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泣き声と不埒な羽
しおりを挟む「三に、んっ……三匹でいいのがしら?揃って何しでるの?」嗄れた声のまま、少し疲れた様子のラッセルたちに声をかけた。
「ミ、ミサキーっ!大丈夫心配したよ!」白い弾丸ことカンタさんに激突され、絞め殺される勢いで抱きしめられる。
――ちょっと、またなの?
「カンタ、ミサキを絞め殺すな離せ!」
ラッセルの一喝でカンタさんは私から離れて、顔をまじまじと見つめ「ミサキ、顔、風船みたい、パンパンー」と嬉しそう。
「君、本当に酷い顔、ただでさえ、見られたもんじゃないのにさ………ふん、タオルで冷やせば少しは、ましになるんじゃない?」
「ああ、ジャミまた、頼む」
「ん、あっ、またって……このタオル、ジャミさんが?」喉を整えながら聞く。
「ふん、領主殿の命令だからね。見るに耐えない顔だよ君……僕は、本当は人間ごときのお世話なんてしたくないんだよ」
御礼を言おうと思ったけど、ジャミさんの言いぐさにイラっとする。悪かったわね、泣き張らして見るに耐えない顔で…。
「ジャミ失礼だぞ」ラッセルが諌めてくれる。
「そうだよジャミ。ミサキ、顔、満月みたい美味しそう」カンタさん全くフォローになってないんですけどっ。
「あら、確か、部屋の鍵をかけた筈なんですけど?許可してないのに、勝手に女性の部屋に入ってきたんですか?ジャミさんいやらしい~」
「な、鍵を勝手に開けたのはカンタだよ!君が泣いて可哀想だから…添い寝すると騒いでね」
「すまんな、様子を見に勝手に部屋に入ったのは俺だ……タオルもその時準備させた」夜中、頭を撫でてくれたのはラッセルなのかしら?
「鍵、僕だよ。添い寝、止められたんだ!ラッセル様、酷いよね、ミサキも添い寝したかったよねー?」
「はは。添い寝は、ちょっと遠慮するわ……ラッセル、カンタさんを止めてくれてありがとう」
「ひ、酷いよミサキ~!」
「ごめんね。カンタさん心配してくれたのよね」私は、膝を抱えていじけるカンタさんの頭に手を伸ばし白い犬耳と犬耳の間をワシャワシャ撫でる。手にはふわふわ白もふもふの感触、とても気持ちいい。ふう、癒されるわ。ちょっと添い寝も良いかも……。
撫で続けているとカンタさんは潤んだ瞳で私を見上げ、ガバッと私に抱きつき腰を押し付けてきた。
「ちょっと、カンタさん!」
「ミサキ……あんな切ない声で啼かれたら僕…僕。……婚約者いるけど、8歳だし、成人まで後2年あるし……ミ、ミサキ、ちょっと食べていい?……いいよね?ラッセル様の客人だけど、奥様じゃないもんね!」
「カンタ、馬鹿なの君!!」止めようとするジャミさん。
「ジャミは良いよ!兄弟との共同婚だけど奥さんいるし。僕たち、結婚前には発情した雌の啼き声……我慢出来ないよっ」カンタさんにスリスリと頬擦りされ、固めの肉球付きの手が私の太ももを撫でた。
「――っ、カンタさん、止め……」
「俺の客人に触るな!!」
ドコン!!―――私の拒否する声が言い終わらないうちに怒ったラッセルに蹴飛ばされ、カンタさんの巨体が吹き飛んだ。
カンタさんの体は、廊下の壁にぶち当たり止まる。壁にめり込みそうな勢いに思わず引いてしまった。
「カ、カンタさん大丈夫?」
ケガしてないかしら?心配で顔を覗くとへらっと笑う、ケガのない様子にほっとした。
「ミ、ミサキ優しい~。大丈夫だよ僕、骨太。ラッセル様、酷いし、ズルいよー!……ミサキ発情期でしょ?僕もヤりたいよ!」
「は、発情期?誰がっ?」
「違うの?ミサキ、啼いてた!」不思議そうなカンタさん。
「な、泣いてたけど、違うわよ!旦那と娘を思い出して、泣いてたの!」
「カンタ!意味が違うだろう!」
怒鳴るラッセルは私を守るようにカンタさんの前に立った。
「カンタ、領主殿も落ち着きなよ……ミサキ、君さ、次に泣くときは教えて欲しいな、防音室に案内するからさ…」
「ぼ、防音室?」
「ジャミ!ミサキが傷つく…」止めようとするラッセル。
「領主殿、しっかり伝えるのが本人の為ですよ」嫌み鳥ジャミさんの真面目な顔に嫌な予感しかしない。
まさか私の泣き声って―――。
「僕達、獣人にとって、孕み人の泣き声はさ、発情期で襲って下さい、子作りしようって誘ってるよう聞こえるんだよ」
「うそうそうそ!私、誘ってない、そ、そんなつもりないわよ!」
「君に…そのつもりがなくてもさ、聞こえるからね………昨夜は、カンタを筆頭に館に残ってた若い衆が色めき立ってさ、部屋の前まで見に来るし、落ち着かせるの大変だったよ。君が泣き止むまでさ、僕たち君の部屋の番人だったよ」
