最後は一人、穴の中

豆丸

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半獣

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 辺境にあるココサ獣人村の学校に通う子供は、15人。でも、お菓子は14個しかなかった。注文を間違えたようだ。 



「僕、要らないよ。半獣だからお腹あんまりすかないから」 


 ヨナの言葉に、あからさまに先生たちはほっとしたものだ。 

 幼いうちからヨナは、自分の立ち位置を理解していた。半端者。よそ者。要らない子。 


 ヨナの母はルルーは村一番の狩人で、村一番の美女だった。若い男衆は皆、こぞって彼女にアプローチしたが、誰も彼女を射止めることは出来なかった。 


 彼女を射止めたのは、無名の吟遊詩人だった。だだ、気紛れで都市から村を訪れた見目麗しい優男にルルーは一目惚れしてしまったのだ。周囲の反対を他所に……いや、反対があったから余計、燃え上がってしまった二人は深く愛し合い。その結果――ヨナが産まれた。  


 ヨナが幼少の歳までは夫婦は仲睦まじかった。ルルーは見た目こそ派手な美人だったが、性格は慎ましく質素な村の暮らしで満足していた。一方娯楽の多い都市を渡り歩いてきた男は、地味で閉鎖的な村にすっかり飽きてしまう。そして、ある日買い出しに都市に行くと出かけ、二度と帰ってこなかった。  


 薄々、男の心変わりに気づいていたルルーは、嘆き悲しんだが、男を探しに行くことはなかった。 

 村人たちは「ほれ見たことか、村の男を選ばないからだ!」と、母子をせせら笑う

 村の男と再婚しろと騒ぐ、村長に口出しするなら、村の為の獲物の数を減らすと黙らせた。 



「ヨナが居れば他には、いらないから」と、笑う母はやはり寂しそうだった。 

 母の力になりたくて、誉めてほしくて母の狩りに付いて行き必死に学んだ。体に合わない狩り道具を自分用にカスタマイズして使用した。 


 学校が始まる歳になると朝早く起き、母と狩りをしてから通学した。体の小さい半獣のヨナは、あからさまに馬鹿にされていた。彼は半端者、よそ者、要らない子と呼ばれ友達は一人も居なかった。 

 ただ、暴力を振るわれることはなかった。母は獲物を村に沢山納めていたからだ。 

 獲物は村の食材としてはもちろん、町に売りに行けば貴重な外貨となる。 



 寂しい学校生活を送ったヨナに転帰が訪れたのは、12歳になった歳だった。 

 母がルルーが獲物の魔物に襲われ死んだのだ。狩人に危険は付き物。 

 嘆き悲しむヨナが喪が開け学校に行くと、そこにヨナの席は無く。 

「半獣は出ていけ」と、同級生から冷たくあしらわれ、今までのうっぷんを晴らすかのように殴られた。泣きながら逃げ帰るヨナを同級生はあざ笑う。  


 その日から、ヨナは学校に行かず狩りをして過ごした。母に学び、似て優秀な狩人のヨナは沢山の獲物を狩り、余った分を母のように村長に持っていく。母が死に困っていた村長は喜んだ。 

 そして、母の時と同じように米を分けてくれた。米は貴重だ、ヨナは喜びお礼を言った。 


 ヨナは、半獣だったが狩りが上手かった。それが嫉妬を煽る。村の狩人の一人に俺の獲物を横から狙ったと難癖をつけられ、ヨナが狩った獲物を横取りされた。 

 ヨナは、村長に獲物を盗られたと訴えた。 

「他の狩人たちから、半獣のヨナは上手く狩りが出来ないので、人の獲物を横やりして捕ると、報告を受けた。今までの獲物は全て人の手柄だったんだな?意地汚い、半獣め!」

 村長はヨナの話を聞かす、一方的に罵った。


 ヨナは、絶望し、そして悟る。半獣の俺は、この村に居場所はないのだと。  


 男も、父もこの小さい村で居場所がなかったのだろうか? 

 ふっと、今で思い出さなかった父の顔が浮かんだ。父は町に居るのだろうか? 


 俺も……こんな、閉鎖的な汚い村、出て町に行こう。 


 ヨナは、一週間かけて準備をした。人のいない時間帯を見計らい、獲物を狩りまくる。村の狩人たちの領域に獲物が入らないよう、獲物避けの草を植えた。通る度に音の鳴る仕掛けも施す。音に敏感な獲物は嫌がって近寄りもしなくなる。ヨナは、密かに復讐をするとひっそりと村を後にした。 

 ヨナが出奔したその年、獲物が捕れなくなった村は厳しい冬を向かえた。翌年の不作も重なり、村では多くの餓死者が出た。




 町に出たヨナは、獲物を金貨に換え、仕事を探した。年若く、半獣のヨナの出来る仕事はあまりない。 

 種族に囚われない傭兵部隊にヨナは飛び込んだ。そこで学んだのは、人間に近づけば、獣人臭いと言われ、獣人に近づけば半獣だからと馬鹿にされる。居場所なんて何処に行ってもなかったことだけ。 

 ヨナを排除する彼らは困ったときだけ、半分は、俺たちの仲間だろう?な?助けてくれよ?っと、すがってくる。

 だからヨナは、へらりと笑う。  

 信じられるのは、自分の力と積み上げられた金貨だけ。

 様々な国、部隊を渡り歩いたヨナは、いつしかホウダイ国の騎士団の第三部隊に入る。半獣の彼は、人より素早く移動し、矜持の高い獣人より立ち回りが上手だった。汚い仕事もそつなくこなし、ソンタイ二世に重宝がられた。 

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