ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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添い寝 sideラッセル

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 俺は腹がたった、地の底から沸き立つような苛立ち。黒ダニの襲撃に後手に回りアルメシアの半壊を許した、の怒りだ。来春は、被害を最小限に、黒ダニを全て殲滅してくれよう! 
  
 毎年巡る回避出来ない災厄など、全力で叩き潰すのみだ。竜神の協力を得られたことは、まさに僥倖だ。 
 詳細な発生時期、発生数を事前に知ることが出来れば、充分な対策が出来る。そして、対処法を確立させれば、黒ダニを必要以上に恐れることなどない。
 
    
 子どもの増加と黒ダニ発生の因果関係をなぜ説明しなかったと、竜神を責める気にはなれなかった。 
  
 黒ダニが襲撃すると言わなかったではなく、言えなかったからだ。100年前も今春も黒ダニは人里離れた場所から始まり、次第に人の居住区に拡大した。土地は腐り壊滅的な被害をうけた。だが、領民は皆、避難し死者は皆無だった。兵士に数名の怪我人が出たが命に別状はなかった………せめてもの竜神の良心なのだろう。
  
 
 
 ミサキは提案した。燃料エネルギーを強靭な肉体を持つ男から摂取しようと……これで女の負担が減り、女性が外に出て体力が向上すれば、自身の望む道に見付けられる。心身共に健康になれば子も孕やすくなると、彼女は訴えた。 
  
 確かに妙案だ。領主の舘にも体力が有り余り血気盛んな男たちがいる。多少多く燃料エネルギーを摂取されたとしても問題はないだろう。  
 それに、女たちが皆、ミサキのように健康で活動的になれば、竜の背は活気づく。一時的に燃料は減少するかもしれんが、長い目で考えれば、子の数は確実に増える。 
    
 俺はミサキの意見を後押した。子が減ると悩む竜神に勇み声を掛けた。 
 
「竜神よ!ミサキも子作りに協力すると言っている!孕み人と俺の、強健な子が多く居れば大丈夫だろう?」ミサキの肩に手を置き引き寄せた。目を白黒させ驚くミサキ。 
  
 ミサキとの間に子が出来たら本望だ。もし子が出来なくとも、俺の側で共にバンローグを盛りたて、支えて欲しい。
 竜神は肩を寄せ合う、俺たちを見つめると息を吐く。 
   
「……君たち二人に言われたら何とかなりそうな気がするよ………了解した。ミサキの提案通り試してみるよ」 
 俺たちで竜の背を変えていく。俺が竜神に礼を告げるより前にミサキが動いた。
   
「ありがとう、白!!」    
 ミサキは喜色満面で竜神の両手を掴んで握る。俺は物凄い速さでミサキの手を竜神から引き離した。 
    
 先刻は泣く幼子竜神を慰めるミサキに配慮したが、他の男に触れて欲しくなどない……例えミサキを召喚した竜神であってもだ。 
 焼け付くような嫉妬心を押し殺し、驚く竜神の手をミサキの変わりに握りしめ「任せろ!」と力強く振り回した。
  
 
 
 
◇◇◇  
  
 
 聖女に神饌しんせんを捧げるとミサキの配慮で一足先に客間に戻った。白い質素な部屋に椅子はなく、天蓋付きの広いベッドに腰を掛けた。 
 
  
 蛇領主ザギウ……子の数と黒ダニの因果関係を知っていた1人。領主会で会合した顔の大半を包帯で覆い、青白い顔の痩せすぎて頬の痩けた青年を思い出す。どこか陰惨な雰囲気を纏った暗い男。 
  
  
 蛇領地領主ザギウは先代ダナウの急死により弱冠16歳で領主を任された。現在は28歳の寡夫で子供が1人。 
 16歳で初陣したその春、大量発生した黒ダニの討伐で瘴気を浴び顔面を含む上半身が爛れる酷い怪我を負った。 
 
 ザギウの精神的肉体的ダメージは相当なものだったと推測する。 
 怪我を負った翌年、我がバンローグで店番していた、蛇獣人の女が相次いで誘拐される事件が起こる。そして、保護された女たちは皆、蛇領主の命令で、一様に故郷に帰り、蛇領地は子供の数が爆発的に増加した。 
 女達が帰省したにしても、子供の数の増加が不自然に多い…………薬が使われた可能性が高い。 
  
