ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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変な女 sideザキウ

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 瘴気で、顔を焼かれぐるぐると包帯を巻いた俺に、タナトスもヨナも何処かほっとしたようだった。 
 ヨナは俺の顔を見ても叫ばず、「痛いの?可哀想ね」と頭を撫で、幼子に接する母のように話かけてくる。タナトスはそれを複雑そうな顔で見守る。 
  
 俺はタナトスに、良い領主になるよう体を鍛えられ知識を詰め込まれてきたが、実際権力を握り、領地を動かすのはそのタナトス本人。ダナウが死に俺が領主になっても変わらなかった。  
  
 俺はただの飾り……虚無感が押し寄せる。空っぽだ、俺には何もない。   
  
 ――こんな呪われた顔は必要ない。いや、必要ないのは俺の存在自体。 
 
 俺は治療しない方が良いのだろうか? 
治療を拒み、膿んでいく傷を鎮痛剤で誤魔化した。このまま魂まで、溶けて無くなってしまえばいい。  
  
 そんな俺を泣きながら咎めたのは、シークだった。 
 
前領主ダナウの罪と枷を、ザキウ様が被る必要は無いのです。例え……顔が似ていたとしても全くの別人。あなたは悪くない! 
 ザキウ様は罪人の私を許してくださいました……こうして側に仕えさせて頂ける優しい方だ。私はザキウ様に不幸になって欲しくないのです。ザキウ様は……母君やタナトス様の為でなく、もう少しわがままに自分の為に生きて下さい」 
 
「………わがままに、自分の為に……そんなこと…出来るのか?」 
「出来ます!出来きますから!どうか治療を受けて下さい」 
 シークは泣いて俺にすがった。身内でさえ治療を望まないのに、他人のこの男は何故こんなに必死なのか?……俺には理解出来ない。 

 シークの懇願と傷の悪化を無視出来なくなったタナトスからの命令で、俺は治療を受けに白の塔に週一で、通うようになる。 
  
  
 ぽっと、白く温かい………清浄な聖女の癒しの光に包まれる。俺の傷さえ慈しむような、慈愛の力。蝕む瘴気が体から浄化され、痛みが柔らぐ。 
  
 治療中の聖女の瞼は閉じられ、長い睫毛が飾りのように揺れた。人間の美醜は解らないが、多分……美しいのだろう。目が離せないのは、きっと聖女のせいだ。
 
「ちょっと……ザキウ!!治療中睨むのやめなさいよ!」  
 
「……睨んでなどいない、お前が間違った治療をしていないか警戒して見ていただけだ。変な因縁つけるな」 
 
「はあー?この私が間違った治療するわけないじゃん。まあ、素敵聖女様の私を見つめたい気持ちはわかるけど~!ザギウも私に感謝して、もっと、もっーと、敬っちゃっても良いのよ~!」薄い胸をふんぞり返した。
 
「………誰が敬うか」  
 
 敬えと言いながら、本人は聖女全していない。初対面での清楚で神秘的なイメージは、口を開いたとたん、脆くも崩れ去った。 
 敬語も嫌がる癖に、敬えとは矛盾してる……。表情はコロコロ変わり忙しなく目が離せない。キャンキャンうるさい面倒な女……それが目の前の聖女だ。 

「……ザキウは、その……自分が嫌いなの?」 
 珍しく言い淀む聖女は、意外に鋭く阿呆ではない。 
 
「……何故?」  
 
「えー。自分大事なら、こんな傷がグロくなる前に治療に来るはずじゃん?……普通さ……家族とか、めちゃ心配するよね~?」 
 
「……家族か?養父も母も前領主クズに瓜二つな俺の顔を憎んでいる。寧ろ焼かれて安心してるな」 
 卑屈に笑う俺を痛ましげに聖女が見た。白い体がふわりと正面から俺の顔を覗きこむ。 
 
「焼かれて安心って、そいつら毒親じゃん!!なに笑ってるのよザキウ!そこは、怒るところよ!!」 
 
「……怒ってるのは、お前だろう?」 
 
「怒るに決まってるわ!親っていつも死ぬほどうるさいけど、子供の幸せを一番に考えて保護してくれる生き物じゃん!何で……憎むのよ。意味わかんない!」  
 
「……お前の親は、良い親だったんだな。お前を見れば解る。子は産まれ出る場所も親も選べない、諦めるしかない事象だ」
 
「……諦める」 
 聖女は、酷く悲しそうに下を向き唇を噛む。硬くスカートの端を握り締めた。そして、何か発見したように目を見開き俺を見た。 
 
「よし!ザキウ!!捨てちゃおう~」   
 
「………………はっ?」 
 
!害にしかならない毒親ならいない方がスッキリだし、ザキウに必要ないじゃん~。ゴミ箱にポイっしょ!」 
 
 聖女の言葉が理解出来ず……俺は一瞬硬直した。
  
 タナトスは英雄で、前領主クズから母と胎児の俺を守った。母は憎い夫の子の俺を狂うまで、手元で育ててくれた。  
  
 例え傀儡の領主として冷遇され、ダナウに似た顔を厭われていたとしても、二人は俺にとって絶対的存在だった。 
  
―――その二人は必要ない、捨てる。 

―――、―――、――捨てても――良いのか。

「……………………っ、ふ。はははははっ!」 
  
 俺は腹を抱え笑った。こんなに笑うのは物心ついてから始めてだろう。  

「ちょっと……ザキウ!笑いすぎよ。壊れちゃったの?」  
 
「ははっ……聖女お前、本当に変な女」 
 

 
 
 母を捨てるのは簡単だろう。狂った何の力もない非力な女。 
 難しいのはタナトスだ……英雄で、領主の養父。領地から切り離すのは至難だ。俺はシークにタナトスを監視させた。 
  
 結果的に俺はタナトスを引退させ、母ラナとともに僻地に追いやれた。母ラナがタナトスの子供を身籠ったからだ。 
  
 
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