82 / 87
番外編① 休日はデート ~グレンさんと
しおりを挟む「行ってらっしゃい竜神様!」
「ベンダル様!くれぐれも竜神様をよろしくお願いしますね」
「お気をつけて下さい」
「あいやぃー!」
小さなお手手を大袈裟にフリフリ、竜神様はベンダル様に抱っこされ空に舞い上がった。
式典から一ヶ月、再び幼生体に変態した竜神様は、今日北の領地マホロロに勉学を兼ねて視察に向かった。
勉強は嫌だとごねる竜神様に特性3段弁当を持たせると、ご機嫌で出かけて行ったわ。
ベンダルさん、竜神様と沢山一緒に居たいのに、暗黒竜の後始末や東の領地のセナさんたちの援助、式典の準備で大忙しだったから、のんびり二人っきりになれるのは初めて。
厳つい顔が心なしか嬉しそうに見える。時折ギラリと情欲を滲ませて。
まだ……幼体だから襲わないと思うけど、ちょっと心配だわ。
まあ、ベンダルさんに釘は差したし、ああ見えて竜神様は強いから大丈夫だろう。
久しぶりに竜神様のお世話のない時間に、今後がみえた。
これから竜神様がもっと大きく成長し、お世話も必要無くなって私の手を離れていく……嬉しいけど、寂しい予感にきゅっと手を握り締める。
「グレン……今日は7番に行く予定でしたよね?外食も兼ねてマナツ様もお連れして下さい」
「確かに行く予定だが……おい、レイン。マナツ本人を連れて行って良いのか?」
「本人に見てもらった方が、早く決まりそうですし……」
グレンさんとレインさんが小声でなにやら打ち合わせをしていた。よく聞こえたのは、レインさんの7
番とか外食するということだけ。
何かの隠語?それとも番地かなにかかしら?
「あーっ、マナツ。町で用事があるから付き合ってくれ。マナツに毎日旨い食事を作って貰ってるからな、たまには町で昼飯を食おう!ご馳走させてくれ」
「町で……用事?外食?うーん……」
人混みは苦手だし、格式高いレストランは疲れそう。お弁当作りの後片付けもあるしと、迷っているとノコアちゃんが耳打ちした。
「マナツ様…デートのお誘いですよ!断っちゃダメですよ!」
「え?デートのお誘いなの?」
びっくりして大きな声を出してしまう。グレンさんを振り向けば心なしか頬が赤い。
「ああ、そうだ……俺とデートは嫌か?」
「そんな!嫌じゃないわ」
肩を落とすグレンさんを見て、慌てて首を降る。
「マナツ様、グレンは初デートなのでお手柔らかにお願いしますね」
穏やかそうに微笑むレインさんだけど、瞳の奥には面白そうと書いてあった。
本当にレインさんはグレンさんで遊ぶのが好きよね。
「そうだな…デートなら…」
「グレン、背伸びして普段行かないお洒落な店に行かないで下さいね。直ぐにボロが出ますからね!」
「ぐっ!」
グレンさんはレインさんににっこりと、釘を差されていた。
デートなんだから、着替えましょうと渋る私をノコアちゃんが着替えさせ化粧までしてくれた。
華美過ぎない清楚でシンプルなワンピース。色は綺麗な深緑色。
耳元で揺れる赤ちゃんの小指ほどの大きさの耳飾は薔薇の形。色はグレンさんの瞳の色と同じ紫がかったビロードのような赤。
「実は……つい先ほど、グレンさんからマナツ様に着けてくれって渡されたんですよ」
「グレンさんが……これを?……嬉しいわ」
小さくてさりげない赤が差し色になり、顔が明るく見える。目立ち過ぎなくて好感が持てた。
看護師という仕事がら、大きな装飾品は出来なかった。
離婚前、結婚指輪だけはしていたけど……。しかも自分で買った物。元旦那に後で出すからと買わされたっけ。
ふう。忘れよう……これからデートなんだから。
「前に、グレンさん独断でマナツ様に真っ赤なドレスを贈ろうとしてあっさり断られたので、今回はレインさんに相談したみたいですよ」
「……あれは、悪かったわ」
グレンさんが私にと用意してくれたのは、グレンの髪と同じ、炎のような真紅のドレス。着回すにはバツイチ、アラサーにはハードルが高かった。そして、驚くほど値段も高かったので、丁寧にお断りさせて返品して頂いた。
「この、耳飾りはとても素敵だわ……会ったらグレンさんにお礼を言うわ」
「お礼をするならグレン様の首を噛んで差し上げて下さい!!グレン様泣くほど喜びますよ!」
ゴニョゴニョとノコアちゃんに言われて、おもいっきり赤面した。
甘噛みプレイ?
ノコアちゃんって以外に大胆なのね。
その後、部屋に迎えに来てくれた、グレンさんに頭を下げお礼を言うと、「気に入ってくれたんだな!」と、嬉しそうに、はにかんでくれた。
ノコアちゃんが期待に満ちた顔で私を見つめるけど、グレンさんの首なんて噛まないから。
(泣くほど喜びますよ!)
ノコアちゃんの声が繰り返し再生されて。
グレンさんに喜んでほしくない訳ない……。
町へ向かう道中、ついつい綺麗な首に視線を注いでしまうのは許してほしい。
1
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
この世界で誰も彼もが手に持ち、そして振るう事が出来る魔剣。
火を放ち、水を吹き出し、雷撃を放つ様々な力を持ち、生涯ずっと共にあり続ける。
「なので私も魔剣であり、すべての敵を排除するためにご主人様その力を奉げるのデス!!」
「ちょっと待って、剣じゃないよね?見た目どう見てもメイドなんだけど?」
「‥‥‥そう、忠剣というやつなのデス!!」
「それは忠犬って普通言うよね!?そもそも犬でもないだろ!!」
‥‥‥あり続けるはずなんだけど、なんで彼女が俺の魔剣なのだろうか。
これは、ある意味不幸でありつつも最強の魔剣(?)を手に入れた者の物語である‥‥‥
―――――
「小説家になろう」でも掲載。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる