陰キャ系ぐふふ魔女は欠損奴隷を甘やかしたい

豆丸

文字の大きさ
上 下
13 / 14

娼館での一夜① 

しおりを挟む
 
 
 町外れの最高級の娼館に到着した二人は揉み手の支配人に豪華な部屋に案内された。  

 「……サクヤ、娼館に用事があるのか?此処にも生体義装具の顧客がいるのか?」 
 お泊まりと聞きホテルに直行かと考えていたギイトは出端を挫かれ、サクヤに尋ねた。

「ぐひ、ありますよ。楽しみですね」
 
 サクヤとギイトはふかふかの白い毛皮を敷いた大きなソファーに腰を掛けた。
 
 娼館『宵の華』は、本来奴隷が入館出来ない敷居の高い店だ。
 軍が喉から手が出るほど手にいれたい『魔装具の隻眼騎士』と、生体義装具の商人で大金持ちの『時渡りの魔女』を上客にしたい支配人は二人を歓迎してくれた。
 ご挨拶にとサクヤが金貨の入った袋を魔導人形に10つほど運ばせれば、支配人は目の色を替えた。

「この娼館1の美女をつれて参ります!お待ち下さい。お部屋も食事も最高級な物を直ぐに準備いたします」
 
「支配人、マリアは今へそを曲げていまして」 

「いいから、早く連れてこい!」
 従業員は支配人を叱咤した、哀れな従業員は大慌てで部屋から出て行く。支配人は揉み手のまま低姿勢で二人に謝った。 

 しばらくすると廊下から人の揉める声とコツコツと高いヒールを踏む靴音がした。

「嫌ですわ!わたくしは、奴隷の相手なんてしませんわよ」高圧的な女性のヒステリックな声が響き渡る。 

「申し訳ありません。奴隷といえどギイト様のお相手が出来ることは幸運です。少しお待ち下さい!」
 青い顔をした支配人が廊下に飛び出ていった。 

 部屋の外から女と支配人の言い争そう声が聞こえるが、ギイトの耳には届かなかった。 

 ーー今、支配人は俺の相手と言わなかったか?
  
 まさか、俺に娼婦をあてがうつもりなのかっ! 

 腹の奥から湧く怒りにかっと目の前が赤くなる。

「どういうつもりだ?サクヤ」 
 隣に座るサクヤの腕を軋むほど強く掴んだ。

「い、痛たたたっ。ぐひぃ、折れますよ離して下さい~。ぐふふ、美女が待ちきれないのですか?落ち着いて下さい」 

「っ、サクヤ……俺は」「お待たせいたしました!!」
 ギイトがサクヤに告げる前に部屋の扉が大きく開かれた。

「この娼館1の娼婦のマリアです。ほらマリア!『魔装具の隻眼騎士』のギイト様だ。早くご挨拶しなさい」支配人に腕を引っ張られた女が部屋に入ってきた。

「始めましてマリアです」 

 頭を下げる女は確かに美しかった。
 燃えるようなうねる赤髪に、同じ色の気の強そうな瞳、男好きのするぽてりとした唇にすらり整った鼻。体の凹凸を強調するぴったりとした真っ赤なドレス。
 大きく空いた胸元から溢れんばかりの豊かな膨らみと括れた腰に肉付きのよいお尻は男の官能を大いに揺さぶる。
 
 ただ一つ彼女に足りないとしたら、それは若さだった。下級貴族だった彼女は若さと美貌を武器に権利を持つ男を渡り歩いて悠々自適に遊び暮らしてきた。武器の一つだったそれが失くなり、美しさに陰りが見え始め軍の上層部の男の愛人だったマリアは焦った。焦った彼女は男の本妻を排除し、後釜に収まろうとして男の怒りを買い平民に落とされた。そして娼館に売られてしまった。一年半前のことだっだ。
 
 以来、目の下の隈を肌のくすみを化粧で隠し、若作りをし娼婦を続けてきた。全ては条件の良い金持ち男に自分を身請けさせるためである。
  
 奴隷男の相手と聞いてマリアは難色を示していた。だが廊下で支配人から相手がポンと金貨10袋を払える財力があり、しかも今巷で有名な『魔装具の隻眼騎士』と聞いて、気が変わった。
 寧ろ、自分の太客にしてやると意気込んだ。 

「先ほどは失礼いたしましたわ。有名な『魔装具の隻眼騎士のお相手とは思いませんでしたの。精一杯勤めさせて頂きますわ」 
 
「……お前っ」
 
 マリアは艶やかに微笑むと、顔を凝視するギイトの隣に腰を掛けるとしなだれかかり太い腕に豊かな胸を押し付けた。 

「ぐふふ、ギイト良かったですね!むしゃぶりつきたくなるような美人さんですよ」
 何故かサクヤか目を輝かせて、感嘆の声をあげた。 

 ギイトは下を向き奥歯をギリギリと噛み閉めた。拳は固く握られ何かに耐えているように見えた。

「ぐひ……ギイト?」

「まあ、照れていらっしゃいるのね?うぶなお方。うふふ、忘れられない素晴らしい一夜にいたしますわ。さぁ、行きましょう」  
 
 急かすように腕を絡めたマリアをギイトは突き飛ばした。マリアは大理石の床に尻餅を付いた。 

「きゃぁ、何をなさいますの?」 
 
「…お前と忘れられない素晴らしい一夜はもう過ごした」ギイトはソファーから立ち上がりと恐ろしい顔でマリアを睨んだ。 


「ひっ、ギイト様何をおっしゃいますの?わたくしたちは初対面ですわ」 


「……忘れたのか?奴隷商の前で俺に散々鞭打ちし、他の奴隷に掘らせた。醜い欠損奴隷は地を這うのがお似合いと楽しそうに笑っていたな」 

「え?……まさかあの時の見世物の奴隷が…」

「そうだ俺だ……本当にお前を抱いて良いのか?因果応報だ。お前がしたことと同じことをしてやるが」 
 ギイトがニヤリと不気味に笑った。 

「ひぃぃーっ、ごめんなさい!ごめんなさい!許してください。そんなつもりなかったの」 
 マリアは自分の所業を思い出したのかガクガク震えるとその場で泣き崩れ土下座をした。 

 呆気にとられる支配人にギイトははっきり言った。 

「俺に娼婦この女は必要ない。ただ部屋を一晩貸してほしい」
 
 ギイトは言うが早いか隣に座るサクヤを荷物のようにひょいと肩に担いだ。

「ぐひ、ギイトっ!なぜ抱えるんですか?もったいない。別の娼婦に替えましょうよ」 

「……少し黙れ」
 喚くサクヤを抱えたまま従業員に案内され最上階の客室に消えていった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...