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領主としての、男として① sideラッセル
しおりを挟む白の塔の帰り道、窮屈な人力車の座席でミサキの隣に座る。体を縮ませても、ミサキの右腕と俺の左腕。右太ももと左太ももが寄り添そうように触れる。合わさる部分だけ皮膚が熱を持つ。
「………ミサキは、聖女とザギウは触れ合えぬと言うが、白の塔の治療のようにミサキが媒体となれば触れ合えるな」
「は?ラッセルどうしたの唐突に……確かに私の中に聖女様が入れば触れられるけど、見た目は私の体だし、中身は聖女様+私。ザギウさんは求めてないわ、きっと萎えるわ」
「萎えるのか?ミサキの体は精良だと思うのだが……」「ラッセル、女の人に対して精良は誉め言葉じゃないわよ」ミサキの険のある視線が刺さる。やはり、女性には可愛いや綺麗が良いのだろう。
「す、すまない!俺が伝えたいのはミサキは、孕み人としての価値に付加し聖女の癒し力を行使できた。闇雲に周りに知られるな。子を孕まないだけでなく、聖女の力を利用しようとする輩に拐かされるぞ」
「確かにね。拉致、監禁はごめんだわ!話さないから安心してねラッセル」
鼠獣人のように常に動くのを好むミサキは苦渋の表情を浮かべた。閉じ込められるなど論外なのだろう。
バンローグで暮らすうち、ミサキに大切な人が出来たら、俺は本人の意志を尊重し手放すつもりだった……当初は。
今は、ミサキを到底手放すことなど考えられぬ。拐かされ他人のモノにされるぐらいなら、領主の館の奥、鎖をつけ地下牢に閉じ込める。毎夜、その柔肌を蹂躙し腹が膨れるまで、精を注ぎ啼かせたい。俺だけのモノ。焼けつくような激情とほの暗い独占欲。
「ラッセルどうしたの?怖い顔して黙って?」
「いや!何でもないぞ!」
黙する俺を心配そうに見上げるミサキに、慌てて妄想を振り払う。
俺が妄想通り振る舞ったらミサキは泣き叫び、二度と笑顔を見せてはくれないだろう。体は手に入っても心は壊れ永遠に手に入らない。
「泣く女を……不幸にしたい訳じゃない」
「…ラッセル?」
「俺も、黒ダニから領地を守る名目で女にくすりを使用したザギウと変わらんさ。自分の我欲のために女を犠牲にしかねない」
「………違うわ」
「ミサキ?」
「ラッセルは、自分が大変でも女の人を犠牲にする道は選ばないでしょ?私、領主としてのラッセルを信用してるのよ」
確信を持った明瞭な言葉、真っ直ぐ俺に向けられた眼差し。ミサキに領主として尊敬され必要とされている。こみ上げる歓喜に、ぐうっと喉が鳴った。
ミサキに触れたい、見抜きなど論外だ。心が伴うなら、尚更触れ合いたい。手を伸ばし、ザギウに引っ張られた頬を愛しく擦ればミサキに「……あのー、ラッセル今、頬張れてて痛いんだけど…」と、明確に拒絶された。
領主としての必要とされているが、男としては必要とされていない。目の前が闇に覆われたようだ、口腔内が苦く酷く苦しい。
ミサキは、竜神の命令で、無理矢理子作りしているに過ぎない……男として求められていないのだから……。
俺は無骨で女を口説いたことがない、誉める言葉も思い浮かばん。
奥に対して労りの言葉ばかりで、愛しているなどと伝えなかった………必要とされなかっと嘆いた奥の悲哀が今なら理解出来た。
俺は己が情けなかった、二度と同じ轍は踏むまい。ミサキが欲しい。俺の思いと同等に男としてミサキに必要とされたい。
どうすれば、俺だけのモノになってくれるのだろう?
解決の糸口を得ようと彼女を盗み見れば、細い折れそうな手首に着けた聖女のブレスレットを嬉しそうに撫でていた。
「ミサキも、装飾品を好むのか?」
俺は、町で孤児院の買い出しはしたが、ミサキに服や装飾品の贈り物一つもしていなかった。不甲斐ないばかりだ。正直、聖女に先を越されて悔しいのだ。
「ん?まあそうね。綺麗なものは好きよ!」
「そうか!………俺が休暇の際、館に行商人を呼ぶか、町に装飾品を見に行くか?」
「連れ出してくれるの!町に行きたいわ!!」
ミサキが屈託の無い笑みを浮かべた。外出程度で喜んでくれるなら、いくらでも俺が連れ出そう。共に視察に行くのも可能だな。ミサキの言うところのデートもしたい、護衛は当然だが俺がする。
ミサキがバンローグで見聞を深め、この地を第二の故郷だと思って好いて欲しいものだ。
俺は、男として、必要とされるよう努力を惜しまんつもりだ!
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