11 / 37
罰とくすり
しおりを挟む「ジャミ君は自分の欲望を抑えてしまうから心配していたんですけど、しっかり雄だったんですね」穏やかな笑顔のハリーさん。
「兎殿……領主殿から今日ミサキの診察の予定があると伺っていませんが?」
不機嫌を隠そうともしないジャミさんは、鳥目を細め鋭くハリーさんを睨む。
「はい、予定はありません。ですが、昨夜、ラッセル様ご本人が、ミサキの軟膏を処方してほしいと診療室に来られまして、話を聞くと閨で入り口が裂けたというじゃ、ありませんか!これは一大事と治療の為にミサキの部屋に来てみたら、ジャミ君がミサキを脱がす寸前で、部屋に踏み込んでしまって……いやあ、すいませんね。僕に気にせず続けてもらって良かったのに……残念です。人間が獣人とまぐわう瞬間、是非とも拝見したかった」心底残念そうなハリーさんに若干引いた。
人に見られながら、ヤる趣味はないです。でもハリーさんが来なかったら、ジャミさんに好き勝手に触られていたと思うと助けられたわ。
「僕は……人間とまぐわうつもりはないよ。さっきのはさ、昨夜啼いて、館の皆をたぶらかした罰だよ」
「罰って……啼き声が雄を誘うなんて、私は知らなかったんですけど!」
「知らなかったとしてもさ、僕達が居なかったら、当てられた雄に……下手したら集団で無理やり襲われてたよ」
集団?人間の私が暴力的に獣人に襲われる、その可能性を考えて、ぞっとした。
―――守ってくれたんだ、そして今諌めてくれた。人間嫌いだから、私に触れたくはなかっただろうに…。
「ジャミさんは、キザな嫌み鳥で、いきなり触られて、ムッツリスケベかと思ったけど……」
「ミサキ……君さ、ケンカ売ってる?」
「心配してくれたのね。ありがとうジャミさん」素直にお礼を言うと、ジャミさんは呆れたような表情を浮かべた。
「罰を受けたのにお礼を言うなんてさ、君、おかしいよ………………はあっ、ジャミでいいよ」
「は?」
「なに呆けてるのさ?君は、領主殿の客人だからさ、僕とカンタは呼び捨てにして、敬語も止めてよ」
「これは、ジャミ君が珍しいですねー。ジャミ君も孕み人の啼き声に絆されましたか?」
ふんとジャミは、ハリーさんから目を反らす。
「私の泣き声……ハリーさんにも聞こえたんですか?」恐る恐る聞いた。
「それが、残念なことに、僕は、夜、孤児院に帰るのでミサキの雄を誘う啼き声、聞けませんでした。だから、今すぐ啼いて聞かせて下さい!貴重な孕み人の啼き声、是非とも聞きたいです!!」
兎耳を期待に揺らすハリーさんに距離を縮められる。
「兎殿、むやみに泣くなと僕が注意したばかりですが?」
「ははっ、そうでした…………ミサキ、次に啼くときは絶対に教えて下さいね!ね!」
ハリーさんの熱量に腰が引けた。
絶対に教えたくないけど、ここで拒否しても諦めなさそう………教えると渋々告げるとニコリとハリーさんは鼻を引くつかせた。更に、絶対絶対ですよとしつこく念を押される。どんだけ聞きたいんだろうか?この兎は……。
「それではミサキ、裂けた入り口の診察をしますので、脱いで下さい!」
ハリーさんはいそいそと椅子をベッドの隣に置くと座り、私にベッドに横になるよう促す。
この流れで何故に診察に持っていこうとするのか、止めてほしい……予定はないって言ってましたよね?
「ハリーさん。ラッセルの勘違いですよ、裂けてないから、大丈夫ですよー。いざというときの軟膏もありますから、診察は遠慮します」
「そんな、遠慮なさらずに!裂けてなくとも、昨日の閨の前と後の測定値を比較したいので、計らせて下さい」
ハリーさんは、ウキウキと白衣の胸ポケットから定規を取り出す。
ひいい、この兎、測る気満々ですよー!逃げないと、また知りたくなかった数値を聞くはめになるわ。
「計るのは拒否します!」
はっきりキッパリ拒否しても、そんなこと言わないで下さいとハリーさんがにじる寄る。
この変態医者、今度こそ、耳をもいでくれようか?
