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砂漠
しおりを挟むバスキューダ・ガロウ。暗い金色の髪を後ろに流し、獅子のように厳つい容貌の男。表向き市長として市民から莫大な人気を誇り、裏はカジノ総支配人として汚い仕事に手を染める。ロッテトリスクの全てを牛耳る男。彼は優秀な耳がいて、すでにカスミとヨナのことも調べあげていた。
「聖女の娘、カスミ・マキノ・ホウダイ殿。部下の非礼の詫びに晩餐に招待したい、応じてくれるだろうか?」美しく洗礼された所作でカスミに手を差し出した。
「私、堅苦しい晩餐は嫌よ!屋台でおいしい焼き鳥と、お酒が良いわ~!」カスミは、ガロウの手をぎゅうと握りしめるとにこりと微笑む。
一瞬カスミに呑まれたガロウだったが、口の端をあげ豪快に笑った。「ふはは、わかった堅苦しいのは無しだ!旨い屋台に連れてってやる」
星が満点に瞬く夜。ガロウは屋台ひしめく街の一角を貸し切りにし、カスミとヨナをもてなした。見たことのない珍しいお酒、食べ物に舌鼓を打つ。
ガロウもカスミもハイペースで飲み続けて、楽しく会話が弾む。カスミはガロウの手やら肩に触るから、ヨナは、面白くない。
「ははっ、カジノの総支配人ってのは、こんなに暇なんですか~?聞きたいことがあって、カスミを呼んだんだろう?それに、砂漠から俺達を監視してたのは、あんたの差し金か?」
ガロウから話を待つつもりだったが、その前に、二人とも酔いつぶれそうだ。
「そう急かすな、半獣は余裕がなくて好かんな」
「そうそう余裕ないの~!」
「…姫さん、飲み過ぎだ。ほら、水飲んで」ヨナは、カスミに水のコップを持たせ飲ませた。
「うんうん、ヨナ飲んだよー!ガロさん聞きたいことってなに?」口元からこぼれた水をヨナが拭く。
「……甲斐甲斐しいな半獣。話はな……お前達が砂漠の真ん中にオアシスを作ったと部下より報告を受けた。金は払う、やり方を教えてくれ」ガロウは深々と頭を下げ、護衛の部下がうろたえた。砂漠に面したロッテトリスクは、乾期に飲み水すら困ることがある。年々広がる砂漠、水の確保は最優先事項だ。
「やり方は、簡単よー!水風船スライムをたくさん作ればいいのよ」
水風船スライム――それは、どうしても砂漠の真ん中で水浴びしたいと考えていたカスミが改良した特別仕様の貯蔵式スライム。
「水を限界まで吸い込み山とかしたスライムを自ら歩かせることで、運搬する手間も労力も省くのよー!凄いでしょう?」カスミは、鼻息荒く訴える。
「……奴ら、メチャクチャ歩くの遅いし途中で蒸発して小山と化してましたよねー?」
「うっ!」
「洗濯や畑用ならまだしも、一度スライムが飲んだ水を飲料水にするのは、どうかと俺は思いますよー!」
「ギクッ!」ヨナに突っ込まれカスミは、怯んだ。
「ん~~っ!改良の余地は有るもの!蒸発しないように外皮を厚くして、スライムの体内に浄化機能をもたせれば解決するわよ!」
それはもうスライムではなく、別の生き物だ。
「ふはは、あんたら面白いな。そのスライムを使わせてくれ、砂漠をなくしたいんだ!改良点があるなら俺達でも研究したい、頼む!」
砂漠に水を運べたら金になり、緑化する方法も金になる。ガロウに渡して良いものか?
「なあ頼む!正直金も名誉もある!この世で未練があるのは、俺の故郷が砂漠に沈んだことだけなんだ!」演説するように彼は話す。
「ははっ、この世の未練って、若いのに総支配人さんは死ぬ準備でもしてるみたいだー」
「死ぬのよガロさん」カスミの静かな声が真っ暗な夜に霧散する。
「へ?嘘だろ」
「………さすが、医者だな。俺に触ったのは診察のためか?好意じゃなくて残念だよ」
「ふふ、良いわ。ガロさんの命に免じて水風船スライムはお預けするわ!ただしかわいがってね!」
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