ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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神の目様と静かな怒り

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 領主の館を北上し、鱗の森を抜けた開けた岸辺にラッセルに許可された漁師しか入れない入り江がある。そこから、小舟に乗り込み白の塔を目指す。数日、見掛けなかったカンタはラッセルの命令で、急遽聖女の山から聖水を汲んできてくれていた。 
  
 何処から聞いたのか、「ラッセル様にクッキー作ったなら、ミサキの為に汲んだんだから、ご褒美に僕にはプリン作ってよー!」と騒いで周りを困らせ、一緒に作る約束で納得してくれた。ジャミとカンタは領主代理として館で留守番中。
  
 聖水を船の先から流しながら進めば、聖水の効果で魔物も近寄れない。ラッセルと私が乗船した船を真ん中に護衛船四艘に守られ、安全に聖なる海域に着いた。    
  
 ここから白い塔は領主と、神の目様が招待したものしか進入出来ないそう。船の漕ぎ手の獣人に御礼を言い、護衛船に移ってもらうと、ラッセル自ら力強く漕いで行く。 
 
 霧が立ち込めて視界がだんだん白くなり、前に進んでるのか、後ろに進んでるのかも解らない。目の前で船を漕いでいたラッセルさえ見えない。 
   
「ラッセル居るの?」 
  
 不安になり声をかけた瞬間…………私は、濁流に飲み込まれた。冷水が鼻から口から入り、足に絡む、まるで召喚された日みたいに……。
 
 助けて、助けて、苦しくて伸ばした腕を、太く逞しい腕が引き上げ、抱き寄せた。あの日と全て同じ光景…………もしかして、溺れた私を助けてくれたのはラッセルなの?
 
「ミサキ大丈夫、全て幻だ!水はない。呼吸をしっかりするんだ!」 
 
 心配そうなラッセルの顔が視界いっぱいにあった。幻?確かに髪も服も濡れていない。 
 
「ラッセル?ここは……」密着するラッセルの胸を軽く押し、周りを見回す。 
  
 白い……目に痛いほどの白く発光する空間に私達は身を寄せるように立っていた。 
 
「白の塔の内部だ……」          
 
 白過ぎて部屋が広いのか狭いのか天井が高いのか低いのかもぼやけて曖昧。                      
 
「え?さっきまで船の上だったのに?」 
 
「竜の目様………戯れが過ぎる」 
 ラッセルが何もない天井を鋭く睨むとクスクスと笑いが白い空間に響く。
 
 暫く響いたあと、白い壁から透明な人間の女の子がするりと現れた。腰まで届く長い黒髪、洋服はシンプルなワンピース。目鼻立ちはハッキリで、長い睫毛に縁取られた黒い大きな瞳。 
 生意気そうな口元をにやつかせた、美少女がふわりふわりと私とラッセルの周りを浮遊する。 
 
「……ラッセル怒ったの?あんまり、遅いから~呼んであげたのに。そしたら、コレが今回の孕み人って……もう、ラブラブなんだ!抱き合っちゃってさ~。なんか、ムカつくじゃん!私だってラブラブしたい~!」可愛らしく高い声。 

 ポカンと空いた口が塞がらない……嘘だよね?もっと高尚で神々しい人物像を思い描いていた。

「あは、なに馬鹿みたいに口空けてるの~。受けるんですけど~!」 

「ラッセル………まさか?」 

「その………まさかだ。すまんなミサキ、誠に残念だが……こちらの女人が竜の目様でもあり、聖女だったお方だ……」心底残念そうに目を伏せるラッセル。
 
「せ、聖女様?……コレが?………このアホっぽいのが?」   
 
「あ、アホって何よ!この溢れでる神気に美貌!どっから見ても神々しい聖女様じゃん!!そっちこそおばさんでしょ~?歳だし、直ぐにラッセルに飽きられるわよーだ!」 
 
「おば、おばさんって…」 
 
「………ミサキは、おばさんじゃない。それに……飽きる余地などないぞ」 
すかさず、ラッセルがフォローしてくれた。   
 
「……ラッセル……」 
 フォローが少し恥ずかしく、視線を送れば、同じく私に視線を寄越したラッセルと目が合う。
       
「何よ!目なんか合わせて!………ラッセルが孕み人に、メロメロなのはよ~くわかったわよ!……それで何を聞きたいわけ?まさか白の塔までノロケに来たんじゃないでしょう?」 
  
 私とラッセルが仲睦まじいと勘違いした聖女様はお怒りのご様子。 

「そうだったわ、竜神様にお聞きたいこととお願いしたいことがあります」 
 相手が失礼な物言いだからといって私まで礼を欠きたくない。 
      
 敬語で話始めると、聖女様は、物凄い嫌いな虫を見たような顔をして「今さら敬語使われても気持ち悪いじゃん、止めてよ!」と遮る。 
 
「神の目様であるこの私が、見聞きしたこと、竜神にちゃーんと繋いであげるから、感謝するよーに!」 
 上から目線で感謝を促す聖女様は誉めて欲しい子どものよう………そう、子どもなんだわ。 
 
 素直に感謝と頼りにしていると伝えると「あら、良い心がけじゃん?私が知ってる事なら何でも聞いてよ!」聖女様は透けた胸をトンと叩き得意げに微笑んだ。 

 
 領主のラッセルより先に質問するのは双方に失礼かもしれない。ラッセルに先を促したけど………ミサキの為に来たのだから先にミサキが良いぞと逆にラッセルに譲られ、私は疑問を口にした。
 

 

 
◇◇◇ 




「ガソリン?」 
 
「そう、燃料よ!竜神の背中に住まわせてあげてるんだもん!ちょこっと獣人からエネルギーもらっても、バチはあたらないじゃん~」 
 私の質問に答えてくれた聖女様は、ガムでも噛んでいそうな軽い口調。 
 
「燃料って、生きてる人なんですけど!」 
 子を作れ増やせと言う理由が燃料になるから…って、それなの?憤りしかでないわよ! 
 
