陰キャ系ぐふふ魔女は欠損奴隷を甘やかしたい

豆丸

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その魔女危険につき②

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 チロチロ……と、滑るナニかが足の欠損部の皮膚の上を這う。醜く癒着しぼこぼこした皮膚を労るように優しく温かく包まれる。中途半端に残された骨を探るように慎重に。
 
 酷く熱を帯びた柔らかく滑るナニか。
 粘液がぬめり、不快などころがくすぐったいような……気持ちいいような不思議な感覚。
 
 ーーんっ。はっ。

 ギイトは、思わず艶めいた息を吐いた。
 その直後、「ぐふ、ぐふっ、はぁはあ、気持ちいいんですか?滾りますっ」と、耳障りな女の声が聞こえた。 

 驚き閉じた目を開ければ、ギイトは天蓋付きの大きなベッドに横たえられていた。
 体の下に敷かれたのは初めて感じる上質なシーツの絹のような肌触り。
 体は綺麗に浄められローズマリーの石鹸の香りが仄かに漂う。気を失ってから全身を洗われたようだ。皮脂とフケまみれの髪も光沢を取り戻していた。

「はぁ、はぁっ……気が…ペロペロっ。ぐふ、ついたんですか?」
 視線を下げると、足元に陣取った魔女が欠損した太腿の切断面を舌で舐めていた。
 黒い瞳を潤ませ、うっとりと陶酔した恍惚の表情で。
 もう、それはベロベロベロベロと執拗に。ソコにバターでも塗ってあるんですか?と、問いただしたいぐらい熱心に。執拗に。

「うわあぁーっ!お前何してるんだっ」
 ギイトは絶叫した。戦場でもあげなかった大きな悲鳴。
 
「何って?ぐふ、愛でているんですよっ!はぁぁ、この~皮膚の緩みきった、たぷたぷ加減が溜まりませんね~」
 ひきつり癒着し厚みの増した部位をねっちょりべったり舐められた。

「ーーーっ、ひっ!!止めろっ」
 滑る舌が気持ち悪い、はあはあと吐く息が生温かく皮膚をなぶり気持ち悪い。いやそれ以上に体の上に乗りぐふふ、笑う魔女の存在が気持ち悪い。
 得体の知れない生き物に対する純粋な恐怖。忌み嫌われる欠損部を舐められ続ける嫌悪感。それらが一体となってぞぞぞっと背中を走った。ギイトは片足でシーツを蹴り逃げ出そうともがいた。
 しかし、魔女がそれを許してくれる筈もなく、太腿をがっしり固定され舐められ続けた。

 
 ーーどれ程の時間、舐められていたのか解らない。やっと、舐めら過ぎてふやけた皮膚から顔を上げた魔女。口の周りにべったりついた自らの唾液を拭うと満足そうにニタニタ笑った。

「ギイトの皮膚の味、臭い、熱、感触、形、成分……きちんと覚えましたからね~。ぐふ、えふっ、楽しみに待っててください」
 
「………ぐっ」
 長く緊張感を強いられたギイトはぐったりとベッドに力なく横たわる。

 舐める時間は終わったようだ。だが、これからこの魔女に何をされるのか?
 生きたまま、喰われるのか?性的に襲われるのか?底の知れない魔女に何をされるか?不安が腹の底から冷たく押し寄せる。
 
 ただ、瞳だけは光を失わずサクヤを睥睨した。憤怒の炎を宿した瞳が負けぬと不遇の運命に抗うかのように強く、強く。 

「ぐふふ、鋭い視線だけで何度かイケそうですげど。げふん……お楽しみは今度にして、そろそろ夕食にしましょうか?」
 股間を抑えモジモジしながらサクヤは、廊下に控えていた魔道人形を呼ぶ。顔の無い気味の悪い人形に、両脇を支えられ引きずられるようにギイトは食堂に運び込まれた。

 

 高い天井の食堂。
 大きな丸テーブルにはギイトが今まで見たことのない豪華な食事が用意されていた。
 
 七面鳥のローストチキン、魚の包みパイ。野菜たっぷりポトフ、ギイトの顔より巨大なピザには大きな海老が乗っていた。
 白い丸い柔らかそうなパン。ギイトは思わず生唾を飲み込んだ。そういえば食事をしたのはいつだったろう?
 
 飼料用の米を煮詰め、水で薄めた粥にグズ野菜が入った食事。際下級の奴隷のギイトには、それが1日1回貰えれば良い方だった。それすら難癖をつけられ与えられない事が多かったが。
 
「ぐふ、ぐふ。さぁ、食べましょう」

 魔道人形に食堂の椅子に座らされたサクヤに食事を勧められてもギイトは、戸惑い動けない。
 奴隷と同じ食卓で食べる主人など居ない。しかも主人と同じ食事など……。

 これは…罠だ!
 目の前に御馳走をちらつかせ、俺が口を付けた瞬間に罵倒し鞭打ちする腹積もりだ。なんと卑劣な魔女だ。
 
 これ見よがしに、ギイトの前に置かれたスプーンとフォークが忌々しい。魔女に投げつけてくれようか?
 ギリギリと歯を噛み締めたギイトを黒い瞳が不思議そうに見ていた。 

「ん?食べないのですか?
 美味しいのに?あっ!片手では食べにくいですよね?ぐふ、気付かなくてすいません」
 サクヤは嬉しくてたまらないと言わんばかりにぐふ、ぐふ笑いながら、自分のフォークに取り分けた肉を刺すとギイトの口許に差し出した。 

「……何のつもりだ」

「ぐふふ、欠損奴隷の健康管理も主人の仕事ですからぁ。仕方ないので主人のあたしが食べさせてあげます」
 仕方がないと言いながらも、嬉々とし気持ち悪い笑みを張り付けたまま、頑ななギイトの唇に肉を押し付ける。 

「ぐっ」 
 香ばしい肉の臭いが鼻孔を刺激する、反射のように唾液が口の中を満たす。

 旨そうだ……。

 ちらり魔女に目をやれば、ニチャァと気持ち悪い笑み。

 やはり罠か?毒入りなのか?
 
