陰キャ系ぐふふ魔女は欠損奴隷を甘やかしたい

豆丸

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その魔女危険につき①

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 ーー素晴らしい奴隷を手にいれた。


 
 地底湖のような透明な青い片目。ぎろりと器用に動かし親の敵のように奴隷のギイトはサクヤを睨んだ。

「ぐふふ、悔しい?悔しいですか?あたしみたいな魔女にこれでもかって、好き勝手されちゃうんですよ?逃げたい?逃げたいですか?ぐふふ、良いですよ~逃げてもっ」 

「奴隷の首輪で俺を縛りつけ逃げたいだと?どの口がほざくのだ!」 
 屈辱に顔を歪める男に恫喝されても、ひるむことなくニタニタ笑顔を向けてボロボロの奴隷服を脱がす。
 その体には古い傷跡から血を滲む新しい傷まで見えた。全身傷だらけの筋肉質の体を剥き出しにされても、サクヤの細身を突き飛ばすことさえ出来ない。

(また、俺は踏みにじられるのか!?俺が何をしたと言うのだ?)

 悔しさか羞恥か血が滲むほど歯を喰い締める奴隷。彼は片目と利き手である右手の肘より先、そして左足の膝から下をトドキア戦争で失っていた。
 トドキア戦争、大陸中央の鉱山を巡る戦争。トドシアン国、キサーアル国の二国は血で血を洗う苛烈な争いを繰り返した。20年に渡る不毛な戦争で両国の国土の8割を焦土と化した。
 長い長い戦争に終止符を打ったのは新興国、タイソ帝国だった。
 多民族からなる帝国は圧倒的武力を持って疲弊していた両国を制圧し、王族を根絶やしにした。
 二つの愚かな国は地図上から姿を消した。後に残ったのは哀れな両国民だけ。彼らは帝国の侵略を粛々と受け入れた。まあ、抵抗する気力すら無かったとも言える。
 帝国は国民を奴隷と平民に振り分けた。
 戦争により体の一部を失っていたギイトは、罪人と勘違いされ否応なしに奴隷にされた。帝国では凶悪犯の体の一部を切り取る刑罰があったからだ。

 奴隷商にはした金で引き渡されたギイト。欠損の体では当然肉体労働は満足に出来ない。
 彼は珍しい欠損見本として奴隷館の前で客寄せの見世物にされた。
 客入りが少ないとお前のせいだとオーナーに殴打され、食事を抜かれ他の奴隷の慰み者になる。
 時折、欠損男を玩具にしたい酔狂な貴族女に1日買われ体を鞭打たれ痛め付けられる。後ろの孔を散々掘られた。不自由な体の上に乗られ、一方的に精を絞られることもあった。人としての尊厳を踏みにじられる屈辱的な日々。
 恥辱苦痛に耐え、血にまみれギイトはこの世を呪い、怨んだ。
 死んだ方が楽になれるだろう。歯を食い縛り、汚水を啜ろうとも。それでも、死ぬことはだけは望まなかった。死んだら負けた!屈辱にまみれても生きてやると。

「俺は、屈しないからなっ!!」 
 ギイトはとぐろを巻き自分を飲み込もうとする暗い絶望に負けぬように悪鬼のように叫んだ。

「あっ!ここも、あ!あそこもヒドイ傷ですね?ぐふ、ぐふ、昂ります」
 一方、サクヤは心底楽しそうに、ナメクジのように傷跡に指を這わす。そしてボロボロのズボンに手を伸ばすと下半身をあわらにさせた。くたりとした雄の象徴。何日もお風呂に入っていないすえた悪臭が漂う。
 
 大きく太く勃起していなくても、ただならない存在感があった。
 彼を性的に使役したい人間の雌と雄が存在したので、ここだけは不思議なほど傷つけられていなかった。下毛は乱雑に剃られてはいたが。

「おちんちんは、使うため綺麗なんですね?でも、お尻は?どうですかね?……くぶうっ、やっぱり使われちゃってますね」 
 そう言いながら傷だらけの後ろの孔をスッと撫でた。指先に僅かに赤色が付着した。

「くっ、止めろ!ゲスがっ!」

「ゲスなんて誉め言葉嬉しいですよ」
 
 不浄の孔に触れられても、身を捩るだけのギイト。夕べ最後に使ってやると奴隷館で散々なぶられたソコは鋭く痛む。
 突き飛ばし殴りたいが、逃亡防止と従属を兼ねた奴隷の首輪がご主人の魔女に危害を加えることなど許しはしない。主人の異に染まぬことなどしようものなら、針を指したような激痛が全身を苛むのだから。 