「兎殿、診察は領主殿に許可を得てからにして……ミサキも嫌がってるからさ」
思わぬ助け舟がジャミから来て、私も大きく頷く。
「朝ご飯もお昼も食べてないの、また今度にしてほしいな」
今度はない、2度とごめんねしたい。とりあえず今は逃げて、ラッセルにお願いしよう。
食事もまだと告げると、ハリーさんは兎耳を垂らし心底残念そうに「解りました……断腸の思いで今回は諦めます。次回は、ラッセル様に許可をいただき、確実に測定しますからね!」と身を引いた。
「そうでした、ミサキに聞きたいことがあります!」食堂に向かう途中にハリーさんが唐突に聞いてきた。
「測定じゃないなら、何でも聞いて下さい」
「ミサキの世界に子が孕みやすくなる薬はありますか?」
「子を……うーん。排卵誘発剤ならありますけど、卵巣を刺激して排卵を促すんです……」
「卵巣を刺激ですか………その薬の、副作用を教えて下さい」
初めて見るハリーさんの医者の顔に私は姿勢を正した。薬の副作用による多胎妊娠。卵巣が大きく腫れたり、お腹、胸に水が溜まる可能性があり、重篤な場合、卵巣破裂、肺水腫になることを説明すると、一緒に話を聞いていたジャミが驚き声をあげた。
「兎殿……町に出回ってるクスリは……」
「そうだね、ジャミ君。ミサキの話を聞いて確信できましたよ…」
ジャミと目を合わせ頷くハリーさんの瞳に怒りが滲んでいた。
◇◇◇
遅い昼御飯の後にハリーさんに呼ばれラッセルの領主室に連れていかれた。
領主室には、ラッセル、ハリーさん、ジャミにカンタ。カンタを除く三匹は、深刻な顔をしている。
ハリーさんの話に寄れば、ここ一年間で双子や三つ子が産まれ、出生率は飛躍的に増加している。でも、それに比例するかのようにお腹、胸が苦しいとハリーさんの診察所に運ばれる女性が増えて、死亡者も増加。
死亡した女性は、卵巣が破裂してショック死していたそうで、不信に思ったハリーさんが原因を追及すると、子宝に恵まれるという怪しい薬を飲んでいたことが、判明。薬と死亡の因果関係が不明だったけど、私の話を聞いて間違いないと思ったみたい。
「ミサキの居た世界でも同じような薬があるのだな?」渋い顔のラッセル。
「うーん。私の世界の内服薬は効果が緩やかでほとんど副作用はないのよ。どちらかというと注射剤の副作用に近いわね………でも、医者が副作用を注視してるから、死亡者はほとんどいないわよ」
「…………強力な作用がでるよう改良されているんでしょう」
「そんなの、薬じゃなくて毒よ」
「そうです毒です。こんなものは薬じゃありませんよ。それに、女性たちは副作用を知らされていません、ただちょっと胸やお腹が苦しいしか症状がでず、悪化したときは手遅れ……助けられませんでした」
酷く悔しそうに拳を握りしめるハリーさん。そう、もし副作用を知らされていたなら、少しの違和感でハリーさんの診療室に駆け込んで助かったかもしれない……。
「先生、自分を責めるな……責めるとしたら薬を作った奴だ。先生が女性の死に不信を持たなかったら、俺は、単純に子供の数が増加したと喜び、今でも気付かぬところだったぞ」ラッセルがハリーさんの肩に手を置く。
「ラッセル様……すいません」
「え?双子、三つ子で一気に子供増えるんでしょ?何がダメなの?」深刻な空間を壊して、単純に数を計算したらしいカンタは不思議そうに質問する。
「ただでさえ出産は大変なのに、多胎出産は母子ともに危険なのよ」
「うーん、でも最悪、子供だけでもいいんじゃない?」な、言い訳あるか、この駄犬は!
「カンタ、君、馬鹿なの?母親が死んだらさ、誰か子供を育てるのさ」呆れ顔のジャミ。
「確かにそうだけど……跡取りほしい、おっきい家なんかは、皆で育てるから大丈夫なんじゃない?」
体の弱い母親を犠牲にして、生まれてくる子供を優先する思想、竜の背では、罷り通るのかもしれない。それでも私は、ムカムカして、気分が悪い。子を産む道具じゃないし、子を産むだけが人生じゃない。
「カンタは、私が死んでも平気なのね?」
「ミ、ミサキどうしたの突然!」
「もし、カンタと私の間に子供が出来て…」
「ぼ、僕とミサキの子供!」カンタは尻尾をフリフリ嬉しそう。他の三匹は何故か苦渋の表情。
「子供が双子で私が出産時に死んじゃっても、ラッセルやジャミ、ハリーさんの皆で育てるから大丈夫なのね?」
「……そ、……………だ、大丈夫じゃないよ!死なないでミサキ~!!」
カンタが、ワンワン泣きながら私をまた抱きしめようとしたけど、ラッセルに頭を捕まれ、その場に座り込みくーんと鼻を鳴らす。
「カンタ……お前が言ったことの意味が解ったか?」
「ラッセル様、僕……ごめんなさい~」
「……俺は、たとえ子供の数が増えても女を犠牲にしたくはない。この薬は禁止だ。領民に副作用を公表して全て回収し、どこから領地に入ってきたのか出どころを見つける。皆協力してくれ!」男たちは力強く頷いた。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
子連れの界渡り
みき
恋愛
田辺 由紀(39) 〔旧姓 五ノ井〕
私には2才になる愛娘がいる。
夫と結婚して8年目にしてやっと授かり、12時間かけて産んだ可愛い我が子。
毎日クタクタになるまで家事と育児を一生懸命頑張ってきた。どんなに疲れていても我が子の笑顔が私を癒してくれていた。
この子がいればどんなことでも頑張れる・・・そう思ってしまったのがいけなかったのだろうか。
あの人の裏切りに気づくことができなかった。
本日、私は離婚届に判を押して家を出ます。
抱っこ紐の中には愛らしい寝顔の娘。
さぁ、娘のためにもしっかりしなきゃ!
えっ!?・・・ここどこ?
アパートの階段を下りた先は森の中でした。
この物語は子連れの元主婦が異世界へ行き、そこで子育てを頑張りつつ新たな出会いがあるお話です。
☆作者から読者の方へ☆
この作品は私の初投稿作品です。至らぬ点が多々あるかと思いますが、最後まで温かく見守っていただけると幸いです。また、誤字脱字がございましたらご指摘くださいますようお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる