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罪の証
しおりを挟むロッテトリスクの滞在予定日は5日間を越えた。カスミとヨナは、ガロウが用意した最高級客室(二人は別室)に泊まった。
カスミは午前中早くから、ガロウの手配した研究員と研究室にこもり水風船スライムの改良、増殖に没頭した。午後からはカジノで遊び、ガロウと夕食をともにする。ガロウはカスミにドレスを送り、好意を隠さず頻繁に会いに来た。
ある夜の夕食、個室で今日は魚料理を食べた。
「俺の優秀な耳より報告だ。どうやらマミアナ商会がカスミを探しているようだ心当たりはあるか?」マミアナ商会は大陸一の武器商会だ。
「あー。この魔道具のネックレスを頼んだ武器商会ね。うーん。何で私を探してるのは解らないわ~っ!」カスミはじっとガロウを見つめた。
「ははっ、姫さんは嘘をつくときほど、見つめてくる」
「~っ!違うわ!私、嘘なんて……もう、マミアナ商会の社長にホウダイ国の国賓として会ったことがあるの」諦めたのかカスミは、話す。
「………まさか、襲われそうに?」
「正解!鼻息荒くのし掛かってきたから、スライムに相手を頼んだわ!カエルみたいな声出して気持ち悪かったわー」
「……っ」ヨナは哀れな司祭たちを思い出した。彼らは元気だろうか?
「カスミ、ロッテトリスクに居れば俺が死ぬまでなら守ってやれる。悪魔の穴に母親の墓参りに行く必要が本当にあるのか?」ガロウは問いかけた。
「行く必要は有るわ」
「………姫さん、墓参りなんて白々しい嘘が通じるわけないだろ?本気のことを教えてくれよ」ヨナが珍しく真剣な顔でカスミに詰め寄る。
「……本当、の…こと」カスミは小さく震えた。
「いや!いやよ!!本当のことを言ったらヨナは私を嫌いになる!一緒に来てはくれないわ!また、一人になっちゃう~!」カスミは泣きながらレストランを出ていき、ヨナは慌てて追いかけた。
一人残されたガロウは、「……失恋か?まあ仕方ない俺、妻も子もいるからな………たまには家に帰るか」と、重い腰をあげるのだった。
◆◆◆
勇者たちと聖女が魔王を倒して、7年経過した。7はシーズー教の特別神聖な数。記念日に合わせ、魔王城の跡地に巨大な神の像が建築され、各国の勇者たち、王族、教団の幹部たちが一同に介した。
その会場に勇者だったホウダイ国王、聖女ユリネと、二人を心配した兄王子ソンタイ二世もいた。
(私がママを帰してあげるの!)
カスミは聖なる力を解放した、時空の歪みのある魔王城目掛けて。瓦礫の魔王城に光の柱が立ちのぼり、轟音とともに地面が崩れ、ぽっかりと虚無が広がる――時空の穴が姿を表した。穴から次々に魔物が溢れ、人々に襲いかかり会場は阿鼻叫喚と化した。
兄王子は二人を守ると盾になり魔物と戦う。一方ホウダイ国王は、ひいいっと醜い悲鳴をあげ、「ユリネ、聖なる加護を俺に付加しろ!得意だったろう?」ユリネにしがみついた。ユリネは、ホウダイ国王に力いっぱい噛みつくと怯んだ国王の顔を蹴飛ばした。
「ママ!帰れるのよ!ママのお家に!!私が帰してあげるって約束したよ?早く!時間ない!」
カスミは蹴り続けるユリネを必死に止めた。鼻血を垂らす父王はどうでもいい。時空の穴をカスミの全ての力で無理に抉じ開けたのだ、長くは持たない。
「……帰れる?」
「うん!ママも感じるよ!あっちの世界」カスミは穴を指差した。
「ああ!感じる、とっても懐かしい。ありがとうカスミ……不甲斐ない母で、ごめんなさい」
ユリネはカスミをぎゅうと抱きしめる。カスミと兄王子ソンタイ二世に聖なる加護を施すと、一度も振り返らず時空の穴に飛び込んだ。
「……ユリネ。聖なる力を失ってなかったのか?」呆然と呟くホウダイ国王は魔物に取り囲まれ、四肢を八つ裂きにされ喰われた。
聖なる加護を得たカスミと兄王子は傷一つ負うことなくサイの町に逃げとおし、無事にホウダイ国にたどり着く。ソンタイ二世が新たな国王となり、賢母ソーニャとともに国を発展させた。
時空の穴は、異世界の道を閉ざし、ただ無限に魔物を吐き出す悪魔の穴だけが残された。まるで聖女を不幸にした罪の証のように……。
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