に手を載せた。 

「ヨナに甘えていいのね?私を……悪魔の穴に連れて行って」 

「姫さんはふらふらして危なっかしい、ちゃんと俺が責任持って連れて帰りますよー」 

 ヨナがおどけて見せた。カスミは、胸がいっぱいでヨナの首に抱き付いた。  
 
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