「ぐふぅ、太もも硬い!ぐへへ、筋肉も素晴らしいです……どれどれ少し味見を……んっ」
 
 右太ももをペロリと舐められ、不快感にギイトは拳を硬く握り耐えた。

「うわ、しょっぱい臭い。まあ、美味しくはないですね」
 勝手に味見をしておいて、口許を抑えサクヤは嬉しそうに感想をのべた。

「俺は奴隷だ。風呂になど入っていない!嫌なら触れるな」
 
 生意気だと殴られることを承知で、それでも彼は拒否を示した。体は蹂躙されようとも心まで明け渡さない。強い意思を瞳に込めて、睨み続けるギイトは瞬き一つしない。
 今まで屈服しない気高き魂が一部の歪んだ性癖を持つ人達の自虐心を大いに煽ってきた。結果苛烈を極める責め苦に繋がる。その事をギイトは知るよしもない。

「ぐふ、ぐふ、えぐりたくなるほど綺麗な目です」
 サクヤは長い前髪から僅かに覗く、黒い瞳でギイトを見上げた。サクヤは一目見て、ギイトの強い瞳を気に入ったのだ。もちろん、欠損した体躯もだが。

「……お前、えぐるつもりなのか」

「大丈夫ですよ!ちゃんと麻酔をして痛くないよう綺麗にえぐりますからね。ぐふ、ネックレスにして首から下げるのも一興です」
 恥ずかしそうにうっとりと頬を染めて言われた。

「止めてくれ悪趣味だ!」

「そんなに褒めないでぐださいな。ぐふ、照れますよ」
 本気で照れているのか、体をくねらせるサクヤ。抑えた口許から気持ち悪い笑い声が漏れ聞こえる。

 ぐふ、げふ、ぐふふふ。
 
(得体の知れない気持ち悪い虫を見ているようだ。こいつ…大丈夫なのか?) 

 若干どころか、引き潮のように心が引いていく。それでも逃げることも出来ないギイトは、裸に剥かれ、魔道人形に車椅子に乗せられると浴室に連れていかれた。 

 
 白いタイルを使った清潔感のある広い浴場。
 暖かな湯気の上がる湯船。魔道人間に湯船に押し込まれたギイトは、温かい湯が細かな傷に沁みて、顔をしかめた。不快そうに眉根を寄せる様子を見てサクヤは更に笑いを深めた。

「ぐふふ、ぐふふ。さぁ!さあ!その欠けた素晴らしい部位を見せてくださいなぁ」
 ねっとり言いながら、黒い魔女服のまま湯船にダイブしたサクヤ。黒い長い髪がベッタリと顔に張り付き、腰から下は湯にプカリと浮かぶ。目だけはギラギラ怪しく光り、口から呪文のごとく垂れ流すぐふふ笑い。禍々しさは、まるで伝説の海の魔物のようだ。

「なっ」
 怪異のような魔女に、恐怖耐性の強いギイトも腰が抜けかけた。戦争は経験しても魔物に遭遇するのは初めだ。逃げようと身動ぎすれば、湯船の底を支えていた手が滑り、頭から湯の中に沈んだ。水面に顔を出そうと焦るギイトの口から鼻から水が侵入する。
 残った手足で体を支えようとするが、もがけばもがくほど上手くいかない。空しく水を掻くばかり……。

 
 ーー苦しい。息が出来ない。俺は死ぬのか?
 
 思えば惨めな人生だった。 
 走馬灯のような駆け巡るのは戦争に翻弄され続けた自分。 

 ギイトが物心ついたときには既に父母は戦争で亡くなり、教会の孤児院にいた。
 そこは孤児院とは名ばかりで集めた孤児を兵士として厳しく鍛え、少年少女兵として戦場に送り込むいわば育兵場だった。人の温かさなど微塵もない場所。ギイトの他にも沢山の孤児が集められ戦地に送られた。血で血を洗う戦い、誰が敵だったか何人殺したか……もうわからない。爛れた片目から膿を出し、折れた腕を自ら固定し傷を酒で消毒した。ただ、生き延びるため無我夢中で。戦争が終わったとき、片目は見えず、右手と左足は壊死し切り落とすしかなかった。身体的、心理的に大きな傷痕を戦争はギイトに残した。
 
 ああ、寒い。苦しいっ。 
 嫌だーー俺は1人だ……孤独に死にたくない!

 無我夢中で無い腕をギイトは必死に伸ばす。その欠けた断面を誰かが温かく掴んだ。体が水から急激に浮上する。
 
 むせながら口から水を大量に吐き出した。
 た、助かった……のか?
 安心したギイトは昨夜の寝不足と疲労がたたり意識を手放した。

 
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