 警戒するギイトを心配そうに除き込む魔女は、大袈裟に捲し立てた。 


「毒なんか入ってませんよ。食事に混入するなんて、そんな卑怯な真似はしません。ぐふ、その時は正々堂々と正面から飲ませますから、安心してください」
 全く安心出来ないことを宣言しながら、更にぐいぐい肉を押し付ける。 

「う、ぐ……ぐっ」
 押し付け過ぎて、肉から肉汁が溢れギイトの首筋を滴り床にこぼれ落ちた。 

「お肉嫌いなんですか?あっ!!もしかして……ぐふ、口移しをご希望なんですか?」
 器用にフォークを持ったまま、体をクネつかせる魔女は、とんでもないことを口走る。
 
「はあはあ、奴隷の健康管理のためなら仕方ないです」
 鼻息荒いサクヤはどうやら本気のようだ。ギイトの唇を凝視し、舌舐りする。
 
 得体の知れない魔女と口移しなど、酔狂なことはしたくない。ギイトは、イヤイヤながら口を開くことを選んだ。
 
「ーーーーっ!!!!」
 一口食べてカッと目を見開いた。この世のなかにこんなに柔らかい肉が存在したとは。
 口の中で蕩ける最高級の肉、濃厚なソースの深い味わい。あまりの美味しさにギイトは毒かも知れないことを忘れ夢中で飲み込んだ。

「ぐふふ、美味しいですか?たくさん作ったので、もっと食べて下さい」
 魔女はギイトの口許に次の肉を切って差し出した。その肉を迷うことなく、直ぐに口に入れたギイトを見て、サクヤは満足そうにニタアと笑う。ギイトが肉に気を取られ魔女の顔を見ていないことが幸いだった。
 
 結果……ギイトは、魔女に餌付けされ御馳走を完食したのだった。
 


 食事のあと、魔道人形に連れて行かれたのは魔女の寝室だった。
 天涯付きのベッドは黒一色。同じく黒い壁には巨大な一対の斧、鋭利なナイフと無数の山羊の頭部の骸骨が飾られていた。
 部屋の大半を埋め尽くす本棚。その棚に一緒に置かれて居たのはアンモニア付けにされた蛇の瓶。天井からぶら下がるのは、乾燥した蝙蝠。ドアの両脇には内臓剥き出しの人体模型が二体無造作に立ち尽くしていた。
 
「…くっ…あれは最後の晩餐だったと言うわけか?」
 なんて性格の悪い魔女だ、良い思いをさせて安心しきったところを恐怖に落とすつもりだったようだ。
 これから壁のナイフで俺を突き刺し、斧で切り落とすつもらしい。
 油断した自分が馬鹿だったとギイトは震える拳を握りしめた。

「ぐふふ、さぁさぁ寝ましょうか?」

「………クソが」
 痛めつけながら性交するタイプのクソ女か?
 残った手足で抵抗するも、魔道人形にベッドに投げられた。ふかふかベッドに巨体が沈む。

 せめて……相手の喜ぶ反応だけはしてやるものか!ギイトは奥歯を強く噛み震える自分を鼓舞した。
 
「ぐふ、寒いですか?兎のようにプルプル震えてますね。奴隷が風邪をひいたら迷惑なので、仕方ないので主人のあたしがくっつくてあげますよ」
 いつの間にか黒いワンピースタイプの寝巻きに着替えた魔女は、ベッドに上がる。
 そして、戦々恐々するギイトにぴったりと寄り添うと肩まで毛布をかけた。

「ぐふふ、おやすみなさい」
 ギイトに寄り添った魔女は、目を閉じると寝息をたて始めた。
 
 小さな魔女の手が不埒にギイトに触れる……ことなく自身の頬の下に置かれていた。 

「はっ……?本当に…寝たのか?」
 絶対にベッドで何かされると思っていたが?
 肩透かしにあい、ギイトは不信に思う。
 
 そっと魔女の寝顔を伺う。思ったより幼い顔立ち。眉毛は薄いが長い睫毛に形の良い鼻。小さな赤い唇。美女と言えないが、顔立ちはそのものは悪くない。
 
 欠損奴隷の俺をわざわざ買ったのだ。欠損部分を舐めるだけで終わるはずなどない。
 無害そうに見えるこの小さな頭の中にどんな性癖を隠しているのか?  
 
 今夜、油断させて、朝や明日襲うつもりかもしれない……。気を抜かないようにしないとだ。
 
 そう思ってはいたが、サクヤの穏やかな寝息と温かい体温に緊張していた体からだんだんと力が抜けていく………いつの間にかギイトも寝ていたのだ。

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