27 / 37
変な女 sideザキウ
しおりを挟む瘴気で、顔を焼かれぐるぐると包帯を巻いた俺に、タナトスもヨナも何処かほっとしたようだった。
ヨナは俺の顔を見ても叫ばず、「痛いの?可哀想ね」と頭を撫で、幼子に接する母のように話かけてくる。タナトスはそれを複雑そうな顔で見守る。
俺はタナトスに、良い領主になるよう体を鍛えられ知識を詰め込まれてきたが、実際権力を握り、領地を動かすのはそのタナトス本人。ダナウが死に俺が領主になっても変わらなかった。
俺はただの飾り……虚無感が押し寄せる。空っぽだ、俺には何もない。
――こんな呪われた顔は必要ない。いや、必要ないのは俺の存在自体。
俺は治療しない方が良いのだろうか?
治療を拒み、膿んでいく傷を鎮痛剤で誤魔化した。このまま魂まで、溶けて無くなってしまえばいい。
そんな俺を泣きながら咎めたのは、シークだった。
「前領主の罪と枷を、ザキウ様が被る必要は無いのです。例え……顔が似ていたとしても全くの別人。あなたは悪くない!
ザキウ様は罪人の私を許してくださいました……こうして側に仕えさせて頂ける優しい方だ。私はザキウ様に不幸になって欲しくないのです。ザキウ様は……母君やタナトス様の為でなく、もう少しわがままに自分の為に生きて下さい」
「………わがままに、自分の為に……そんなこと…出来るのか?」
「出来ます!出来きますから!どうか治療を受けて下さい」
シークは泣いて俺にすがった。身内でさえ治療を望まないのに、他人のこの男は何故こんなに必死なのか?……俺には理解出来ない。
シークの懇願と傷の悪化を無視出来なくなったタナトスからの命令で、俺は治療を受けに白の塔に週一で、通うようになる。
ぽっと、白く温かい………清浄な聖女の癒しの光に包まれる。俺の傷さえ慈しむような、慈愛の力。蝕む瘴気が体から浄化され、痛みが柔らぐ。
治療中の聖女の瞼は閉じられ、長い睫毛が飾りのように揺れた。人間の美醜は解らないが、多分……美しいのだろう。目が離せないのは、きっと聖女のせいだ。
「ちょっと……ザキウ!!治療中睨むのやめなさいよ!」
「……睨んでなどいない、お前が間違った治療をしていないか警戒して見ていただけだ。変な因縁つけるな」
「はあー?この私が間違った治療するわけないじゃん。まあ、素敵聖女様の私を見つめたい気持ちはわかるけど~!ザギウも私に感謝して、もっと、もっーと、敬っちゃっても良いのよ~!」薄い胸をふんぞり返した。
「………誰が敬うか」
敬えと言いながら、本人は聖女全していない。初対面での清楚で神秘的なイメージは、口を開いたとたん、脆くも崩れ去った。
敬語も嫌がる癖に、敬えとは矛盾してる……。表情はコロコロ変わり忙しなく目が離せない。キャンキャンうるさい面倒な女……それが目の前の聖女だ。
「……ザキウは、その……自分が嫌いなの?」
珍しく言い淀む聖女は、意外に鋭く阿呆ではない。
「……何故?」
「えー。自分大事なら、こんな傷がグロくなる前に治療に来るはずじゃん?……普通さ……家族とか、めちゃ心配するよね~?」
「……家族か?養父も母も前領主に瓜二つな俺の顔を憎んでいる。寧ろ焼かれて安心してるな」
卑屈に笑う俺を痛ましげに聖女が見た。白い体がふわりと正面から俺の顔を覗きこむ。
「焼かれて安心って、そいつら毒親じゃん!!なに笑ってるのよザキウ!そこは、怒るところよ!!」
「……怒ってるのは、お前だろう?」
「怒るに決まってるわ!親っていつも死ぬほどうるさいけど、子供の幸せを一番に考えて保護してくれる生き物じゃん!何で……憎むのよ。意味わかんない!」
「……お前の親は、良い親だったんだな。お前を見れば解る。子は産まれ出る場所も親も選べない、諦めるしかない事象だ」
「……諦める」
聖女は、酷く悲しそうに下を向き唇を噛む。硬くスカートの端を握り締めた。そして、何か発見したように目を見開き俺を見た。
「よし!ザキウ!!捨てちゃおう~」
「………………はっ?」
「だから!害にしかならない毒親ならいない方がスッキリだし、ザキウに必要ないじゃん~。ゴミ箱にポイっしょ!」
聖女の言葉が理解出来ず……俺は一瞬硬直した。
タナトスは英雄で、前領主から母と胎児の俺を守った。母は憎い夫の子の俺を狂うまで、手元で育ててくれた。
例え傀儡の領主として冷遇され、ダナウに似た顔を厭われていたとしても、二人は俺にとって絶対的存在だった。
―――その二人は必要ない、捨てる。
―――、―――、――捨てても――良いのか。
「……………………っ、ふ。はははははっ!」
俺は腹を抱え笑った。こんなに笑うのは物心ついてから始めてだろう。
「ちょっと……ザキウ!笑いすぎよ。壊れちゃったの?」
「ははっ……聖女お前、本当に変な女」
母を捨てるのは簡単だろう。狂った何の力もない非力な女。
難しいのはタナトスだ……英雄で、領主の養父。領地から切り離すのは至難だ。俺はシークにタナトスを監視させた。
結果的に俺はタナトスを引退させ、母ラナとともに僻地に追いやれた。母ラナがタナトスの子供を身籠ったからだ。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる