ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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後悔と朝ごはん

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 聖女様はぎっと私を睨む。 
 やっと聞けた本音に、ニマニマしそうになる口許を押さえた。睨んでも美少女は美少女。絵になるわ。
 
「嘘よ、嘘。つまみ食いなんてしないわ。ラッセルの相手でお腹いっぱいだもの……ふふ、聖女様の本音が聞けて良かった」 
 やっぱり、ニマニマを押さえられなかったわ私。 

「――――――――っ!!ミ、サ、キ~!!騙したのね!!酷いじゃん!私の気持ちを知りもしないくせにー!」 
 聖女様は手足をばたつかせ怒りまくる。 

「うーん。そうね………私は聖女様の気持ち知らないし、解らないわ」 

「え?」聖女様はポカンと私を見た。  

「………だから、きちんと話さないと伝わらないわよ。私にも、その好きな人ザギウにも」   
  
「…………はあ?呆れたわ。そこは、聖女様の気持ちを考えなくてごめん~って言うところじゃないの?」 

「あら、ごめんなさい。ただ、聖女様には後悔してほしくないだけよ…………私、竜の背に召喚された日、朝忙しくて、家族に行ってきますも言わなかったわ………最後だって知ってたら、挨拶位したのにね」 
 目をつぶれば瞼の裏に浮かぶ、家族の顔。大切だった…違うわ、今も大切。涙が滲んだ。  
  
 竜の背は魔物も黒ダニも居て、そして病気も災害だってある。いつ死んで、大切な人と引き離されてしまうのかは解らない。

「ミサキ大丈夫か?」 
 ラッセルが心配そうに私の顔を覗き込む。涙を堪える顔は恥ずかしいから、見てほしくないんだけど。 
 聖女様は下を向いたまま、唇を噛んでいた。   
 
「大丈夫よ、ラッセル。聖女様……そ」私が続きを話す前に聖女様に大声で遮られた。 
 
「もう、説教くさいー!辛気臭いー!!おばさんくさいー!!!ミサキの言いたい事はよ~く、解ったから!……朝ごはん作ってくれるんでしょ?早く着替えてよ。時間ないじゃん!」 
 ふてくされように叫ぶと聖女様は部屋を出て行ってしまう。  
 
 はあ、少しは、響いてくれると良いけど……おばさんくさいは余計よ聖女様。 

 
 気持ちを切り替え、早く着替えようとラッセルに、声を掛けた。 
 思ったより近くにラッセルの顔があってびっくりする。 

 ラッセルは段ボールに捨てられた仔猫みたいな切なく濡れた瞳で私を見つめた。  
 
「ラッセルどうしたの?」 

「……ミサキは、家族が大切だったんだな。今もその……夫を、家族を想い泣くのか?」  

「………泣くわよ、夫も千鶴も大切だったわ。まだ竜の背に来て1ヶ月もたってないのに、そんな簡単に割り切れるものじゃないもの」 

「………そうだな。俺に……ミサキを慰める手助けが出来たら良いのだが」
 ラッセルは酷く深刻そうに頷き、そして私の頭を優しくポンポンした。 
  
 慰めてくれているらしい……真面目なラッセルの精一杯の慰め方に、自然に顔が緩む。  
   
「ありがとう、ラッセル。それより、昨夜酔っぱらってご迷惑をかけたみたい……ごめんなさいね」小股を開いて見せつけて、その後吐きました。 
 
「迷惑などではない………眼福だっだ!」 
 
「が、眼…福……ちょっと言い過ぎじゃないかしら?」 
 
「言い過ぎなどではないぞ……次の閨の日が楽しみだ。つまみ食いなど考えられんよう、俺の相手で腹いっぱいにしてやるからな」 
      
 ラッセルの手が頭からスルリと下りて頬を首筋を撫で、名残惜しそうに離れて行く。瞳に情欲を燻らせ真っ直ぐに、私を射ぬく。 

 私、ラッセルに強く求められている……って、若かったら思ったかもしれないけど。 
 中出し、したかったんだねラッセル。中途半端はしんどいものね。 
      
 ラッセルに好かれているのは、今までの態度や言動で鈍くないから解るわ。 
 けど、好かれる根底にあるのが私が孕み人で、思い切り気兼ねなくヤれて、中だし出来るからだと思うとちょっと複雑。 
  
 ラッセル自体は悪くないんだけど、肉欲に染まりつつあるのよ領主様は。体力的にしつこいのはちょっと遠慮したいわ。 
  
 はあ、ラッセルとの間に子供が出来たら少しは落ち着くのかしら? 
  
