ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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妥協点と腫れた瞼

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 反対側を向いて照れていたラッセルは、こほんと咳払いをするとジャミさんとカンタさんを下がらせた。 
 そして、私の前に何かを握った手を差し出した。チラッと赤い民族衣装の袖口から手首が見えた。手首には黒い光沢のある毛並が縛られたロープのままに薄くなり、後が生々しい。やっぱりきつく縛り過ぎたと反省する。  

 
「なに?ラッセルこの手は?」  

「ミサキ、手を……軟膏を渡したい」 
 ラッセルは私の手のひらに木で造られた小さな円筒を乗せた。蓋の部分に絵の具で描かれた赤い花が散りばめられて可愛いらしい。 

「その……俺のを入れて、裂けただろう?優しく出来ず、すまなかった。ハリー先生に鎮痛と止血の軟膏を処方してもらった、後で使え。」 

「優しく、出来ず…。軟膏を?」 
 領主みずからわざわざ軟膏を持ってきてくれたようだ。私は呆気にとられた。 

「ああ……最後、我慢出来ず、下から突き上げた。それで裂けたんだろう…」 

 自分の閨の所業に心底申し訳なさそうに、黒い猫耳を下げるラッセル。 
 なんと真面目で優しく愚かな人。責められるとしたら領主を目隠しし、縛り上げた私だと思うんだけど…。 

「……ラッセル、裂けたのは、私が久しぶりだからだと思うから気にしないで……。それにラッセルが謝るなら、領主様を目隠して、ロープで縛りあげだ私は、土下座しなくっちゃじゃない?」 
 
「ど、土下座なんぞ、しなくていい!」
「じゃあ、ラッセルも謝らないで…」 
 
「わかった……。いや、でも俺は、謝らないとだ。ミサキの性器をドドメ色と揶揄した。目隠しや縛られても当然だ……不愉快な思いをさせた……すまなかった」  
「本当に不愉快だったわ。ジャミさんとの会話でイライラしてたみたいだけど、人として……違うわ、領主として女の人の性器を貶すなんて最低よっ」私はラッセルを軽く睨む。 
 
「さ、最低………くっ、確かにそうだ。ミサキを深く傷つけた、すまない。もう二度と言わん」 
 ラッセルが大きな体を縮こませ深々と頭を下げた。連動して耳がへたり、長いしっぽも床に着きそうに情けなく下がる。 
  
 全身で謝る姿は、何だろう?悪戯をした飼い猫を叱っている気分……。 
 ラッセルって、見た目怖い、黒豹で体も力も私より強いはずなのに、真面目すぎて、虐めたくなるタイプだわ。 

「ラッセル、謝り大会はもう良いわよ」 
「ミサキ、許してくれるのか?」ラッセルの表情がパッと明るくなる。 
「ふふ、許さないわよ」私はにっこりラッセルに微笑んだ。 
「な?」 
 ラッセルは驚き目を剥いた。流れ的に許すになりそうな雰囲気だっただけに、ラッセルはショックだったみたい。 
 
「あは、冗談よラッセル。許すに決まってるじゃない。でも私、ドドメ色だから恥ずかしくて見られたくないの、閨では当分の間、目隠しとロープよろしくね」 
 クスクス笑いながら、半分からかい、半分当て擦りで言うと「……当分、目隠しと……ロープなのか?」ラッセルはこの世の終わりのような絶望した表情をした。 
  
 そうよね、ラッセルも人間の女に目隠しとロープされ一方的に搾るのは屈辱的よね。領主として、男の沽券に関わる問題だろう。

 うーん、旦那以外と肌を合わせること自体に抵抗があるのに、ラッセルは若い男獣人で肉食獣で牙も爪も鋭い。閨で本気で襲われたらと考えると正直言って恐怖しかなく、ロープで縛らない選択肢などないんだけど……。 
  
 目隠しだって必須アイテムよ、若い頃に比べておっぱいは垂れてるし、体は重いし……ううっ、せつなくなってきた。
 ハリーさん私の陰部、ピンク色に近いドドメ色だって言ってた……はあっ、やっぱりドドメ色なのよね?……見られたくないわ、どうしよう?妥協点を探さないと。
 
「ラッセル、毎回、目隠しとロープは嫌よね。はあっ~、いっそラッセルがM男だったら良かったのに…」   
「M男?」 
「女の人に虐められて性的に興奮する人のことよ」 
「お、女は、守り慈しめと習った……その女に、虐められるなど想像がつかん」至極真面目なラッセルの言い方。  
  
 ラッセルのいじめと私の言ってるいじめの意味が微妙に違うような気がするけど……女性の体の弱い竜の背では、女の人から責めること自体が珍しいのかもしれない。ラッセル、フェラチオで、もの凄~く吃驚してたものね。 
 
「想像つかないみたいだから、具体的に説明するわねラッセル」 
「ああ、頼む」 
「女王様みたいな女の人に目隠しされて、ロープで縛られた後、鞭で打たれ、蝋燭垂らされ、踏みつけられたり、痛めつけられることに興奮して、ちんこ勃てちゃう男性のことよ」 
 