 子の増加に伴い、竜神により黒ダニ発生数は減少する。蛇領地は黒ダニの脅威から逃れられたのだ。ザギウは歓喜したことだろう。
  
 誘拐事件自体、ザギウが裏で糸を引き、からすに女達を誘拐させ、他領地は危険だから故郷に帰るように仕向けた……そう考えるのが妥当だ。 
  
 
 蛇領地パミロニは人口も多く活気に満ち、住みやすい街として人気も高い。 
  
 薬は蛇領地から外に持ち出すのを禁止されていたのだろう。何故なら、薬がバンローグに出回り出したのは数年前からであり、ザギウにとって、他領土で子が増えることは恐怖に他ならない。 
 他領土で子が爆発的に増え、蛇領土の子の数が最低数なら、また黒ダニの大群が押し寄せるのだ…………ザギウは、それだけは避けたいはずだ。 
  
 薬をパミロニの外に、他領地に持ち込み、高価で売りさばいたものがいる……からすだ。 
 
 今後、薬は竜神勅命で禁止が言い渡される。からすを捕まえれば、薬の出所、製造場所がわかるやも知れん。 
  
 ザギウに繋がる証拠を抑えくすりの製造を止めさせなければ………女を悲しませ、死なせなくなどない。勅命に背けば、いかに領地とて罪は問われる……今後、ザギウがどう動くか、注視しなければならんな。素直に薬から手を引くとは到底思えないのだ。
 
  
 聖女に頼まれ神饌しんせんで準備した蛇酒……ザギウは怪我と瘴気の爛れで聖女から治癒の施しを受けていた。今でも定期的に治癒を受けているのだろう。
  
 ザギウは、聖女と純粋に懇意だと考えるべきか?…………いや、単純な聖女から利を得る情報を引き出すため、懇意の振りをしている公算が高い。黒ダニと子の数の因果関係も聖女から聞き出したに違いない。
 聖女に話を聞き、ザギウの動向を探りたいものだな。

  
 白の塔の清浄な空間は清すぎて塔に長期滞在は出来ぬ。強すぎる聖気は人体には毒になる。明日の夕過ぎにはバンローグに帰省予定だ。 
  
 俺が客間に入り熟考すること数刻……今だミサキと聖女は酒宴中だ。 
 話が弾んでいるのか部屋の外から笑い声が漏れ聞こえる。聖女と打ち解けたようだ……起床したらミサキに聖女と話すよう頼むか……。 
  
 聖女や竜神を見つめるミサキは、穏やかな優しい顔をしていた。残してきた娘、夫を思い出したのだろうか? 
  
ミサキの夫か……。 
 
 彼女は会えぬ夫を慕ってまだ泣くのか? 
喉に何か詰まったように渋く苦い。
 
 ミサキに俺を見て欲しい……子作りの為仕方なく体を繋げるのではなく、俺を求めて欲しいのだ。贅沢な願いなのは解っているが、彼女の体だけでなく心も欲しいと切に思った。 


 
 
◇◇◇ 


 
 
 
 久しぶりの酒で酔いが回り、白の塔来訪と閨の翌日の休日確保で仕事を詰めていた俺はいつの間にか寝ていたようだ。
 
 
 ふっと人の気配がして俺は片目を開けた。ミサキがドアを開けて入って来るのを視界の端にとられた。千鳥足でふらふらとベッドに向かう彼女は泥酔状態のようだ。 
  
 ベッドは幸い広く、端に俺が寝ていてもミサキが充分寛げるスペースがある。二人で添い寝をしても良いだろう。 
  
 トスンとミサキの重さでベッドが沈んだ。閨で俺の上に跨がるミサキの重さ、吐息、柔らかさを思い出す。潤んだ瞳、甘美に啼く声、すがり付く中……心臓が早鐘を打ち始め、血液が下半身に集結していく。 

 添い寝ではなく、共寝がしたいものだ。その柔肌を掻き抱いて朝まで貪る。 
 
 ふつふつとマグマのように煮えたぎる獣欲。それを、体を丸め必死に押さえ込む。低い唸り声が出んよう腹に力を入れ、襲いかかりたい激情に耐えた。
 
 今日はもくの日だ……閨の竜神の日ではない。 
 駄目だ!もし竜神の日だとしても神聖なる白の塔でことに及ぶなど……領主として恥ずべき行為。俺がどんなにミサキをほっしても我慢すべきことなのだ。 
  
 鼻孔にミサキの香しい体臭と酒精が掠める……衣ずれの音が耳に艶かしい……寝衣に着替えているのだろう。耳鼻が俺の意志を無視して、貪欲にミサキを知りたいと忙しなく動く。 
 
 止めろ……グウウと鳴りそうな喉元を抑え、早く寝てくれと懇願した。そうすれば風呂場で欲を吐き出せる。  
 虚しいが一度吐き出せば冷静賢者タイムになれる。ミサキが隣に添い寝しても耐えられはずだ! 
  
 
―――俺は、だった。

  
 苔むした岩のごとく固まる俺の背中に、「はへ~。抱きたくら、おっきー」と酔って呂律の回らないミサキに素肌で抱き込まれ、おっぱいを擦り付けられるまでは……。 

 
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