「うわ、おばさん怖っ!獣人がたくさん増えれば、供給されるエネルギーも増えて、その分早く安息の地にたどり着けるしー、お互いメリットしかないじゃん!何が悪いの~?」 
  
 口をぷくと膨らませ怒ってるアピールをする聖女改め、こしゃまくれたむすめ小娘。うん、小娘こむすめで充分だわ。 

「メリットね?……子が出来なくて苦しんでる女の人も居るのよ?孕みたくて副作用凄くて死んじゃうかもしれない薬を飲むのよ!」 

「え~~!そんなこと言われても、私知らないし~。」 
 
「知らないし~じゃなくて、女の人死んじゃったら、獣人の数は減るし子ども産める可能性は0でマイナスになるわよ!」 

「でも、でも!今は結果的に獣人の子供の数、増えてるじゃん、それじゃ駄目?」

 
「駄目だろうな……今は一過性に増えているに過ぎん……女が居なくなるのだ、長い経過を考慮すれば、子の数は確実に減少するだろう……」

「うそ~!だめじゃん!!」     
焦り空中をうろうろする聖女様。  

「竜神様の勅命で薬禁止の書簡を各領地に出してほしいのだが……」 

「ち、勅命っ?………あっ?……えっ、ちょっと白ちゃん、本当マジで出てくるの?えー!私の出番ないじゃん……へっ、ラッセルと話したい?うーん、そこまで言うなら……でも、エネルギーたくさん使うから、長くは……駄目だからね!!」
  
 一人、空中で逆さになり、百面相をする聖女様。その体がすーっと降りてきて下を向いたまま、ラッセルの前に静止した。 
 
「………初めまして、バンローグ領主ラッセル」
 
 凛とした青年の声が白い間に響き渡る。スッと挨拶をしながら、聖女様が顔を上げた。 
  
 先ほどまでの黒い大きな瞳は金色に色彩を変え、キラキラと舞うように輝く。 
 生意気そうな口元は優しく弧を描き慈愛に満ちる。黒髪は金色に発光し、清浄な神気に包まれてふわりと浮く。 
 圧倒的な存在感、その場を支配する者。そこに居たのは聖女様ではなかった……。
 
「あなた、誰?」 
   
「………竜神……なのか?」ラッセルが声を絞り出した。 
   
「そう、私は竜神。白竜のはく……獣人達が住まう大地は私の体の一部。獣人は同胞そして、私の一部だよラッセル」 
 
「………俺達が、一部。先ほど聖女が竜神が獣人を燃料にしているという、話は真実なのだな?」 
 
「残酷だけど真実だよ……そうか、ラッセルは知らなかったんだね?ショックだろう。始まりの獣人達は燃料になると納得したうえで、私の大地に住んでくれたんだ。共に安息の地を求めて腐った大地を飛び出した。あれから1000年経つ、知らない者が大多数だね。もし、ラッセルが皆に真実を伝えたいと望むなら………私から皆に告げよう……」 
  
 聖女小娘、人のことおばさん呼ばわりしたけど、竜神と一緒なら1000歳越えてるんじゃない?
 
「……………領民に…………燃料と………」 
 ラッセルは押し黙り、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 
「さあ?どうする?バンローグ領主ラッセル?」
 金色の瞳は優しく潤みラッセルを見守る。悪意など有りません、貴方の意思を尊重しますと言う。 
 
でも……これって―――。 
 
「………伝える必要はない。安易に竜神の燃料なのだと告げ領民に不安と不信感を与えたくなどない。それに、早く安息の地に行きたいと、益々女に子供を産むことを強いる輩が出てくるだろう」  
 
「そう………了解したよ。領主ラッセルの望みどおり、君の選択を歓迎しよう」美しく慈愛深く微笑む竜神様。  
 
 白々しいわ……最初から領主のラッセルが領民を混乱させない選択肢をすると踏んでたくせに!ラッセルの意思を尊重しているようで、全くしていない………神様はいつだって無慈悲で、残酷。

「ミサキ、何も言うな……燃料と知りえた所で、俺達の生活は変わらん。竜の背から降りる選択肢はないのだからな…………ただ領民が平穏無事で生活出来るよう最善を尽くすだけだ」 
 ラッセルは吹っ切れたのか酷くきっぱり告げた。そして、精悍な顔を竜神に向ける。 
 
「竜神よ。先の薬禁止の件、熟考して欲しい」 
 
「ああ、薬禁止だね。竜神の私から勅命を下すよ!数が減るのはお互い困るからね」 
 
 獣人を燃料だと思ってるくせに……私はもやっとした。 
 
 ラッセルは、感謝すると竜神に深々と頭を下げた。再び頭を上げた時、その瞳に深く静かな炎が垣間見えた。 
 
ラッセルは怒っていた……何に?  

「時に竜神よ………現存している古い領地議会の資料を調べた。春の黒ダニの被害が甚大な領地は軒並み、一番子供の数が少ない領地のようだが………これは偶然か?必然か?………答えてもらいたい!」 

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