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虹の向こう側①
しおりを挟む深夜の時間帯のはずなのに、外は仄かに明るい。運び込まれる兵士も、もう居なくなった。
人々が眠れない夜を身を寄せあい過ごす中、私は神殿の入り口に佇んだ。
浄化の光が西の領地から広がるのをアーガストの全ての人々が目撃した。
暗黒竜を退治したはずなのに、竜神様、ベンダルさん、ブランドさんは未だに帰って来ない
帰って来ると誓ってくれたのに。
瀕死の怪我をしていたら。
不安で押し潰されそうな私に冷たい風が吹きつけた。
「マナツ、此処に居たのか?風邪をひくぞ」
グレンさんが肩にフワリと毛布をかけてくれた。自分も毛布を被ると私の隣にぴったり寄り添う。
「ありがとうグレンさん……竜神様を待っていたいの」
「お気持ちはわかりますが……女性に冷えは良くありませんよ」
レインさんが温かい紅茶を私とグレンさんに差し入れてくれた。
冷たい風に負けないよう三人で肩を寄せあい、空を見上げ続けた。
「おい、マナツ。早く起きろ」
いつの間にか眠ってしまった私は、グレンさんに揺すぶられ起きた。
「見て下さい西の空を!」
眠い目を擦り、レインさんが指差す方向を仰ぎ見れば、遥か遠くに飛んでくる二匹の竜の姿。
「え?一匹足りないわ……誰か後から来るの?」
嫌な予感に心臓が痛くなる。衣服の上からぎゅっ押さえた。
だんだん近づく竜、その鱗の色が否応なしにもわかった。
「竜の鱗の色は……紫と緑だ」
呆然とグレンさんが呟いた。
「ベンダル様とブランド様だけです……竜神様のお姿はありません」空を睨むとレインさんが残酷に告げた。
「竜神様は?居ないの?……そんな……嘘、嘘よねえ?」
頭を振って否定した。
涙が止めどなく流れ、力なく地面に崩れ落ちた。
グレンさんもレインさん何も言わない。ただ空を見上げ、ベンダルさんとブランドさんを迎え入れた。
竜から人型に戻ったベンダルさんは私に駆け寄ると深々と頭を下げた。
「すまない聖女マナツ。ソナタの献身を無駄にした」この世の終わりのような悲痛な顔。
「嫌です!聞きたくない!」
私は、泣きじゃくり耳を塞いだ。竜神様の最後なんて絶対に聞きたくなかった。
止めどなく涙を流す私の頬を生暖かいぬめるナニかが舐めた。
ペロペロペロと美味しそうに私の涙を拭うのは、懐かしい芋虫様だった。出会った時より更に小型化している。
「え?竜神様?」
驚きに涙が引っ込んだ。
「ギュロロローー!!」
涙をもっと寄越せとばかりに長いしっぽを床に叩きつける。
「……死んだんじゃないの?」
呆然とベンダルさんを見上げる。
「聖女マナツ、勝手に竜神様を殺すな!全ての力を使い果たし芋虫に戻っただけだ」
「芋虫に……戻っただけ?」
「今回は毒は吐きませんから安心です!聖女マナツ!貴女の聖なる力で1日でも早く、美女に戻して下さい!」
ブランドさんが期待を込めた視線を私に向けた。
竜神様が生きていて物凄く嬉しい。
でも……。
もしかしなくても、初めからお手当てやり直しなの?
……今までの苦労は……全て水の泡で。
また、オムツ、ミルクに寝不足の日々がやって来る。
体力もつかしら?
今度も隈の妖精になるの?
はあっと大きくため息をつく。
「また、俺たちがお手当てを協力するから心配するな」
「魔力譲渡は任せて下さい…三人で行いましょう」
私の肩にグレンさんとレインさんが手を置いた。
三人で行った魔力譲渡を思い出して顔が赤くなる。誤魔化すように頬を押さえると竜神様に向き直る。
「遅くなったけど、竜神様。お帰りなさい!無事とは言えないけど、生きて帰ってきてくれて嬉しいわ」
カサカサして干からびた小さい体を抱きしめた。
「ギュロン?」
抱きしめる私を竜神様は不思議そうに見つめる。
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