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ミクちゃんと添い寝と
しおりを挟む「……ミサキ」
涙を流す苦しい呼吸のミクちゃんは、人間で言ったら年中さんの歳。病気のため体は歳より小さくて軽い。話すのも辛そうな震える体をベッドから起こし縦向きに抱っこして立ち上がる。
ベッドに横になるより、座る姿勢の方が呼吸が楽になるかもしれない。ミクちゃんは心臓で異なるけど、娘の千鶴を喘息が酷くて一晩中抱きしめたっけ、苦くても懐かしい思い出。
私はミクちゃんの兎耳つきの頭を撫で、背中を優しく擦り、規則正しくトントンする。ミクちゃんは頬を私のおっぱいに刷り寄せた。可愛い仕草に胸がきゅんとする。
「…大丈夫だよ。ミクちゃん一緒にいるから」
「……うん」
私の心音に安心したのか、お母さんを思い出したのか、ミクちゃんの呼吸が少し穏やかになる。薬も効いてきたのだろう。
竜の背の子守唄は知らないから、娘に良く歌った歌を口ずさむ。どうか苦しくないように、安らかに眠れるように願いを込めて。
ミクちゃんの瞼が下がり、穏やかな寝息が聞こえ始めた。長いふわふわの兎耳が時折ピクピク動く、ぷくぷくのほっぺがとても愛らしい。腕がきつくなってきたけど、もう少し我慢。ミクちゃんが深く寝入るまで抱っこし続ける。
しばらく経ちミクちゃんをそうっとベッドにに寝かせた頃、副園長のアレンさんが入室してきた。
「ミク……良かった」
アレンさんの真っ黒で短毛の兎耳が安心したかのように左右に揺れた。
「……やっぱり母親が恋しいんですね」
「そうね……まだ幼いから」
「ミサキさんありがとうございます……私はミクの母親にはなれません。ハリー先生のように医者でもないので、苦しがっていても、何も出来なくて……」
アレンさんは、寂しそうにミクちゃんの目頭に滲む涙を指で拭った。
アレンさん自身もスミレ孤児院出身。ハリーさんに憧れ、幼いうちから手伝いをするうちに、今春から副園長に抜擢されたそう。
責任感が強過ぎて子供たちに、ちょっと厳しいお兄さん。真面目過ぎで仕事抱え混んで潰れそうで心配だとハリーさん談。
アレンさん、ミクちゃんの発作の悪化を自分の責任って、考えていそうだわ。
「何も出来ないって、アレンさんは嘆いてたけどミクちゃんの為に、私を領主の館に呼びに来てくれたわ。……それに私だってミクちゃんの母親にはなれないし、ハリーさんみたいに医者じゃないから、こうして抱きしめて子守唄を歌うことしか出来ないわよ」
「……子守唄……私にも教えてくれますか?」
「良いわよ……でも、アレンさんには少し難しいかも」
「なぜですか?」
アレンさんはムッとして、弱音を吐露した顔から、いつもの真面目過ぎる怖い顔に戻る。
「アレンさん、子守唄は優しい穏やかな表情で歌うものよ。今のアレンさんの表情じゃ子供たちみーんな泣いちゃうわ!」
「……そうです!アレンは真面目過ぎです!いつか倒れてしまいますよ……力を抜いて僕にも優しくして、欲しいものです」
茶色の兎耳をピョコピョコさせハリーさんが入室してきた。
「園長!」
「あら、ハリーさん!ラッセルとの話し合いは終わったの?」
「はい!会議は、終わりましたよ。大変有意義でした……ミサキには、ラッセル様から直接報告したいそうです。それより……アレン、そろそろ一人で仕事を抱えこまず人に振り分け、力を抜くことを覚えましょう?四六時中、気を張っていたら子供たちも怖がる。君も、壊れてしまいますよ」
「これくらいは……わたしは、まだまだ半々前なので……」
アレンさんが項垂れて兎耳も垂れ下がる。
「アレン、君が子供たちを大切なように僕も…君が大切です。それにアレンも孤児院のみんなも家族です。家族同士助けあい、楽しく暮らしましょう!」
ハリーさんの温かい言葉にハッとした、アレンさんが体の力を抜いた。表情も少し固さが取れて柔らかくなり、その様子に私もひと安心する。