「ううっ……死ぬほど、恥ずかしい。迷惑かけて、ごめんなさい」
まさか、泣き声で雄を誘い、領主とその臣下に護衛ばりに門番をさせていたとは……だから3匹は部屋の前で疲れた様子だったのね。
「本当に迷惑だよ。無自覚で雄を誘うなんてさ。君、たちが悪いよ」
自分が迷惑を掛けただけにジャミさんの嫌みに言い返せない…。
「ジャミ……ミサキは知らかった、反省もしてる。そのぐらいにしてやれ…」
ラッセルは、まだ言いたりなそうなジャミさんを諌めると私に語りかけた。
「ミサキ、旦那や子供を思い、泣くなとは言わん。ただ自分の泣き声が雄を誘うと自覚してほしい」
「解ったわ、泣くときはラッセルを呼ぶから、防音室に連れてって」
簡単に振り切れない、旦那を子供を住んでた世界を思って泣くだろう。泣くたびに領主達に門番をさせるわけにいかないし、声に煽られた獣人に襲われるのも嫌だもの、防音室一択よね。
「……啼くときは俺を……呼ぶか」
「ラッセル?」
「ミサキ、ミサキ!啼くときは僕も呼んで!」
「カンタさんは、呼びません!」キッパリお断りした。
◇◇◇
私が起きた時間は昼過ぎだった。三匹は代わる代わる私の様子を見てくれたそうだ。
ラッセルは領主室で急ぎの書類があり、カンタさんは館に帰ってきた獣人たちと畑の柵の修理をするそうで、二匹は仕事に行った。
残ったジャミさんが私を食堂に案内してくれると言う。人間なんてと、ぶつくさ言いながらも世話してくれるジャミさんに、瞼を冷やせとタオルと喉に良いと苦い薬湯を渡され飲んだ。
その後、ラッセルとお揃いの元奥さんの服では客人として相応しくないと服を渡され、着替えをしろとジャミさんは部屋から出た。
服は、長いワンピースドレスだった。色も落ち着いた緑で、神秘的な竜の刺繍がしてあって素敵なんだけど、背中が……お尻の近くまでざっくり開いてる。間違いなく、獣人用。背中に羽があっでも背鰭があっても、お尻にしっぽがあっても対応できるように、背中側を紐で縛んで調整出来るようになってる。背中を紐で結んだら、最後にウエスト部分を綺麗な飾り帯で縛り前で留めるみたい。
これは、背中、お尻見えるよね?すんごい恥ずかしいんですけど?それに背中の紐、体固くて、1人で結べないわよ。自分の柔軟性のなさに悲しくなる。ヨガでも習えば良かったかも。
はあっとため息をつき、解らないことは聞くか、頼むしかないわ……部屋から顔を出し、ジャミさんを呼ぶ。
「君、何なの?服も満足に1人で着れないの」
「そんなこと言われたって、私は獣人じゃないから、背中ぱっくり服の紐結べないのよ」
嫌みを言いながらもジャミさんは、首もとから紐を結び始める。
ジャミさんの翼は人間で言うところの腕に羽根が沢山付いていて、その先には手がありきちんと五本指がちゃんとある。器用に細い紐を結んだ。
緑色の羽が虹色に輝き綺麗、ジャミさんの動きに合わせて優雅に揺れた。羽が時折、私の首筋や背骨を掠める。背中に意識が集中する、こそばゆくってピクと皮膚が動いた。ジャミさんの手が止まる。
「…人間はさ、背中に毛も鱗も生えてないんだね。お尻にしっぽもない」ジャミさんの羽が私の背骨をなぞり、ゆっくり下りてお尻を撫でた。
「ひ、あっ!」ゾクッとして反射的に声が上がり、慌てて口を押さえる。
「君、今の声なに?」何でもないと頭を振ると、ジャミさんが嘴を歪めた。
「夜中、君の啼き声聞いて、結構きてるのにさ……背中の紐縛ってて馬鹿なの?無自覚で男を誘うなって僕言ったよね?」
「さ、誘ってないわよ!ジャミさんがいやらしく触るからでしょ!」
「………いやらしくって、こんなのかな?」
目の据わったジャミさんが、大きく空いた背中から手を私の服の中に侵入させた。柔らかい羽根でお腹を脇腹をさわさわと擽る不埒な手。
ひいい――くすぐったくて、ぞわぞわする。
「――ジャミさん、止めっ、はっ、くすぐったいわ、あっ」逃げようと身をよじれば、ジャミさんは後ろから体を密着させた。細身だけどしっかりと筋肉の付いた男性の体に心拍数が上がる。
「ふ、逃げようとしてるの君?人間てさ……本当に非力だよね」耳元で囁くジャミさんの声は熱い。お腹を擽る羽根がお臍の周りを一周すると、ゾクッと快感が沸き上がる。
「―――っ、」
情けない声がでないように、口を押さえる私を嘲笑うように、体がびくびく動く。
「君って、感じやすいんだね…」
ジャミさんの羽根が臍の上を登り、私のおっぱいの下を掠めた。
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