ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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帰り道と呼び出し

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 ザキウの治療を終え、ラッセルと私は聖なる領域を脱して、待機していたラッセルの部下と合流した。 
 船上で聖女様に憑依され、癒しの力を行使出来た事を硬く口止めされた。言わないわよ、利用されそうだもの。 
 
 港から館まで遠距離移動なので、行きと同じように帰りも人力車に乗せられる。
 
 人力車を引くのは綺麗なたてがみをなびかせた馬獣人のカインさん。馬獣人だけに馬面、艶々の栗毛、ぱっちりした睫毛に白い歯をキラリと覗かせる。馬獣人的に色男なのだそう。 
  
 馬獣人たちは領地間の物資、人の運搬を担っている重要な獣人で個体数も比較的多い。
 ラッセルより立派な体躯、胸の筋肉、はち切れそうな太ももの筋肉は目を見張るよう。 
 
 あっちも馬ナミかしら……と、チラッと下半身を盗み見て、下世話なことを考えてしまう。 
 ラッセルの視線がとても鋭い……心が読めるのかしら? 
 
 ラッセルたち健強な男獣人は、自領地間の移動は基本徒歩なんだって。 
  
 人力車を使うのは病弱な女の人や、子供、お年寄りたちで乗り合い馬車的なものもあるという。今回はミサキが疲れるからと私用に人力車を手配してくれた。厚待遇で、とてもありがたい。  
  
 ラッセルはカインさんに領主様もどうぞと勧められて、丁重にお断りしていた。   
  
 それでも、めげないカインさんは、私の移動の話し相手になってあげて下さいと、やや強引にラッセルを人力車に座らせた。 
 カインさんは領主様を載せたと箔を付けたいんだろうな……。 
  
 狭い人力車の座席でラッセルの太ももが私の太ももに当たり。ビクッとしたラッセルが所帯無げに小さくなろうと身を縮こませている……いや、無理だから。    
  
 黒い猫耳が後ろにパタパタしてて、ちょっと可愛いけれども。   
 閨で体を重ねているのに、今さら緊張されても困るわ。  
 
「ラッセル、もっとくっついても大丈夫よ」 
「………ああ。すまん」 
 私に促され安心したのかラッセルが体を伸ばす。ラッセルの黒いビロードの毛の生えた腕と私の腕が触れて心地よい。極上の心地よさに思わず顔が緩む。   
 
 っ……。そのとたん、ピリッとした痛みが走った。
 
「…ふうっ、まだ痛いわ」 
 私は溜め息を付くと思いっきり引っ張られ赤く腫れた頬を擦る。そんな私を、ラッセルが心配そうに覗き込むとドスの聞いた声で吐き捨てた。 
 
「ザキウめ!ミサキの体を借りて治癒を受けた分際で、触れるだけでは飽きたらず、頬を引っ張るなどと!!―――っく!やはり叩き切るべきだった!」怒り心頭のラッセルは剣の柄に手を伸ばす。 
  
「ラッセル落ち着いて、私は大丈夫だから、立たないで危ないわよ!バンローグに早く帰らないと……仕事溜まってるんでしょ?」 
 白の塔に戻り兼ねないラッセルを諌めた。 

「……しかし!解せん!ザギウはなぜ、ミサキの……いや、聖女の頬を引っ張ったのだ?………引っ張る直前まで、熱心に慈しむよう触れていたはずだ……まるでザギウも聖女を好いていると勘違いしたほどにな!たった一瞬で奴の目付きが憎しみに染まった。俺には……ザギウの心境の変化が理解できん!!」 
 ラッセルの恫喝に関係ないはずのカインさんの人力車を引く肩が震えた。
    
「うーん……ザギウさんの心境は……可愛いさ余って憎さ100倍ってところかしら?」   
「なっ?」 
     
 今まで、触れたくても触れられない聖女に触れて、ザギウさんはきっと、ごまかしてた自分の気持ちが剥き出しになった。 
  
 聖女が愛しいのに、殺したいほど憎んでもいる。屈折したザギウの複雑な思いは、真っ直ぐなラッセルには、理解出来ない。決して相容れない感情。 
  
「はあ、聖女様を応援したいけど、二人とも前途多難だわね」 

「……二人ともなのか?」 
 ラッセルは鼻の皺を深めて唸る。  

「聖女様は頑固そうだし、ザギウさんも素直に感情を出せるタイプには、見えなかったわ。それに、聖女様は聖なる存在で、寿命の在り方も人と違う。仮に思いが通じ合ったとしても、ザギウさんは聖女様を置いて先に死んじゃうのよ。聖女様……意外に繊細だから、大事な人を亡くす喪失感に耐えられるかしら?」

「………愛しい者との死別は、半身をもぎ取られたごとく辛いだろう。だが……残りの人生、心が血を吐き喪失感にのたうち回ろうとも、思いが通じ合い、共に過ごせる日々は得難い。全てを犠牲にしても欲するに値する……俺はその思うぞ」 
 ラッセルは辛そうに、それでも、迷いなく私に告げた。  
 