「……ハリーさん」
変態医者のイメージが強烈過ぎて忘れてたけど、ハリーさんは意外にも良い孤児院の園長さんなのよね……。
「大丈夫ですよアレン!なんとミクの容態が落ち着くまで、ミサキが閨の日を除き孤児院に泊まりに来ることになりましたー!」
「はっ?お泊まり?」
「ミクが喜びます。ミサキさん、ありがとうございます!」
「ミクちゃん心配だから、孤児院に泊まるの嬉しいけど……ラッセルが了解したの?護衛はどうするの?」
私の就寝時、部屋の前に常に護衛がいる。館内は好きに行動出来るけど、常に護衛の目はある。ラッセルが孤児院の手伝いを許可してくれたのは、孤児院から館は目と鼻の先ほどの距離なのと、孤児院ではハリーさんが護衛兼監視をしてくれているから。
保護の名目で幽閉、監禁がスタンダードな孕み人には破格な扱いを受けている。
勉強会の時、ジャミが「君、相手がラッセル様で良かったね」と、イヤミを言いたくなるのも腹は……たつけど、解るわ。
これ以上、わがまま言うなの戒めといい気になるなと、増長予防ね。
「大丈夫ですよ!ミサキには、『聖女の護り』も有ります。
それに、ラッセル様は、理解のある寛大な領主様ですから、自分はロープで縛られ喜んでも、ミサキの行動を束縛するような器の小さい方じゃありません!」
「領主様が……縛られ……喜んでる?」アレンさんが驚き目を白黒させた。
このままじゃ、ラッセルの気高い領主像が崩壊しちゃう……守らないと私は焦る。
「ハリーさん……その言い方じゃ、ラッセルが誤解されちゃうわ!違うのよアレンさん……ラッセルは優しいから、嫌なのに我慢してロープで縛らせてくれるのよ!」
「……嫌なのに、耐えて、ミサキさんに縛らせる………僕には理解出来ませんが、流石領主様。高度な営みなのですね……」
「ミサキ、その言い方も誤解されますよ」
呆れ顔のハリーさん。
「え?ダメ?まずかったかしら……」
アレンさんは遠くを見つめたまま、子供たちの見回りの時間なのでと、ふらふらしながら部屋をあとにした。
困ったわ誤解を生んだかもしれない、ラッセルごめんね。私は心の中で謝り、再びハリーさんに向き直る。
「ラッセルは器の小さい男じゃないけど、慎重派だわ。そんな、簡単に外泊の許可をするはずないと思う………ハリーさん、ラッセルに変なこと、吹き込んでないわよね?」
「ははっ。変なことなんて言いませんよ!ただ……ミサキの旦那さんは年上で包容力もあり、ミサキの意思を尊重する素晴らしい男性とお伝えしただけです。余裕なく制限、禁止する男性は嫌われます、とも言いましたよ!」
悪びれないハリーさんは首を傾け、にっこり笑う。ラッセルも、最早ここまで言われてダメとは言えないわね。
「夜の護衛は僕がぴったりひっつき、1ミリも離れませんからご安心下さい!」鼻息荒く私にぐいっと接近する。
「1ミリも離れないって…………ハリーさんの護衛が一番安心出来ないわよ!!」
診察や護衛と証して、何をされるかわかったものじゃない!
「いや~。僕ほど安心な兎はいませんよ!ラッセル様よりは腕っぷしは強くありませんが、ミクの安静のため、貴重な孕み人のミサキを護りますよ~!」
「そう、ミクちゃんのため……」
ミクちゃんのためと言われれば、強くハリーさんを拒否も出来ない。
やっぱりハリーさんは子供思いの優しい園長だわ……私、少し穿って見すぎていたみたい。
「はい!護衛のついでにミサキの睡眠の観察と体液も摂取させて下さい!!」
「た、体液!」
「はい!貴重な孕み人のサンプルが欲しいのです!!汗でも血液でも愛液でも大歓迎します!!」グイグイと白衣から取り出した試験管を押し付けられる。
「お断りします」
穿って見すぎじゃなかった。ただの変態医者だったわ。
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