ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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大人の事情

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 ラッセルに朝のご飯が落ち着くまで働く許可を貰い、彼に赤茶を出すと、また私は子供たちのお世話に戻る。ご飯が終わったら待っているのは子供たちの苦手な歯磨き! 

 歯磨きが一段落し、子供たちのために部屋真ん中に積み木とままごとセットを広げた。遊び始める子供たちを交代して見ながら、職員も朝ご飯。 
 朝ご飯は済ませてきたとお茶を啜るラッセルの隣で食欲はないけど私も食べ始めた。子どもたちもラッセルを安心だと思ってくれたのか、近くで遊んでくれる。 
  
 朝からお肉たっぷりのウインナーは旅行帰りで寝不足の胃袋にはしんどい。子供たちの手前残したくはないわ……私がゆっくり箸を進めているとラッセルに話しかけられた。 
 
「昨夜、犬笛が吹かれなかったがハリー先生に不埒な……いや、ミサキに変わりはなかったか?」 
 子どもたちの手前、遠慮してハリー先生の話題を反らしたラッセル。気使いの男だわ。 
 子どもたちも尊敬する園長先生が、私の体液を欲しがる変態さんなんて聞きたくないわよね。今朝も寝起きの頭の回らない最中、ちゃっかりハリーさんに唾液を提出させられた。
 
「犬笛があって良かったわ……もちろん何もなかったけど、牽制になったから」 
 ハリーさんに一晩中抱き付かれていたなんてラッセルに知られたら、夜のお泊まりは禁止になってしまう。ミクちゃんが心配なため誤魔化す。 

「クンクン!ミサキ!!ハリー先生の匂い、ベッタっ!んん、もぐぐっ!!」「はい!カンタ!ウインナーよ!」 
 人の頭の匂いを嗅ぎ、余計な事を言い出したカンタの口にウインナーをずぼっと詰め込む。カンタは目を白黒させつつモグモグと口を動かした。ウインナーを飲み込むとキラキラお目目で私を見上げる。 
 
「ミサキ!くれるの?ありがとー!!僕、ウインナー大好きだよ!もっとあーん!」 
「あーん!」 
 カンタが、単純で良かったわ!これ幸いとカンタの口にウインナーを放りこむ。ラッセルの視線が鋭いような気がするけど、気のせいと言うことで……。 
 
 
「カンタ隊長……えずけされてんの、だせえ!」
 
「こ、こら、ダメだよ!ラッセル様、カンタ隊長す、すいません!」  
  
 生意気そうな口調で、カンタを小馬鹿にするのは、孤児院最年長にて学校組(人間にすると小学校高学年位)のミケ猫獣人ヒュンくん。その隣でおどおどと吃り、頭を下げるのは、同じ学校組羊獣人のトシくん。二人は朝ごはんのお手伝いと片付けをしてから学校に行く頼りになる働き者。孤児院みんなのお兄ちゃん。 
 
「あっ!ラッセル様、お久しぶりです!また剣を教えて下さい!」 
 ヒュンくんは私の隣に座るラッセルを見るとあからさまに態度を変えた。  

 
「酷いよー!ヒュンくん!僕だって強いのに」
 
「朝に来るなんて初めてですね!」 
ヒュンくんに無視されカンタはくーんと鳴いた。 
 
「ああ……ミサキを迎えに来たんだが」
 
「人間のお手伝い女をラッセル様がわざわざ迎えに来たんですか?」 
 私が孤児院にお手伝いに来る頃にはすでに学校組は通学している。おやつの時間に帰宅した二人におやつを出す位で接点は少ないけど、まだ認知されていないのね。ちょっと寂しいわ。  


 「……ミサキって、ラッセル様の新しい奥さん?」ヒュンくんは悪びれず突っ込んできた。  
 
「ぶふっ!?」ラッセルが啜っていた赤茶を吹き出す。 
 
「は??ち、違うわよ!奥さんじゃないわよ!」私は即座に否定した。 
 
「ヒュ、ヒュン違うよ。ミサキは人間で孕み人なんだ。ラッセル様のあ、赤ちゃんを産むんだよ」吃りながらトシくんが説明しだした。
 
「ん?奥さんじゃないのに、赤ちゃんを産むのか?変じゃないか??」 
 
「ふ、複雑な大人のじ、事情ってやつだよ」  悟ったようにトシくんは遠い目をした。誰がトシくんに孕み人の説明をしたんだろう……ハリーさんだったら注意ししばかないと。 
 
「複雑な大人の事情ねえ?よくわかんないけど!俺……強くて格好いいラッセル様が好きなんだ!お前は?」ヒュンくんは好奇心旺盛に黒目を大きく丸くした。 
 
「へ?」 
「な?」  
 ごくりとラッセルが唾を飲み込んだ。妙な緊張感が私とラッセルの間に横たわる。 
 ラッセルのことは嫌いではないけど、感情の動く前に死にたくなくて子作りしてしまった。 
 
……好きかと聞かれると……困るわ。 
 
「………。 
 ………。
 りょ、領主として尊敬してるし、もちろん嫌いじゃないわよ!」  
 
 なんとか無難な答えを絞りだす。「変な答えだな」と、ケラケラ笑うヒュンくん。 
 がくりと肩を落とし項垂れるラッセルを哀れむようにトシくんが見守っていた。 

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