「ラッセル………そうね貴方は強いもの、喪失の辛さに耐えられるかもしれないわ。でも、みんなが貴方のように強くない。失うなら最初から望みを捨てる人だっているわ」  

「……望みを捨てるか……だが、捨てる前に最善は尽くすべきだ!俺は、対策もせず諦めるのは好かん!!」ラッセルは鼻息荒く、捲し立てた。  

 良い意味でも、悪い意味でも、愚直で真っ直ぐなラッセルらしい言い方に笑ってしまう。再び痛む頬を押さえた。 
  
 私だって何もしないで、諦めるのは嫌だわ。
  
 領地が黒ダニに襲われないよう、子供を増やすくすりを女の人に使用したザギウさんに腹が立つ。それでも聖女様には、幸せになってもらいたい。 
 
「んー。まあ仮に上手く思いが通じ合っても、男性的に、触れ合えないのはしんどくないの?」

「触れ合えぬのか………、………、い、いや、体より心だ!しんどくなどない!!」  
 ラッセルさん、たっぷりの間が雄弁に物語ってますが。 
 いい子ちゃん過ぎる答えにちょっと意地悪な気持ちが沸く。 
      
「……本当?じゃあこれから閨は毎回、触れ合わなくて、私の裸で見抜きで良いわよね~?」


「――――――――なっ、見抜きなど!良くない!良くないぞ!!」ラッセルは、絶句のちに叫んだ。

 猫耳がぴーんと立ち上がり、短い猫ひげが忙しく動く。  
 カインさんがびっくりして振り向き。何事かと、駆けつけようとした部下をラッセルは手で征した。    
 
 耳元で叫ばれキーンとして、頬に引き続き耳まで痛い。痛む耳を手のひらで覆い、私はラッセルを軽く睨む。 
 
「もう、耳元で叫ばないでよ!……ラッセルもやっぱり触れ合えないのは、辛いでしょう?」 
  
「ああ……辛いな。心が伴うなら、尚更触れ合いたい」 
 ラッセルは隣に座る私の頬に優しく触れた。一瞬どきっとして息を止める。 
  
 ラッセルの熱の籠る表情に、私との閨の行為に心が伴っていると勘違いしそう。 
  
 ラッセルは気兼ねなく抱ける私に執着を見せ始めてる。女として求められ嬉しい反面、孕み人なら私じゃなくて、誰でも良かったんだろうなーと、穿ってみてしまう。
  
「……あのー、ラッセル今、頬張れてて痛いんですけど…」やんわり拒否しておく。 
「……すまん!」 
 ラッセルは、慌てて私の頬から手を離す。猫耳が情けなく、くたっと下がった。
   
 は、反省してる。まあ、可愛い………う、絆されてはいけない、距離感は大切だわ! 

 私はラッセルを視界から外し、肩に感じるラッセルの熱を振り払うように左手首にそっと触れた。  
  
 そこには、体を貸してくれたお礼にと、聖女様から貰った(押し付けられた)ブレスレットがあった。白翡翠に似た淡い色合いの神秘的な石。《聖女の守り》の力が施されているそう。  
 石の中心部に星の瞬きを思わせる金の煌めきが見えて綺麗。 
 ぼうっと眺めていると、反省を終えたラッセルに声を掛けられた。  

「ミサキも、装飾品を好むのか?」 

「ん?ええ、そうね。綺麗なものは好きよ」 

「そうか!………俺が休暇の際、館に行商人を呼ぶか、町に装飾品を見に行くか?」  

「連れ出してくれるの!町に行きたいわ!!」 

 ラッセルに提案されて、町に買い物に行く事になった。その時、強引に装飾品を贈られるとは思ってもいなかった。
 

   
 
◇◇◇  



 夜にやっと領主の館に到着した。私を見て抱きつく、薄汚れたカンタをジャミが引き離す。お馴染みになりつつある光景に、安心する。 
 安心した同時に旅の疲れが一気に出て、疲れた顔の私を見たラッセルが早く部屋で、休むように促す。
  
 そのラッセルは休む間もなく領主室にジャミ、カンタ、ハリーさん達を集合させて今後について話し合うそう。 
 くすり、アポロ商会への対策、黒ダニを迎え撃つ準備……問題は山積みだわ。落ち着いたらラッセルに話し合いの結果を教えてもらおう。  
 
 怠い体で出された夕食を食べ、お風呂にも入らず部屋で、休んでいると控えめだけど、しっかりとしたドアを叩く音に起こされた。 

「ミサキ!お休みの所すいません!」  
 声はハリーさんで、焦っているよう。  

「……ど、どうしたのハリーさん」 
 ふらつきながらドアを開けるとハリーさんとすみれ孤児院副園長、黒兎のアレンさんが立ていた。 

「ミクちゃんの発作がくすりで治まらなくて……苦しくて寂しくて、ずっとミサキさんを呼んでいるんです!」 
 
「ミサキ……ミクの発作は心因性要因で増悪します。旅で疲れていると思いますが落ち着くまで、孤児院に来てはもらえないでしょうか?」 

 ハリーさんにお願いされるまでもないわ。私はラッセルに許可をもらうと急ぎ孤児院に向かった。
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