ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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蛇との遭遇

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 スプーンで掬えそうな濃厚な白霧の中、ギイギイと小舟が一艘近づく。
 小舟は、白の塔からせりだした桟橋にたどり着つと人影が船から降りた。 
  
 ラッセルよりヒョロリと長い身長に手足。肩までつく涼やかな黒髪。 
  
 真っ青な顔半分を包帯で覆い。包帯を巻いていない半分に、色素の薄い眉、細く切れ長な瞳。瞳の色は金色で黒い縦長の瞳孔が見えた。鼻は作り物のように整って高い。 
 薄い青紫の唇から2つに分かれた細長い紅い舌がチロチロ覗く。 
 蛇を人間で足して2で割ったような蛇獣人ザギウは確かに一昔流行ったビュジュアル系バントの芸能人もびっくりする美麗な容姿をしていた。聖女様が惹かれるのもわかるわ。 
  
 ザギウは、手慣れた様子で桟橋に飛び乗ると船のロープを杭に結んだ。 
 ロープを結び終わると桟橋の反対側に停泊するラッセルと私が載る小舟に視線を走らせた。 

「……誰かと思えば、バンローグ領主ラッセル。あんたも……聖女に用事?」 
 
「久しぶりだな、パミロニ領主ザギウ。俺たちの用件は済んだ……バンローグ帰る途中だ。」

「……早く帰れ」 
 ザギウは私達を手でしっしと追い払う。初対面な私に全く興味がないのは仕方ないとして、同じ領主のラッセルに対して失礼ではないのかしら? 
 
「帰りたいのは、山々なんですけど、聖女様が来るまで待って貰えませんか?」 
 
「……なんだ、お前。人間か?ああ……そうか。お前が噂の孕み人か?」 
 ザギウはやっと私が視界に入ったのか訝しげに睨んだ。細長の蛇の目にギロリ睨まれたゾゾっと本能的な恐怖が走る。 
  
 食べられるの?……私は、蛇睨まれた蛙状態で固まってしまった。 
 
「ザギウ!ミサキを睨むな!怖がるだろうが!」 
 ラッセルがザギウの視線から守るように背中に庇う。ザギウは面白くなさそうに鼻を鳴らした。 
 
「ふん……竜神に与えらた玩具を気に入ったようで良かったなラッセル。直ぐ死ぬ弱い女じゃなく強い女だ。そいつに死ぬまで産ませれば、バンローグも子が増えるだろう?」  
 
「ミサキは玩具などではない」 
 ラッセルはきっぱり否定してくれた。
 
「なっ!……女は、子を産むための道具じゃないんですけど!」 
 私も腹がたちつい言い返してしまった。女の人を何だと思ってるのよ。やっぱりこの人薬を作った犯人に違いないわ! 

「………道具だと思ってるのは……俺じゃない」 
 ザギウは言い返してくる私を面白いと思ったのか、果ては獲物と思ったのか、蛇の目に興奮の色をのせ、長い舌をチロチロ私の方に伸ばす。 
 
「え?」 
「……竜神だ。竜神にとって獣人は燃料。ただの道具……領主である俺もお前もな…」 
 ザギウの能面のような表情から感情を伺うことが出来ない。皮肉なのか、悲しいのか、憤っているのか、その全てなのか……わからなかった。 
 ただ、彼は体の傷同様に心も傷つき損なってしまったのだろう。黒ダニ襲撃と子どもの数の因果関係を説明しなかった、竜神を怨んでもおかしくないわ。

「違う!竜神は白は、俺たちを道具だとと思っていない!嗚咽を漏らし本当は、燃料なんかにしたくなかっだと、友達で恩人で尊敬してたと告げてくれたのだ!」ラッセルが吼えた。
  
「……はっ。それは竜神が我々を都合よく使うための戯れ言かもな」ザギウは白を否定する。 

「俺は……いや俺たちは白を信じたいのだ」 
 ラッセルは私の肩に手を置いた。信じたい気持ちは同じなので私は頷く。 

 
「……お前たちも、聖女と同じなのだな?」   
 ザギウは今度はわかりやすく憎しみを蛇の目に載せた。 

「聖女と同じだ。竜の背の獣人が穏やかに暮らすために尽力し、約束の地に辿り着く日を心待する」 

「在るかもわからない……辿り着けるかどうかわからない約束の地にすがるのか?」忌々しげにザギウはラッセルを睨む。 
 
「在るかも知れないわよ!それに、約束の地より更に凄い場所に辿り着けるかもしれない!行ってみないと誰にもわからないわ……」それは竜神にさえわからない未来。
 
「詭弁だな!」ザギウは吐き捨てた。
 
「俺たちに出来ることは、領民のより良い生活のために努力することだ………ああそうだ、ザギウ。今後、市井で出回る危険な薬は竜神命令で禁止になるぞ」ラッセルはザギウの反応を見極めようとしていた。 
 
「……禁止な薬?」 

「子が出来るが、女が死ぬ薬だ」 

「ラッセル……お前………竜の背が落ちるぞ」 
 ヒューヒューと威嚇しながらザギウが叫んだ。ザギウの反応に薬は彼が作ったので、間違いないわね。 

 大丈夫落ちんと、ラッセルが白と交わした約束。燃料の多い男獣人から多く摂取し、体の弱い女からは捕らないこと。今後、女たちも少しずつ体力がつき、時間は掛かるがいずれ、子が孕み易くなるだろうと説明した。 

 
「………いずれね?……それじゃ、いつまでも…たって………解放されない」 
 ザギウは下を向いたまま、薄い唇を噛み、何やら呟いた。小さい過ぎて聞き取れ声を問いただす前に、聖女様の甲高い声に邪魔をされた。 
 
「ちょっと?なに?このピリピリする真面目な雰囲気~!みんな顔怖いじゃん!どーしたの?」 
 真面目な雰囲気をぶち破るほど、能天気に聖女様がふわりと現れた。 
 新しいピンクのワンピースに着替えて……私達を先に小舟に行かせた理由は着替えだったのね。
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