 ラッセルは白に私たちの子供ありきで交渉してたけど、36歳だし、出来る気がしないわ……。 
 
「あっ!やだ!忘れてた!」 
 ここに来てやっと私は白の塔に来た本来の理由、孕まなくても死を戻さないで下さいと頼みに来た事を思い出した。
 

 
  
 急ぎ着替えた私とラッセルが部屋から出るとそこには、白いダイニングテーブルと椅子。広い流しにシンク。ガスコンロが3口もあり、モデルルームのキッチンに様変わりしていた。よく、チラシにある憧れのキッチン、そのものに私の気分も上がる。 

「ミサキ、ラッセル遅いじゃん!またエッチしてるのかと思ったわよ」
 
「してないわよ。それより聖女様、素敵なキッチンね!」    
   
「そうでしょう!私のイメージを元に造った素敵キッチンよ!感謝してたくさんご馳走を作るように!」   
 ネーミングセンスは置いといて、清潔で広々としていて、料理しやすそう。 

 早くと急かす聖女様に水を差すようにラッセルが話始めた。 
「すまんが、白と話したい。ミサキが俺と子作りに励んだ結果、孕めずとも死を戻さないでほしいのだ」
 
「はあ?白ちゃんは昨日でエネルギー使っちゃったから、当分出てこないわよ?それに、ミサキにわざわざ死を戻すって、そんな面倒なことするわけないじゃん!」 
 
「本当!良かったわ!」  
 
「でも!ちゃんと子作りするのが前提よ!黒豹獣人は少ないんだから。白ちゃんにはこの聖女様からよ~く、話といてあげるわ!」 
  
 死なないなら子作りしなくても……と、一瞬思った私を見透かすかのように、釘を刺された。ヤらないのは、ダメですか?そうですか。
 
「感謝する。ミサキは、我がバンローグの発展に必要な人材なのだ」 
ラッセルは聖女様に深々と頭を下げた。 
 
「あほくさっ……ラッセルに必要なんでしょ?」聖女様は大袈裟に肩を竦めてから、私をチラッと見た。 
 
「ラッセルがヤル気だし……心配することなさそうじゃん」聖女様はぶつくさ囁く。 


 
  
 
◇◇◇◇  

  
 
  
 朝食は、聖女様リクエストのコロッケと厚焼き玉子とヨヨイモゴロゴロシチュー予定。 
 
 メニューが夕飯っぽいけど聖女様は嬉しそうに、隣で白いフリフリエプロンをいつの間にか着ていた。 
 ヨヨイモの皮むきを不器用だけど、手伝ってくれる。芽が残っているのが残念ポイント、後で私が取りますか。 
  

 聖女様は霊体。生き物には触れられないけど、貢ぎ物として差し出された供物には触れるそう。食べなくても死なないのに食べることが好きなんだって、気持ちが解るわ。食べることは生きることだもんね。 
 
「玉子の味付けはどうする?」 
 聖女様に割ってもらった玉子の殻を取りながら、混ぜる。 
   
「味付け?砂糖のほかにあるの?」 
 
「塩や、白だし。奇を照らしてマヨネーズとかかしら?」 
 
「ママのは甘かったわ、甘くして!……マヨか~懐かしいじゃん!食べたいわ。竜の背にはないのよ」 
 
「マヨネーズは、卵黄、塩、ビネガーと油で作れるわよ」  
 
「作り方教えて!」と前のめりな聖女様と一緒に料理するのは楽しいわ。まるで娘の千鶴と作ってるみたい。 
  
 真剣にボウルに入れたマヨネーズの材料をかき混ぜる聖女様に然り気無く声を掛けた。 
   
「聖女様は、蛇領主ザギウのどこが好きなの?普段どんなこと話すの?」 
 ラッセルに頼まれた探りを入れる。どうやら薬を竜の背で作っているのはザギウみたい。単純そうな、聖女様は騙されているのかしら?不安になる。 
  
 娘が不良を好きになったと、心配する親のような心理だわ。無理やり引き離そうとすると、反って燃え上がるから注意が必要なのよ!
 
「……ザギウは、暗くて余り喋らないわ。治療しろと文句ばかりで、私にも冷たいわ」 
 
「え?聖女様が好きになる要素が、1つも見受けられないんだけど……」 
 聖女様、影の有りそうな、モラハラダメ男に惹かれちゃうの? 

「……ザギウってね。カッコいいのよ!昔好きだったバントのギタリストみたいなの!」 
 
「……蛇なのよね?……カッコいいの?」       
 頭の中にウネウネニョロニョロしてる人間サイズの大蛇が浮かんだ。うん、控えめに言っても怖いわ。 
 
「ザギウたち、蛇獣人は人間に造られた獣人だからな、容姿は人に近いぞ」 
  
 キッチンの隅っこで、ヨヨイモの皮むきと静かに格闘していたラッセルが口を開き説明してくれた。 
 1000年前、戦力として魔術師たちに造られたのが蛇獣人なんだそうだ。カッコいい人間寄りの蛇獣人、是非とも見たいわ!   
 
「……ミサキ。ダメだぞ」 
 渋い顔のラッセルに釘を刺されてしまった。
 
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