「……………………なっ!……お、俺は、違うぞ!痛めつけられて興奮なぞしない!」 
 グルルっと牙を剥き出しラッセルが怒鳴った。肉食獣の怒りに本能的に萎縮する。 
 
「ちょっと、わかってるから、怒鳴らないでよ、怖いから。………ラッセルがM男だったら、喜んで目隠しや縛らせてもらえたのにって、思っただけよっ」 
 
「喜ぶわけないからな……………ミサキは…人間の世界で女王様だったのか?」  
 
「違うわ、色んな意味で女王様じゃないからね。普通の一般人よ。人を痛め付ける性癖もないから安心して」 
「………女王様じゃないのか…」 
 何で少し残念そうなんだろうかこの獣。やっぱりそっちの趣味あるのかしら。 
 手の中の円筒を弄びながら、軟膏の御礼を忘れていたことに気付きラッセルに感謝を伝える。 
 
「ミサキの痛みや腫れが酷いなら、今からでも、ハリー先生の診察を受けれるように手配するが?」 
 
「は、ハリー先生の診察……」 
 ラッセルが心配して受診を勧めてくれたの解る。だけど、診察なんて受けたら、裂けた部位は何センチか測らせて下さいって言われそうね……嫌な汗が流れ、どっと疲れがでた。 

「ラ、ラッセル気持ちはありがたいけど、今は痛くないから大丈夫よ。それより、疲れたから休みたいわ」 
 私の疲労を感じとったのか、ラッセルは無理に診察しろとは言わなかった。 

「明日から徐々に休暇中の獣人たちが帰って来る。皆には、ミサキは俺の客人として、紹介するが良いだろうか?」 
 
「客人ね……立場的には情婦か妾よね?」 
 人間の孕み人が領主の保護下で、閨を共にし子作りする、誰が見ても客人じゃないだろうに…。 
 
「……ミサキが竜の背で暮らすうちに、もし大切な者、やりたい事が見つかったとき、領主の物のレッテルがあると動きにくいぞ。……客人なら子が出来なくても責められん……子作りに振り回され泣く女を俺はもう見たくないんだ……」 
 酷く辛そうなラッセル、不妊で傷ついたのは奥さんだけじゃなくラッセルもだったのね。 
 
「ありがとうラッセル……私に逃げ道を作ってくれて」 
 今は失った生活が大きすぎて考えられないけど、ラッセルの気づかいは素直に嬉しい。
 
「でも、子作りしても子どもが出来なかった場合、死を戻されるのかしら?」 
   
「子が出来なかった前例がないからな……竜の目様に手紙で御目通りをお願いする。竜の目様から竜神様に直接お伺いしてもらおうと思っている」  
 
「…ラッセル私も一緒に行きたい。………自分の生き死にだし、竜の目様にきちんと会ってお願いしたいの」不本意で子作りをするんだから、せめて死にたくないわ。 
 
「竜の目様に…一緒に会いたいか………ミサキは人間だ、深い意味はないんだろうが……」ラッセルは深くため息をつくと「………わかった、共に行こう。だが湖は障気が濃い日は魔物が出る、覚悟しておけ」と牙を出しニヤリと笑った。
 
「ま、ま魔物が出るの?」平和な日本人国民な私は、魔物相手に足手まといにしかならなそう。
 
「ふん、俺が居るからな、湖の魔物に遅れはとらん。それに護衛もつける。大丈夫だミサキを守る、心配するな」 
 腕っぷしに自信のあるラッセルに連れられ、竜の瞳様に会いに行くことが決まった。




 ◇◇◇


 
 ラッセルが退室し、代わりに入室した、カンタさんが夕食の後片付けをしてくれた。お皿を割り、残飯を溢しながら……明日から自分で片付けようと心に誓った。 
  
 慌ただしい時間が終わり、知らないベッドに1人、横になる。 
  
 たった1日で全て変わってしまった……もう、戻れない……会えないんだ――。堪えてきた気持ちが溢れた。
  
 娘の千鶴は旦那に似てしっかりしてる、私がいなくてもちゃんと看護大学を卒業して優しい看護師になるだろう。白衣姿見たかったな…。 
 
 旦那は最近太り過ぎて、血圧高いから心配だわ……。 

 ポタポタと涙が溢れる。大切だった、当たり前に側にあった。愛おしい時間。 
  
 いつしか嗚咽を漏らし、私は号泣した。悲しい、苦しく、痛い。体の水分が全て出ちゃうじゃないかって思うほど、涙は止まらない。瞼が腫れて喉が掠れても、吐くほど泣いて―――いつの間にか、疲れていた私は寝てしまった。 

――誰かの手が私の頭を優しく撫でてくれたような気がした。そして腫れた瞼の上が冷たくて心地良い。 
 
 朝、高くなった日の光で起きると、重怠い体の瞼の上に生温くなったタオルが置かれていた。 

「が、ダオル、ごえ、びどっ」 
 自分のがらがら声に驚きつつ、白いタオルを眺めた。 
 誰かしら?勝手に部屋に入って来たのは頂けないけど、夜中に大号泣した私を心配してくれたのね。 
  
 心が少しほっこりして、誰がいないかと部屋のドアを開けると、ドアの直ぐ真横にラッセル、ジャミさん、カンタさんが待っていたかのように立ち尽くしていた。 
   
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